疲れるとどうして眠たくなるの?→上田泰己|素朴な疑问惫蝉东大

「なぜ?」から始まる学术入门
言われてみれば気になる21の质问をリストアップし、その分野に详しそうな鲍罢辞办测辞教授阵に学问の视点から答えてもらいました。知った気でいるけどいざ闻かれると答えにくい身近な疑问を足がかりに、研究の世界を覗いてみませんか。
Q.1 どうして疲れると眠たくなるの?
夜になると自然に眠たくなってきます。运动したりがんばって働いた日にはいつもより眠たくなる気がします。そもそも眠気って何なの?
UEDA Hiroki
教授
システム生物学 |

寝息のパターンを探って眠気の正体へ迫る
なぜ眠たくなるのか。この疑问に関して以前から知られていたのは、体内时计(概日时计)の存在でした。体内の一つ一つの细胞に24时间周期で时を刻む分子があります。脳の视床下部にある视交叉上核という神経细胞がそれらと连携して时刻合わせをすることで正确な时を刻み、地球の自転周期に基づいて眠くなるという仕组み自体はかなり解明されてきたのですが、一方で眠気というものの正体はよくわかっていませんでした。昼によく働いて疲れると夜に眠くなりますが、その疲れとは何を意味するのか。眠気はどのようにたまるのか。
動物の睡眠を測定するのはなかなか難しく、従来は脳外科のような手術をしないといけませんでしたが、私たちは寝息のパターンを使って動物を傷つけずに測定する技術を2016年に編み出しました。マウスの呼吸パターンを指標に睡眠時間を測るSSS法(Snappy Sleep Stager法)です。この技術は遺伝子改変したマウスの睡眠に起こる変化を確かめる上で非常に有効で、それほど操作に慣れていない人でも睡眠を解析できるようになり、研究が進んだのです。私たちが開発して磨いてきた脳や全身を透明化するCUBICという技術も役立ちました。そうして見えてきたのは、眠気の正体はカルシウムだということでした。
眠気のポイントはカルシウムだった

体内の细胞の间隙にカルシウムが存在します。神経细胞が兴奋すると细胞の外から细胞内にカルシウムが入ります。カルシウムが入ると颁补惭碍滨滨というリン酸化酵素が働いてそれを数えます。これが眠気の正体ではないかと予测し、21种类の异なる遗伝子改変を施したマウスで検証したところ、やはりカルシウムイオンによって调整されるメカニズムが睡眠时间を制御していました。眠りに入るには神経细胞にカルシウムイオンが流入する必要があり、覚醒するにはカルシウムイオンが神経细胞から流出する必要があったのです。従来はカルシウムが神経を兴奋させると思われていましたが、実际にはカルシウムがブレーキとなり、神経の兴奋がさめて眠気のもととなっていました。昼に何かを学んだりすることで兴奋し神経细胞がカルシウムを取り込むことで夜によく眠れるのです。
私は10年前に细胞の研究から细胞が集まった动物の研究に移り、いまは动物から人の研究に移っています。动物では寝息から睡眠を捉えましたが、人の场合は手の动きで捉えるというアプローチを採っています。手は寝ているときも动きますが、睡眠时と覚醒时の手の动きはだいぶ违います。それを见分けると、病気のときによく起こる中途覚醒という睡眠パターンが顕着にわかります。手の动きをセンサーにして、背后にある眠り?覚醒の状态や脳の状态を调べようというわけです。
健诊で睡眠を测って日本の睡眠の质向上を

人の睡眠の研究を始めたのは、特定健康诊断に睡眠测定を入れたいと思ったから。睡眠を定期的に测ることで脳の状态を把握し、病気の予兆を早めに捉える仕组みを作りたかったのです。ただ、适切なウェアラブルの测定装置がなかったので、开発を始めました。加速度センサーで测る装置はありましたが、中途覚醒を捉える精度が低かったのです。実験室にベッドと复数の医疗机器を导入し、そのデータと腕时计型加速度センサーのデータを検証したところ、腕时计センサーだけでも正しいデータが取れました。2020年に実用の目処をつけ、今年2つの论文を出しました。一つは础颁颁贰尝という検出アルゴリズムで正确に眠りと覚醒を把握する技术、もう一つは础颁颁贰尝で10万人の睡眠覚醒パターンを分类する试みについてのものです。
睡眠状况が悪くなった人には薬や医疗机器がありますが、未病の时点で悪化を防ぐという面が睡眠医疗では弱い。そこをなんとかしたいと思って技术を磨き、2020年8月に睡眠健诊の社会実装を目指すベンチャーを立ち上げ、同年10月には睡眠健诊运动を始めました。日本の皆保険制度の特徴を活かして睡眠健诊を広げる运动です。検便や検尿のように、事前に装置を渡して健诊日に提出する形で、1週间ほど装置を腕につけてすごすだけで脳の状态を确认できます。
日本人の睡眠の质の低さがよく取り沙汰されます。そこが可视化されると、睡眠は基本的人権の一つだという认识が强まり、その质の确保が国や雇用主の责务となるでしょう。最近の研究により、睡眠は単なる休养ではないとわかってきました。睡眠することで记忆を担う神経细胞同士のつながりが强くなるようです。睡眠は人を人たらしめる脳の活动を支える重要なプロセスです。睡眠健诊の重要さは増していくと思います。

『実験医学 Vol.40』 (羊土社、2022年) 「睡眠医学~眠りの分子?神経基盤を解明し、睡眠異常へ介入する」という大特集の企画を上田先生が担当。睡眠医学の現在と未来を知るための一冊。