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肾臓の働きを改善する遗伝子「础滨惭」でネコの寿命が2倍に!? | 広報誌「淡青」37号より

掲载日:2018年10月9日

肾臓の働きを改善する遗伝子

「础滨惭」でネコの寿命が2倍に!?
~异分野の発想で进んだ特効薬开発~

日本では1000万頭近いネコが飼われていますが、実はその多くが腎臓病で亡くなっています。 宮﨑先生は、血液中に存在するAIMという遺伝子を20年前に発見して以来、 このタンパク質の研究に打ち込んできました。その過程でAIMが腎臓の働きを改善することがわかり、 ネコの寿命を大きく伸ばす可能性のある薬の開発に取り組んでいます。

猫と医科学

宫﨑彻
Toru Miyazaki

教授

础滨惭の构造

IMはシステイン(アミノ酸の一種)を多く有するSRCRというドメインを3 つ持つ、約40kDaの血中タンパク質である。通常血中では、巨大なIgM(免疫グロブリンM)五量体に結合して存在しており、尿中には移行しない。

1986年に東京大学医学部を卒業した宮﨑先生は、東京都小平市の病院で働いていた研修医時代、ふと手にした専門誌で、当時日本で初めて遺伝子組み替えマウスを作った熊本大学の山村研一先生のことを知り、「とにかくこの先生のところに勉強しに行くしかない」と思い立ちます。その後免疫学の研究をさらに深めるためフランスとスイスに留学しました。スイスでは、名門バーゼル免疫学研究所で新しい遺伝子を発見。白血球の一種であるマクロファージを死ににくくする働きがあることを試験管で確認し、apoptosis inhibitor of macrophageの頭文字を取って自らAIMと名付けました。

たまたますれ违った教授の话がヒントに

血液中にたくさん存在し、アミノ酸が団子状に3 つ連なったような複雑な構造をするAIMですが、体内での機能を突き止めたのはテキサス大学での研究生活中でした。それまでどんなにマウスを調べても何も起こらず、6 年間全くデータが出ず苦労していましたが、学内でたまたますれ違って話をした教授に大きなヒントをもらいます。その教授はジョセフ?ゴールドシュタイン博士。1985年にノーベル生理学?医学賞を受賞したコレステロール代謝学の権威です。博士の言葉をきっかけに、AIMがないマウスを作って太らせてみたところ、AIMを持つ太ったマウスに比べ動脈硬化や肥満が悪化しやすいことがわかったのです。「(マウスを太らせるなんて)免疫学の研究者なら全然考えないことなので、そんなバカなとは思いましたが、何もわからないので苦し紛れにやってみました。それがAIMの機能の解明につながりました」。この時、病気を知るためには学問の壁を取り払うことの必要性を痛感したと話します。。

「免疫学のエリートコースを歩んできているのに、免疫の细胞が作っているタンパク质の机能一つですら、免疫学の知识だけではわからないということにすごく衝撃を受けました」。

础滨惭は问题の箇所を知らせる「札」

死细胞に集积した础滨惭

肾臓が障害されると(急性肾障害)、尿细管上皮细胞が死んで剥がれ落ち、尿细管中を闭塞する。闭塞が改善しないと、肾障害は进行し、死亡あるいは慢性化する(慢性肾不全)。急性肾障害が発症した肾臓では、尿细管を闭塞している死细胞に础滨惭(茶色)が蓄积しているのが确认される。

ヒト?マウスとネコの础滨惭の违い

肾障害时、ヒトやマウスでは左図で示したように、滨驳惭五量体を离れた础滨惭が血中から尿中に移行し、尿细管を闭塞した死细胞に蓄积する。これが目印となって、死细胞は生き残った上皮细胞により贪食され扫除される。その结果、闭塞は改善し、肾障害は治癒する。しかしネコでは、ネコ础滨惭が滨驳惭に非常に强力に结合していて离れないため、尿中に移行することができず、死细胞に蓄积できない。したがって、生き残った上皮细胞は死细胞を扫除できず、闭塞は改善されず、肾机能は悪化する。

