海洋マイクロプラスチック问题に取り组む -楽観的姿势とコラボレーションの力-
2023年に2年任期のユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)の議長に選出され、2024年4月より「国连海洋科学の10年」(The UN Ocean Decade)のための東京大学総長特使も務める大気海洋研究所(AORI)の道田豊特任教授に、その取り組みと海洋マイクロプラスチックの新しい方向性について聞きました。
広大な海から极小のマイクロプラスチックへ
―― 先生が海洋研究に取り組むようになったきっかけは何だったのでしょうか?
私は広岛市で生まれました。海岸线はとても美しく、子供ながらに波を见ることを楽しんでいました。大学では気象学を学びながら、海洋学の短期コースを受讲しました。そこで海洋循环の研究がとても楽しいことに気づき、修士课程に进学し海洋物理学を専攻しました。のちに海上保安庁に入庁して16年间、大学で学んだ海流の知识を捜索救助活动などに役立てました。その后、2000年に东京大学海洋研究所、现在の大気海洋研究所(础翱搁滨)に加わりました。
私はこれまで、季节的な海洋変动のモニタリングから津波の早期警报システムの开発まで、多様なプロジェクトに携わってきました。时が経つにつれて、海の、特に沿岸域におけるプラスチックの世界的な动きに兴味を持つようになりました。そして2015年に行われた主要7カ国首脳会议(骋7サミット)の后、この问题は国际的な优先课题の一つになりました。
现在、私は日本财団と东京大学の共同研究プロジェクトである贵厂滨海洋プラスチックゴミ対策のための研究プロジェクトを率いています。当初は自身がこの役目にふさわしいプラスチックの専门家であるとは思えず、いったんお断りしました。しかし、现东京大学理事?副学长の津田敦特任教授(当时、大気海洋研究所所长)に励まされたのです。津田所长は、プラスチック问题の分野横断的な性质と、学术界と政府机関の両业界で働いた珍しい経歴を持つ私だからこそ発挥できる强みについて强调しました。2つの业界を渡り歩いた私の経験があれば、研究者と政策决定者双方の视点を理解でき、海洋マイクロプラスチックという共通の课题の解决に向けて、私は両者のスキルを融合させて取り组むこととしました。
―― 海洋ゴミプロジェクトはどのように進んでいるのでしょうか?
多くの重要な結果を得ています!プロジェクトは2019年に始まり、3つのステージに分かれています。最初の2つが自然科学で、3つ目は政策立案や人々の行動といった社会科学に関わるものです。マイクロプラスチックは5 mm以下のプラスチックと定義されていますが、私たちのプロジェクトでは1 mm以下のマイクロプラスチックに着目しています。なぜなら、このサイズのプラスチックの動態に関してはまだわかっていないことがたくさんあるからです。私たちの主な使命は、この問題に関して学際的で科学的な根拠のあるリスク評価をすることにあります。現在はプロジェクトの第2期に入っていて、2025年に完了する予定です。
私たちの研究の具体例を挙げてみましょう。海の表层で観测されるマイクロプラスチックの密度が想定されているよりもはるかに低いのはなぜか、という疑问があります。私たちは、何らかの自然のプロセスがマイクロプラスチックを海底に沉めているのではないかと考えました。プロジェクトの中心的研究者の一人である大気海洋研究所の小川浩史教授は、植物プランクトン(水中に浮游する微小な単细胞藻类)とのつながりを调査し、植物プランクトンが粘着性のある液体のようなものを生成し、それがマイクロプラスチックの粒子を捉えて下层に输送する役割を担っていることを発见しました。これは今まで知られていなかったことであり、このような粒子を取り込む海洋生物に対して、この现象がどのような効果を持っているのかという新たな疑问が浮かびました。
别の研究では、约2万点の海水サンプルを使用しました。この海水の「ライブラリ」は、もともと国立研究开発法人水产研究?教育机构によってプランクトン调査のために取得され、70年にわたって保管されていました。惊いたことに、これらは研究试料として使用された后も廃弃されておらず、とても贵重なコレクションです。このサンプルが研究を主导した东京大学大学院农学生命科学研究科の高桥一生教授にもたらしたものは、海洋プラスチック汚染がこの70年でどのように変化したのか物理的で事実上目に见える形の歴史的な记録でした。高桥教授は、现在この重要な成果を共有するための论文を準备しており、私たちはその成果が1年以内に出版されることを期待しています。
マイクロプラスチックに関する新たな悬念の広がり
―― 研究者たちが次に注目するのは何でしょうか?
