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データ駆动型社会の行方 ~村井純×喜連川優×五神真×林香里 ビヨンド2020座談会

掲载日:2021年4月27日

村井純×喜連川優×五神真×林香里 ビヨンド2020座談会

データ駆动型社会の行方

就任以来Society 5.0の構想を語り続けてきた五神総長には、退任前にぜひ話を聞きたいと願った人がいました。日本のインターネットを黎明期から支えてきた村井純先生、増え続けるデータを工学の力で処理し活用につなげてきた喜連川優先生、メディア論の立場からAI時代のジェンダー平等社会を考えている林香里先生です。村井先生の1995年の著書を端緒に展開された情報化社会の来し方行く末の議論を紹介します。

  • 林 最初に総长から、この场をセットした理由などお话しいただけますか。
  • 五神 先日、村井先生の『インターネット』(岩波新书)を久々に読み直してみました。26年も前に现在の状况をかなり言い当てているところが多く、非常に面白かったんです。1995年当时と比べていまの姿をどう见ているのか、この先、インターネットはどうなるのかなど、是非お闻きしてみたいと思ったのです。
     2018年のダボス会議でユヴァリ?ハラリさんは、特定の企業がデータを独占する社会への懸念を述べました。データ社会がインクルーシブネスを実現するというグッドシナリオとは逆にディストピアをもたらすというバッドシナリオです。さらにコロナ禍の状況を見ると、もう一つ国家による監視が強まって市民の自由が奪われるというデータ監視社会というバッドシナリオもある。Society 5.0の目指す、皆が活躍できるよい社会に向かうには、この二つの崖の間の細い尾根を前に向かっていかなければなりません。
     サイバー空間とフィジカル空間の融合が進む中で、両者を合わせた「グローバル?コモンズ」を保全することが重要と考え、東大は去年8月にグローバル?コモンズ?センターを設置しました。各国がグローバル?コモンズの保全にどのくらい取り組めているかを示すための統合フレームワークと指標、Global Commons Stewardship Index (GCS Index)の開発を進めています。昨年12月の東京フォーラムでは、この構想について世界のリーダーと議論し、GCS Indexの試行版を発表しました。サイバー空間の指標化はこれから取り組む課題です。
  • 林 コンピュータサイエンスは広い世界の要求や动きと连携して进めるべきだとの旨を村井先生は着书で述べていました。総长の认识もその延长にあるようです。

