経済学を土台とした地域研究による分析を途上国の贫困层の生活向上につなげたいと思い、「スモーキーマウンテン」のようなフィリピンのスラムを研究してきた中西先生。
现地の川での排便体験を発端に川の清浄化と有机农业推进の両方を狙って进めた试みを绍介してもらいました。
地域研究&迟颈尘别蝉;排泄
ウンコが键を握るスラムの环境保全と贫困缓和
中西彻
NAKANISHI Toru
総合文化研究科 教授
スラムの屎尿を堆肥に活用
1980年代半ば、マニラのスラムに住み込み调査を行っていた大学院生当时の私にあてがわれたのは川辺の公众トイレ、廃材で作られた掘っ立て小屋でした(ホストファミリーの皆さんは古纸に汚物を包み川に捨てていました)。トイレといっても便器はなく、板の隙间から排泄物を川に落とす仕组み。用を足して下を见ると、太ったティラピアという鱼が口を开けています。すぐ近くではこの鱼の渔が盛んでした。まさに循环経済です。
しかし、川はヘドロだらけ。川に落ちれば悪臭が取れず、犬や猫の死体も浮かんでいて、感染症の大きな要因となっていました。贫困层は环境劣化の被害者でも加害者でもあります。一番の问题はトイレだと考え、1999年から东京工业大学や北海道大学の先生方とともに、屎尿を有効利用するプロジェクトに参画しました。
フィリピンは、1960年代半ば以降にアジアを席巻した「緑の革命」という农业技术革新の中心地でした。品种改良と化学肥料と农薬の投入で生产性を上げるものです。短期的には収量が上がりますが、长期的には土地が痩せたり、农薬祸がもたらされたりします。私たちは、人々の屎尿を堆肥にすれば、川の浄化と有机农业推进に役立ち、贫困の缓和につながると考えたのです。
ただ、屎尿由来の堆肥は、东アジアではなじみがありますが、当地では忌避の対象。初めは「人粪で育てた野菜をあなたは食べられるのか?」と言われ天を仰ぎましたが,働きかけを続け、やっと政府に认めてもらえました。屎尿由来の堆肥は臭くないと実感してもらえたのです。
高温多湿は発酵に好适
2001年、他の研究者とともに官公庁が并ぶケソン市の公园に搅拌装置付きバイオトイレを设置し、屎尿を発酵させる试みを始めました。通常、この种のトイレだと発酵を促すために加热の必要がありますが、暑い地域では少しかき混ぜれば十分。バイオトイレは高温多湿の东南アジアに向いています。しかし、その矢先にフィリピンの政権が突如交代。役所の担当者が総入れ替えとなり、资金も途絶えてプロジェクトは顿挫しました。
さて、いまやタイの平均余命は约77歳ですが、フィリピンはいまだに约70歳。スラムでは多くの方が60歳未満で亡くなります。死因ではがん、高血圧、糖尿病などの狈颁顿蝉(非感染性疾患)が多くなっています。スラムでは食の质が悪く、脂质や糖分が过多となる倾向が强いのです。米の食べ过ぎや、当地の清凉饮料水やコーヒー饮料の甘さが影响しています。その意味でも、屎尿由来の堆肥が化学肥料同様に窒素过多になるのには注意すべきです。放っておくと人体によくない硝酸态窒素が生じるからです。
政権交代で忧き目を见ましたが、贫困层のトイレはいまも大きな课题です。そして昨今、厂顿骋蝉の影响もあって世界的に有机农业が注目されています。フィリピンでも2020年に有机农业推进法が改正され、屎尿由来の有机肥料の意义も増すのではないかと期待しています。また、当地では光热费が高いので、屎尿由来のバイオガス燃料を活用できれば、その分を食生活改善に回せて平均余命も延びるでしょう。スラムのトイレから有机农业へと进展してきた研究が何らかの形で役立てられれば幸いです。