宇宙で最初の超新星がつくった、重元素の最も少ない星研究成果

「宇宙で最初の超新星がつくった、重元素の最も少ない星」 |
「宇宙で最初の超新星がつくった、重元素の最も少ない星」
1. 発表者
野本 憲一(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 教授)
岩本 信之 (1年前まで、理学部の学振特別研究員(PD)、現 日本原子力研究所研究員)
梅田 秀之(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 研究員)
冨永 望(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 日本学術振興会特別研究員(DC1))
前田 啓一 (東京大学大学院総合文化研究科 日本学術振興会特別研究員(PD))
2. 発表概要
東京大学大学院理学系研究科 (天文学専攻) の野本憲一教授、岩本信之研究員(現?日本原子力研究所)らを中心とする研究グループは、「最近 すばる望遠鏡によって発見された “重元素の最も少ない星”が宇宙で最初に誕生した第一世代の星であるかどうか」という論争に決着をつける研究結果を発表しました。
研究グループは、この星が极めて特异な元素组成を示していることに着目し、宇宙の第一世代の大质量の星の进化を计算し、それらが超新星爆発を起こして放出するガスの重元素の组成を推定したところ、この星で観测された特异な元素组成と见事に合致することを明らかにしました。すなわち、発见された星は、重元素をごくわずかだけ含むガスから生まれた第二世代の星であるということになります。
この研究により、第一世代の超新星の中には、知られているタイプの超新星とは违って、极めてわずかな量の鉄しか放出しないという特异な爆発机构を持つものがあり、问题となった“重元素の最も少ない星”は、そこから生まれた第二世代の星であることが明らかにされました。放出されなかった大量のガスは、爆発后中心部にブラックホールを形成したと考えられます。
研究グループは、さらに、この爆発の理论モデルによって、重元素の极めて少ない他の多くの星の元素组成も、统一的に再现することができることを示すことに成功しました。その结果、诞生直后の宇宙で、どのように星が形成され、元素の豊富な宇宙へと进化が进んでいくかというシナリオを构筑する上で、画期的な贡献をしました。
3.発表内容
宇宙で最初に辉きだした星は、宇宙のはじまりのときの大爆発(ビッグバン)で合成された水素やヘリウム、そしてわずかなリチウムだけを含むガスから生まれたと考えられています。つまり、我々のまわりに见ることができる多くの元素がまったく存在しないという特殊な状况であったのです。そのために、星が诞生するための条件も现在とは全く异なり、最初に生まれた星の大部分は太阳质量の10~100倍以上もある大质量の星であったと理论的に予测されています。しかし、その寿命は数百万年程度と非常に短かったために、现在では観测することができません。したがって、どのような大质量星が存在していたのか、また、最初に生まれた星の中に太阳やそれより軽い星はなかったのかという疑问に対する答えはまだ得られていません。
これらの疑問に答えるための手がかりを与えてくれる天体は、宇宙初期から現在まで生き残っており、なおかつ重元素をほとんど含んでいない軽い星です。これに対応する天体として、赤色巨星HE0107-5240とごく最近発見された最も鉄組成(注1)の少ない準巨星(または主系列星)HE1327-2326(注2)という二つの星が知られています。発見当初よりこれらの星が、第一世代の軽い星であるという可能性が指摘されてきました。それは、第一世代星であっても、現在までの長い生涯の間に星間空間や連星系を形成していればその伴星から星表面に重元素が降り積もり、わずかながら重元素を含む星として観測される可能性があるからです。一方で、これらの星は少量の重元素により既に汚染されたガスから生まれた第二世代の星である可能性もあり、この議論には決着がついていませんでした。そこで、東京大学大学院理学系研究科 (天文学専攻) の野本憲一教授、岩本信之研究員(現?日本原子力研究所)らを中心とする研究グループは、この議論に決着をつけ、“重元素の最も少ない星”の起源を明らかにするため、これら二つの星に見られる特異な元素組成に着目しました。これらの星はいずれも太陽での組成と比べて、鉄組成が10万分の1以下と非常に少ないことや炭素組成は1万倍も多いという共通点を持っていました。しかしながら、これら二つの星の間で、ナトリウムやマグネシウム組成では10倍、窒素組成については100倍ほど異なるという相違点もありました(図1)。これらの特異な元素分布を同じシナリオで再現することによって“重元素の最も少ない星”の起源や宇宙最初の星についての重要な知見が得られると期待されます。
研究グループは、大质量星が进化の最期に引き起こした大爆発-超新星爆発(注3)の际に、星の中心付近から内部の広い范囲に亘って大规模な混合が起こり、その后、爆発したときに解放されたエネルギーが比较的小さかったために、混ぜられた领域のほとんどは星间空间に放出されることなく、强い重力のために中心天体として残されるブラックホールに落下してしまうというモデルを提案しました(注4、図2)。今回、このモデルをさらに検讨することにより、太阳の25~40倍の质量を持ったモデルが二つの星で见られる微少な鉄组成と豊富な炭素组成を持つという特徴を再现し、さらに爆発エネルギーのわずかな违いがナトリウムやマグネシウム组成の违いを作り出しているということを世界で初めて明らかにしました(図3)。そして、窒素组成に见られる大きな差は、星の自転速度の违いによって生じた结果であることを示しました。一方、重元素の少ない二つの星は豊富な炭素?窒素组成を持っていますが、これらの星が第一世代の星であるというシナリオでは、その窒素に対する炭素の比が太阳と同程度であることを説明できないことが分かりました。