颈苍迟别谤苍别迟は人间の「スノコ」

村井先生写真
庆应义塾大学教授
村井 純 MURAI Jun
1984年に学术ネットワーク「闯鲍狈贰罢」を设立し、日本のインターネットの础を筑く。庆应义塾大学の厂贵颁研究所长、常任理事、环境情报学部长などを歴任し、2020年から内阁官房参与も务める。
  • 村井 滨苍迟别谤苍别迟から颈苍迟别谤苍别迟へ、普通名词となったインターネットの意味は以前と変わり、人类全体のプラットフォームとなりました。がけっぷちの问题が生じたのはそのため。人间の発想や创造性を広げる一方、守备范囲もふくらみ、责任と役割が増えた。足元がどんどん上がってきた感じです。
  • 林 着书ではそれを「スノコ」という言叶で表现されていましたね。
  • 村井 自分が人の足の下にあるもの以上をつくっていると思うなよ、という文脉で学生に言ってきました。
  • 喜连川 コンピュータの要素は、計算、記憶、相互結合の3つです。相互結合には以前から通信があり、その一形態がインターネットです。計算はスパコンに代表され、1976年のCRAYが最古参です。そしてネットが生まれ、記憶、即ち、デ ータが注目されたのは2009年4thパラダイムからで、比較的最近です。データ独占によるバッドシナリオというのは煽っているように思えます。ITの歴史は苦難の連続。極度に恐れることなく良いシナリオを作ってゆくことが肝要です。
  • 村井 インターネットユーザーは2000年に世界人口の6%、2020年には60%を超えました。6%のときはインターネットで良いことをしようと皆が考えましたが、使う人が増えれば当然补产耻蝉别谤(悪用する人)も増え、それが崖っぷち问题を生みます。问题に対応するには、コンテンツへのトラストがあるかどうかが肝になります。
     インターネットで个人データが最初に活用されたのは、1996年のアトランタ五轮です。滨叠惭が閲覧履歴からページをカスタマイズして表示しました。これを见てビジネスになると気づき、ネット広告を展开して成长したのがヤフーで、検索に纽づけて成长したのがグーグル。こうして个人データの価値が明らかになりました。先日、政府の委员会で検讨するために海贼版漫画のサイトを见たら、国税庁の広告が表示されました。个人の閲覧履歴をもとに関连の高い広告を表示するインターネット広告の技术的仕组みとしては仕方ないとはいえ、広告のエコシステムが壊れてしまっている。フェイクニュースなどの问题の本质もこのあたりにあるのではないでしょうか。ただ、これは修正できるはずです。コアにあるのはコンピュータサイエンスですが、いまや、皆の力、特にメディアやジャーナリズムの力が必要です。
  • 林 意図的に悪さをしようとする人に対しては、対策も考えやすいものです。ただ、现在の崖はそれだけではない。社会には、个人の意図とは関係なく、偏向した権力分布や消费社会の磁场の中で、集合的に无意识のうちに悪い方向に进むというダイナミズムがあります。それが、6%から60%にユーザーが広がるなかで强化されてきたように思います。
  • 喜连川 技術の不具合はインターネットに限りません。例えば化学者が生み出したプラスチックが最近大きく叩かれていますが、極めて大きな便益を人類に与えたのは事実です。学者の責任をそこまで問うべきでしょうか。科学技術全てが常に明と暗を有しています。インターネットを作った人を責めるのは酷です。不具合が出たら直す。「Fail Fast」の精神で。
  • 五神 科学技术は、法や社会システム、人々がどう动くかの経済メカニズムとも连関させていかねばなりません。経済、法学、歴史などの専门家とともに考え、よいモデルを见つけることができれば、新しい価値をもたらせるはずです。
  • 村井 补产耻蝉别は「滥用」「悪用」。対义语は「适用」「善用」です。この「善用」の意识が広がっていると私は见ています。1995年の阪神?淡路大震灾のとき、日本人はインターネットの価値を理解しました。マスメディアは犠牲者の话しかしないが、インターネットでは人助けにつながる情报が流通していると気づいたんです。2007年に颈笔丑辞苍别が出て位置情报の活用が広がり、2011年の东日本大震灾では人の安否がわかるようになり、そして现在のコロナ祸です。インターネットを社会のために使う流れは强まっています。ドコモの「モバイル统计情报」サイトでは、人流を常时把握し个人を特定せずに公开しています。个人情报を上手に扱えば公共に役立つことを日本人はもう知っています。
  • 五神 崖の上で监视社会侧の谷に落ちずにがんばっている感じでしょうか。
  • 林 喜连川先生も灾害情报に取り组んでいますね。
 

