サイエンスへの招待/医薬アクセスの観点から考えるイノベーションとパブリックヘルスの両立 | 広報誌「淡青」40号より
医薬アクセスの観点から考えるイノベーションとパブリックヘルスの両立
「ジェネリックにしますか?」。薬局で処方笺を出した际によく闻くようになった言叶です。新薬より安く买えるジェネリック医薬品は明らかに市民の味方ですが、苦労して新薬を开発した会社は苦虫を噛みつぶしているのでは&丑别濒濒颈辫;&丑别濒濒颈辫;? そんな疑问に答えてくれるのは、医薬に関する特许と法の関係を研究する知的财产法の専门家です。教えて桝田先生!
准教授
桝田先生が共訳者として参加した书籍『医薬アクセス』(ローラ?闯.フロスト、マイケル?搁.ライシュ着/明石书店)。医薬アクセスとは何かを、医薬品、ワクチン、诊断法、避妊法、医疗机器、二重保护から绍介
费用対効果 | 限られたリソースの中で、特定集団の健康を最大化する |
---|---|
市场原理 | 需要と供给で决まる実势価格を支払える者に対して提供する |
衡平主义 | 集団内の経済的弱者を优先的に财政补助する |
救命原则 | 健康弱者に対し救命医疗を无偿で提供する |
「医薬(医療)アクセス」とは、必要な人に適切な医薬品や医療が提供される手段がある状態、をいいます。医薬(医療)アクセスが目標とする達成度は、医療水準、法規制や政策、社会的?倫理的価値観(→図1 )などに左右され、国によって異なります。私は、医薬(医療)アクセスの目標水準を考慮しつつ、国内外の関連する法規制や社会システムの在り方を研究しています。特に、特許制度と医薬?医療の安定供給を支える法規制の関係について、イノベーションとパブリックヘルスの両面から検討しています。
日本の医薬(医疗)アクセスは、国际的にみると高水準です。私たちは、国民皆保険が原则で、医疗保険制度に守られ、病気になれば、国内のどこの病院でも受诊でき均一料金で适切な処置を受けられます。日本では、医薬(医疗)アクセスに関し、贫困国のように医疗インフラそのものが问题とされることは少なく、医薬品の安定供给や医疗费に関する法制度の问题として扱われることがほとんどです。例えば、近年、医疗费抑制の観点から、日本政府は比较的安価なジェネリック医薬品の普及に努めています。新たに开発された医薬品(新薬)と同じ有効成分を同量含み同等の効き目があるジェネリック医薬品が、その新薬の特许が切れたあとに速やかに安定供给?使用されれば、医薬(医疗)アクセスを阻害せずに医疗费を抑制することができます。
特許制度は、医薬(医療)アクセスに影響を与える要因の一つです。新薬に対し特許の保護を強化し、その市場独占期間を長くすれば、新薬の研究開発にかかった莫大な費用の回収が容易となるため、新薬開発のインセンティブとなります。しかし一方で、特許による保護が行き過ぎると、特許が切れるまでの期間が延び、比較的安価なジェネリック医薬品の市場参入が遅れることになります(→図2 )。新薬に対する特許の保護水準は、国際社会では、新薬開発企業がある先進国と、特に発展途上の貧困国との間で、たびたび論争になります。特許の保護水準の問題は、国内外いずれにおいても、新薬とジェネリック医薬品の供給バランスを踏まえて、医薬(医療)アクセスへの影響を考慮しながら適切に対処する必要があります。
最近、特许制度により潜在的な新薬开発の可能性が制限されるといった、新たな医薬(医疗)アクセスの问题が生じつつあります。新薬の有効成分は、低分子から抗体などの高分子化合物(ノーベル生理学?医学赏を受赏された本庶佑先生の発明から生まれたオプジーボも抗体から造られています)にシフトしつつあり、抗体医薬の特许は、その性质上、现行基準では薬効メカニズムそのものを広范囲に特许で独占できる场合があります。このような特许があると、他の公司は同じ薬効メカニズムを用いた抗体新薬を开発できなくなり、将来的には患者さんの治疗の选択肢を狭めてしまう可能性があります。これは、一つの薬効メカニズムに対し物质の构造が异なる复数の新薬が开発できた低分子化合物では考えられなかったことです。特许の保护水準の问题は、抗体医薬等の医薬の技术的进歩に応じ、新たに生じる医薬(医疗)アクセスの潜在的障害をも考虑する必要があると言えます。