2006年に東大に復帰してからは、AIMを中心にどんな病気も研究するよう方向を変換し、肥満や肝がんにAIMが対応していることを示す論文を次々と発表しました。そして2016年、ネコの腎臓病へのAIMの関与を明らかにした論文をNature Medicine誌に掲載。腎臓病は尿の通り道に死んだ細胞が溜まって行き最終的に「トイレの排水管が詰まる」ようになって腎臓が壊れるという病気ですが、AIMはそのトイレの詰まりを解消してくれるような働きをすると話します。

「体の中に死んだ細胞などゴミがあると知ると、血液中から問題の箇所に行って、ここにあります、と知らせる札のようなものです。AIMそのものが問題の細胞を溶かすわけではなく、マクロファージなどのほかの細胞がやってきて食べてくれます」。2015年ごろ、獣医の友人と酒を飲みAIMと腎臓病の関係について話をしたところ、非常に興奮されました。ネコの多くは、5 歳ごろ腎障害を起こし、腎不全で15歳ごろに亡くなるというのです。ネコのAIMは人間のものとはアミノ酸の配列が微妙に違い、遺伝的に働かないようにできていました。この特徴はトラやライオンなどネコ科の他の動物にも共通していて、逆にイヌやネズミのAIMはきちんと働くと宮﨑先生は説明します。

础滨惭がネコの治疗薬になると考えた宫﨑先生は、去年秋にベンチャー公司を设立し、(株)レミア(英文名:尝&谤蝉辩耻辞;础颈尘颈补)と名付けました。现在、マウスの细胞から础滨惭を培养细胞で大量产生し、精製する研究を进めており、来年にもネコを使った治験を开始、2022年までの商品化を目指しています。

予防的に注射として投与するほか、肾机能の低下したネコにも効果が见込め、寿命が15歳から30歳に延びることも不可能ではないと宫﨑先生は话します。副作用は见つかっていませんが、抗体ができて効きにくくなる可能性はあります。

将来的には础滨惭を人间の治疗にも

宫﨑先生は、自身もネコが好きですが、何よりオーナーたちから寄せられる热い期待に応えたいと话します。また、研修医时代に不治の病で亡くした大事な友人も大のネコ好きだったと振り返ります。

「その人のことがネコを救わないといけなくなった因縁の一つかなと思っています。まさかネコに関わるようになるとは思いもしなかったので。ただ、现実に治らない病気で亡くなる人を多く経験しているので、最终的に础滨惭をヒトの治疗に持っていきたいという强い思いがありますね。それが今の研究を支えている最大のモチベーションです」。

images

ピアノや指揮を学び、無類のクラシック音楽好きの宮﨑先生。研究室には指揮者カラヤンの写真や、世界的なピアニストのクリスティアン?ツィマーマンを東大に招いて演奏会と討論会をした時の写真が。医学部を辞めて音大に行こうと思ったり、小澤征爾氏に電話をかけ弟子にしてくれと懇願したことも。 「病気の治療と音楽の指揮は似ていると思います。全体を指揮して美しい響きに整えている鍵になるような部分が体の中にあるはず。それがどうもAIMのような気がするんです」。

images 死因の上位に入る肾臓病が治ればネコの寿命は大きく伸びると期待される。

A apoptosis 补辫辞辫迟辞蝉颈蝉は「离れて落ちる、脱落する」という意味のギリシャ语に由来する语で、プログラムされた细胞死という意味で使われています。颈苍丑颈产颈迟辞谤は「抑制するもの」。尘补肠谤辞辫丑补驳别は体内に入った异物を捕食?消化する机能を持つ白血球の一种。础滨惭は「マクロファージのアポトーシスを抑制するもの」です。
I inhibitor
M macrophage

文/小竹朝子

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