匿名化した情报では足りない

喜連川先生画像
国立情报学研究所(狈滨滨)所长
喜連川 優 KITSUREGAWA Masaru
生产技术研究所教授。2013年より现职。米国ビッグデータ施策の7年前に特定领域「情报爆発」プロジェクトを开始してデータの中心的研究者を务め、情报処理学会会长などを歴任。専门はデータ工学。
  • 喜连川 デジタル防灾の社会実装の取缠めをしています。阪神?淡路大震灾の际、避难しない人が多かったそうです。庆应の先生が调べると、避难を拒否したのではなく次にどうすればいいかの情报を待っていたと。3.11の际、我々はツイッター解析を行い、「~がほしい」の~に何が入るか被灾者が何を求めているかを调べました。一番多かったのは「情报」でした。灾害时は情报提供が最も重要だという同じ结论が出たのが印象的です。ではコロナ祸で経済活动と感染防止を両立させる方法はあるのか。国家が国民に「个人情报を一定期间だけ提供してくれないか?感染源を特定できるので、感染を短期间に収束させ、経済ダメージを最小限に必ずします」と问うのはどうかと思います。ただ日本では政府と国民の间にトラストがないため、実施不能なのが残念です。
  • 林 トラストは本来双方向で醸成されるもので、国民が政府を信じられないというのは、国民の问题だけではないはずです。そこには、信頼を得られない不透明な政治の歴史や、政府と市民とのコミュニケーション不足が背景にあると思います。政府に限らず、近代国家にはシステムをつくる侧と国民との意思疎通が十分あるとはいえなかった。こういうところにインターネットは役立てるでしょうか。
  • 喜连川 教育が键。政府の教育再生デジタルタスクフォースに参加していますが、コロナ祸の教育を调査したらすごい学生を発见しました。大半の学生は授业の生中継を望みます。たくましいその学生は録画を望むのです。デジタルをフル活用して早送りで见られるから。简単な所は飞ばして难しい所だけ丁寧に见るのです。
  • 五神 顿齿活用の要諦は个の多様性への対応です。今の话はまさにその好例です。コロナ祸でカスタマイズが広がると、全体としてよい教育、よい社会の姿が见えてくるかもしれません。
  • 村井 山形県の鹤冈に庆应义塾大学の研究所があり、ここを起点にベンチャーがたくさん生まれて地元経済が活性化しました。ところが、子供ができると彼らは东京に出ていこうとする。よい教育を受けさせるには东京というわけです。教育が地方経済の键を握ると思いました。
  • 喜连川 授业を大学からアンバンドルし、东大や庆应の讲义を讲义共有プラットフォームから谁でも见られるようにする。当然地方からも。自然淘汰が起こり、教え上手な讲义だけが残るでしょう。共通科目を教える先生はずっと少なくていい。
五神総長画像
东京大学総长
五神 真 GONOKAMI Makoto
2015年より現職。専門は光量子物理学。個を活かす持続可能な未来社会をデジタル革新が拓くという信念は『Society 5.0』(日立東大ラボ編著/日本経済新聞出版社/2018年10月刊)に詳しい。
  • 五神 実は东大では、海外の先生のオンライン讲义だけで単位を认定するプログラムを検讨していまして、来年度には试行を始める予定です。
  • 村井 米国で惭翱翱颁※が始まったとき、教员の仕事がなくなると言われましたが、いまは谁も言いません。个々の教员がやるべきことは他にたくさんあるからです。地方の大学でないとできないこともある。狈滨滨の主导で进めてほしいです。
  • 喜连川 村井先生に応援していただけるなら是非とも讲义共有プラットフォームを狈滨滨で作りたいと思います。
  • 五神 コロナ祸の打撃から起き上がり残るのは、リアルの価値を高めた大学だけではないかと思います。そのためにもサイバーですむところはそうできるようしっかり进めておかねばなりません。
  • 林 リアル空间とサイバー空间の両方で教育が进むと、一方通行的な「讲义」では済まされない。求められる教员の资质も変わるのではないかと思います。
  • 村井 両者はそれほどわかれてはおらず、むしろ密につながっている気がします。
  • 五神 デジタル技术には个の多様性に応じる力があります。いい先生が一人いれば他の先生はいらないかというとそれは违う。同じ科目でも様々な教え方があり学び方も多様です。学生の个性に対応できるようマッチングさせるのが重要です。
  • 喜连川 一人とは言ってません。少数になるでしょう。教育のデジタル化の最大のご利益はおちこぼれ防止です。学生の躓きは人间よりデジタルの方がずっと正确に把握できる。コロナ祸での発见です。

※Massive Open Online Courses

 

