美術に関わる東大の研究 池上高志の人工生命研究 | 広報誌「淡青」38号より
人工生命研究 |
未来圏から吹いてくる
科学とアートの縁で基底の知を探す研究とは
复雑系と人工生命の研究で知られる池上先生は、圧倒的な量のデータの中に生命的な振る舞いが立ち现れるという考えを轴に活动するアーティストでもあります。デジタル革命以降の世界で、科学とアートの縁から、础滨の次に必要となる基底の知を探す研究とは&丑别濒濒颈辫;&丑别濒濒颈辫;?
池上高志/文 Takashi Ikegami 教授 |
长いこと研究をやっていれば、论文にならずに消えていった面白い考えや计算はたくさんある。そもそも论文は、言语で书いて2次元の図表を添えられたものがほとんどだ。その限られた表现からこぼれ落ちるものがいかに多いことか。僕にとってのアートはそのこぼれ落ちるものの救済にある。
2004年にアーティストの渋谷庆一郎と出会い、コンピュータを用いて聴いたことのない音を生成し、テイラー?クエット装置を使って発表した「」(東京 2005)(記述不安定性という意味)が僕のアートへの最初の挑戦だった。音は波長で時間的周波数という物理学の認識とは異なり、サウンドアートの音は空間に満ちた音の粒子である。そのことに感動したところから始まり実に12年、いまだにその活動は続いている。
アートに関わり始めて4年後、2008年にある革命が起きていた。それが今にいたるまでアート活動を続けさせた真の理由かもしれない。ルービック?キューブで色を揃えるには、最大でも20手しかかからないことをグーグルの社員が初めて証明し、それを科学雑誌ではなくblogにアップしたのが2009年。MITのDeb Royが自分の子供が生まれたときに家中に音と映像のセンサーをつけて、3年間録画したSpeecHomeプロジェクトが行われたのも2009年だ。ルービック?キューブではアボガドロ数の10000万の1を総調べすることで巨大な組み合わせ表を作って20手を見つけ出し、一方Deb Royは、家の中での子供を世話する人の時空間パターンの関数として、子供の言語獲得を理解するという新しい視点を提供した。この時期、いまを席巻する深層学習のアイディアや、ビットコインの背景理論であるブロックチェーンのアイディアが生まれたのも2008年である。iPhoneが初めてお目見えしたのも2008年だ。これ以降、科学はその態度を一変させられた。それまでに見てきた複雑さの種類とは質と桁の違うものだからだ。この複雑さをどう扱うか、革命から10年たってそれが中心課題となっている。
これは科学だけの問題にはとどまらない。池田亮司の圧倒的なデータ量を見せつけるサウンドアート、ライゾマの深層学習を駆使するダンスパフォーマンスを初めとし、人にはつくれないアート表現が模索されている。この新しい科学的認識とアート表現を志向していくことは重要である。現在、うちの研究室で行っている100万匹の鳥の群れのシミュレーション(Ars 2017)、アンドロイドAlterの自発運動を生成する学習理論、Gacs(ICC2018)の自己シミュレーションCAの実装は、アートとサイエンスの縁を行くものである。2018年に科学未来館で行なったアンドロイドを使ったScary Beautyというオペラは、そうした新しい科学とアートの真骨頂である。渋谷慶一郎の新曲、阪大の石黒浩のアンドロイドに、うちの自発運動プログラムを載せて、アンドロイドをオーケストラの指揮者にするというプロジェクトだ。それは新しい人とAIとの共生を予感させるものであり、人の情動の持ち方や人生の理念を揺さぶるものであった。
いま、アートとサイエンスの垣根は低く、谁もが科学者でありアーティストでなくては成立しない时代となっている。理系と文系の境はとうの昔に消失した。この新しい时代に必要なのは、新しい言叶の创造である。わたしたちに必要なのは、一见无関係と见られるものを见て、経験し、作り、苦しむことだろう。今の时代ほど総合大学であることが求められる时はない。必要なものを必要になったときに勉强するような现场の知恵では追いつかない、本物の基底の知が求められている。今こそ未来圏から吹いてくる透明な风を感じてほしい。