この研究により二つの星は、重元素が非常に少ないものの、第一世代の星ではなく第二世代の星であり、その原料となったのは、先行する第一世代の大质量星が超新星爆発を起こして放出した、重元素をわずかに含むガスであったと判明しました(図4)。
この超新星は爆発エネルギーが比较的小さいため、鉄の放出量が着しく少なく、爆発の明るさは典型的な超新星に比べて非常に暗かったと予想されます(注5)。现在でもその暗さのために、まだほんの数例しか知られていませんが、似たような「暗いタイプの超新星」が観测されています(注6)。しかし、“重元素の最も少ない星”を作った超新星が放出した鉄の量は、现在観测されている「暗いタイプの超新星」の100分の1であったと推定されるため、新种の「非常に暗い超新星」であった可能性があります。一方、二つの星に比べて鉄组成が10~100倍ほど多い天体も観测されており、これらは上记と同様の爆発机构により现在见られるタイプの「暗い超新星」によって作られたと考えると统一的に第二世代星として解釈することができます。
今回の「非常に暗い超新星」と「暗い超新星」の违いがなぜ现れるのかはいまだに谜であり、これらの中间の超新星も存在するのか、などの疑问に答えるためには、すばる望远镜などによる更なる観测结果が期待されます。
(注1)鉄组成については水素组成に対する比を、その他の元素の组成に
ついては鉄组成に対する比を表しています。
(注2)Frebel, 青木 et al. (2005) として英科学誌Natureに掲載。
(注3)超新星には大きく分けて二种类ありますが、ここで考えているのは、その中の
一つのタイプ、重力崩壊型超新星です。重力崩壊型超新星とは、
太阳の10倍以上の重さの大质量星が进化の最期に大爆発したものです。
爆発の直前には中心部に鉄を主成分とした核ができていますが、この核は强い
重力を支えきれずに崩壊してしまい、中心に中性子星またはブラックホールが
形成されます。中心核の崩壊に伴い大量の重力エネルギーが解放され、
星の中心部で外向きの衝撃波が発生します。それが星の内部を燃やしながら
表面へと进んでいき星を吹き飞ばしますが、爆発后の中心には中性子星や
ブラックホールが残ります。
(注4)梅田、野本(2003)として英科学誌狈补迟耻谤别に掲载。
(注5)爆発の明るさは放出された不安定なニッケル-56(狈颈56)の放射性崩壊
(狈颈56→颁辞56→贵别56)により発生する热によってまかなわれています。
(注6)暗いタイプの超新星のプロトタイプとして超新星厂狈1997顿が挙げられます。
この超新星によって放出された鉄の量は典型的なもの(太阳质量の0.07倍程度)
の1/30しかないと考えられています。
4.発表雑誌
この成果は6月2日付けの米国科学誌Science オンライン速報版に
「The first chemical enrichment in the universe and the formation of hyper metal-poor stars」というタイトルで掲載されます。
5.注意事项
解禁日は、2005年6月3日(金)午前3時(日本時間)
(2:00 pm Eastern Time Thursday, 02 June. アメリカ東部時間で6月2日午後2時)
6.お问い合わせ先
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 教授
野本 憲一
Tel: 03-5841-4255 (オフィス)
Email: nomoto@astron.s.u-tokyo.ac.jp
(6月5日までヨーロッパ出張のため、email となります。問い合わせに対する直接的 説明は6月6日以降になります。それ以前の問い合わせは、主として、下記 岩本にお願いします。)
日本原子力研究所 エネルギーシステム研究部 核データセンター 研究員
岩本 信之
Tel: 029-282-6825 (オフィス)
Email: niwamoto@ndc.tokai.jaeri.go.jp
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 研究員
梅田 秀之
Tel: 03-5841-4262 (オフィス)
Email: umeda@astron.s.u-tokyo.ac.jp
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 日本学術振興会特別研究員(DC1)
冨永 望
Tel: 03-5841-4267 (オフィス)
Email: tominaga@astron.s.u-tokyo.ac.jp
東京大学大学院総合文化研究科 日本学術振興会特別研究員(PD)
前田 啓一
Tel: 03-5454-6618 (オフィス)
Email: maeda@esa.c.u-tokyo.ac.jp
7.添付资料
図1:贬贰1327-2326(赤点)と贬贰0107-5240(青点)の元素组成分布と理论モデルによる再现结果(実线が前者、破线が后者に対応する)との比较図。
図2:超新星爆発のときにニッケル Ni56(放射性崩壊により鉄 Fe56 となる)などの 中心付近で合成された元素(図3参照)は大規模な混合(左図の赤い破線より内側の領域)によって外側へ運ばれるが、混ぜられたすべての領域が星間空間へ放出されるのではなく、そのうちのほんの一部だけが放出され、残り(右図の青い実線より内側)は中心に落下してブラックホールを形成する。
図3:中心の重力崩壊に伴って発生した衝撃波が、星内部を通过したときに起こった 爆発的元素合成によって作られた元素の分布図。図の上部にはそれぞれの星の元となった超新星において、大规模混合が起きた范囲を示してある。放出された鉄の量は太阳质量のわずか10万分の1程度である。
図4:ビッグバンで合成された水素(贬)、ヘリウム(贬别)、そしてわずかなリチウム(尝颈)だけしか含まない始原ガスから第一世代の大质量星が诞生した。この星が进化し、超新星爆発を起こすことにより、炭素(颁)や鉄(贵别)などの様々な重元素が星间空间に放出された。これらが周りの始原ガスと混ざり、第二世代の星が形成された。