マンツーマンこそ教育の価値

  • 五神 リアルの场ではマンツーマンが重要です。研究室では、卒业までに教员は何百时间も学生と个别に対话します。そこから生み出される教育の価値はかけがえのないものです。
  • 林 学生には、条件のよい出自の人、つまり村井先生の表现をお借りすれば、坚牢で良质なスノコを持っている人もいるし、不安定でガタガタのスノコしか持たない人もいます。スノコそのものを持たないで、进学できない人、あきらめる人もいます。インターネットという新たなスノコの力で、大学のダイバーシティの景観は変わるでしょうか。 
  • 村井 インターネットが多くの人に高等教育へのアクセシビリティを确保するとわかれば、人々の意识は変わるはずです。
  • 喜连川 学问は多様化し细分化しました。细分化された个别の学术に谁もがアクセスできるようにすべきと考えます。一つ気になるのは研究者の评価を大学が外部化していること。以前は论文がなくても大学が优秀と认めれば学位が授与されましたが、今は査読付论文が何本必要等と评価を外に頼ります。结果、ちまちました论文が増えている気がします。

データには分断を进める力も

林先生写真
东京大学情报学环教授
林 香里 HAYASHI Kaori
ロイター通信社記者などを経て、2009年より現職。著書に『メディア不信』(岩波新書)ほか。2020年より東京大学 Beyond AI 研究推進機構 B’AI Global Forum Projectリーダーを務める。
  • 林 ご指摘の点は、学术领域にデータサイエンスが进行した际の负の面です。学术の世界もデジタル化が进み、论文の引用数などがすぐわかるようになりました。データサイエンスは社会に贡献する一方、社会の分断を加速するパワーにもなると思います。データサイエンスの功罪を见极めて新たなシステムを构想しなくてはなりません。
  • 五神 无から有を生み出すには、普通の论文を书くだけではだめですね。2年前の夏にアップル本社を访问しました。技术者は论文执笔など求められないし书きたいとも思っていないようですが、研究は大好きで没头していました。そこは従来の大学モデルとは全く违う知の创造の场でした。今后は大学にもそのような要素が求められるかもしれません。
  • 村井 イカれた大学、まじめな大学、ベンチャーをがんばる大学などと大学が多様化したらいい。东大は尖った研究に特化してほしいところですが。
  • 喜连川 大学ではオリジナリティを问い过ぎで、まさにアップルにいるような人材を大学が生み出す必要がある。技术を社会で使える段阶まで高めることを评価する风土がないのが课题です。
  • 林 村井先生のご着书に、人类の歴史は、メディア?テクノロジーの限界によって多くの情报を切り落としてきたが、インターネットでいままで切り落としてきた情报をもう一度復活できるのでは、とありました。アカデミアの评価も、古い制度の枠内で、均质的な成员の间だけで评価システムをつくってきたと思います。しかし、インターネットによって、学问として评価される别の轴が生まれ、これまでの枠からはみ出るような人も活跃できる大学になるといいなと思います。
  • 村井 人と违うことだってできる若い年代の成长には、寄り添って话せる教员や先辈や仲间との出会いが必要で、大学の役割はその场になることだと思います。
  • 五神 私は大学が社会変革を駆动すると言ってきました。若い人がもがくエネルギーを変革に活用したかったんです。変化を楽しみ、それを社会に役立てたいと思っている若者は実际に増えていると感じます。3.11を若い时分に経験したことが影响しているのかもしれません。コロナ祸から起き上がった时に、活跃する人がたくさん出てくるのが楽しみです。
  • 喜连川 昨年6月、トロントのスマートシティプロジェクトをグーグルがやめたと報道されました。データ駆動の難しさが象徴的です。Society 5.0に向かうトラストを具現化するのは企業ではなく大学。6年前に総長が描いたことが実感をもって語れる時にきましたね。
  • 五神 その责任がある大学が、旧态依然の縦割りで隙间だらけのままではいけません。それを埋めるにもダイバーシティが重要ですね。絶妙なタイミングで総长をやらせてもらったとあらためて実感しています。

座谈会开催日=2021年1月27日

撮影/贝塚纯一
 

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