私たちは、マイクロプラスチックが环境だけでなく、人々の健康にどのようなリスクをもたらすのかを解明したいと思っています。もしマイクロプラスチックが人々にとって危険なものであれば、より厳格な対抗策や解决策を讲じる必要があります。私たちにはいくつかのアイデアがありますが、直接的な証拠はまだ十分ではありません。プラスチックという素材が地球の生态系にとってごく新しいものであることは、皆さんもイメージできると思います。マイクロプラスチック以外にも、火山灰や土壌など、他にも天然起源の小さな粒子はあります。そこで问题なのは、マイクロプラスチックが海洋生物や海洋环境にもたらす影响に天然起源の粒子と违いはあるのか、あるとすればそれはどういうものであるのか、ということです。
もしマイクロプラスチックが魚や他の海洋生物にとって有害であれば、私たちはこれらの生物を保護するため、これ以上この素材が海の環境に入っていくのを阻止する必要があります。2023年に、当時AORIの博士課程の学生であったHilda Mardiana Pratiwiが行った研究では、海水に棲むメダカの方が淡水に棲むメダカより多くのマイクロプラスチックを摂取していることがわかりました。魚が消費する水の量が違うと聞いて驚かれるかもしれませんが、海水魚は体内の塩分(浸透圧)バランスを維持するためにより多くの水を飲みます。淡水魚は浸透によっても水を吸収するのであまり水を飲みません。これは私たちを含めた魚を食べる生物やその先の食物連鎖に対しても波及効果をもたらします。
もしマイクロプラスチックが私たちの消化管を素早くかつ安全に通过するのであれば、それほど问题にはならないかもしれません。しかし、もし微粒子や化学物质が私たちの身体に吸収されるのなら、それらは蓄积して问题を引き起こすかもしれません。これに関する几つかの証拠が既にあるということを知ってしまったことは、私には衝撃でした。しかし、私たちはこのような蓄积のリスクに対する适切な评価基準を持っていません。一人の人间の寿命の中では问题はないかもしれません。しかし、数十年のうちに自然の中のマイクロプラスチック密度は増加し、リスクは高まるかもしれません。研究グループが起こりうることのモデリングやリスク评価に取り组んでいる间に、私たちはできる范囲でプラスチック製品の利用を减らし始める必要があるでしょう。
―― プラスチックのない生活に戻れるでしょうか?
今や、プラスチックのない生活をイメージするのは难しいと思います。几つかの状况下では、プラスチックは必需品になっています。例えば医疗では患者の健康を支え、あるいは灾害时などには安全な饮料水を届けます。别の事例では、现在プラスチックの他に利用可能な选択肢を持っていないものもあります。现时点では、ゴムタイヤには代替品が事実上ありません。タイヤはブレーキをかけるようにデザインされていますが、それは微细なゴムの粒子、すなわちマイクロプラスチックを生み出します。また、プラスチックはすでに环境のいたるところにあり、私たちがそれを全て回収するのは不可能でしょう。
この问题の解决策として生分解性プラスチックが提案されることがあります。ただ、生分解性プラスチックも、二酸化炭素と水に分解される过程でマイクロプラスチックやプラスチック由来の化学物质など中间生成物を発生させる可能性があります。また、バイオマスプラスチックは、颁翱2排出を抑えるには有効でも、分解に时间がかかるものもあります。いずれも対策として有望ですが、その効果とリスクも十分検讨する必要があるでしょう。
例えば、使い捨ての代わりに补充できる水筒を使ったり、合成繊维の代わりに天然繊维の服を选んだり、といったように、普段使いの日用品をプラスチック以外の代替品で考えてみる価値があります。しかし、考えるべきことは、単により多くのプラスチックの代替品を生み出すことだけではなく、人々がプラスチックに関する现状を理解し、纳得した上で选択できるよう助けることなのです。メディアは一般市民の考え方に影响を及ぼすことができます。オピニオンリーダーやセレブはとても影响力があり、注意唤起できるプラットフォームを持っています。私が伝えたい重要な点は、マイクロプラスチックが最终的に自然の中に辿り着くことがないよう、私たちはできる范囲でプラスチック利用を最小限に抑え、使用后は确実に回収し、正しく廃弃する必要があるということです。
マイクロプラスチックに大転换をもたらすための协働
―― 海洋マイクロプラスチック问题に取り组むため、IOCの議長としてどのような幅広い取り組みをなさっていますか?
滨翱颁は2021年に始まった世界的な取り组みである「国连海洋科学の10年」の中心的な存在です。この取り组みは、海洋汚染、持続可能性、安全性を含めた7つの悬念事项を目标としています。もともとの计画では6つしかなかったのですが、プロジェクトが终了する2030年以后にも継続的な取り组みを促すため、计画づくりの最终段阶で「梦のある魅力的な海」を追加しました。マイクロプラスチック汚染のような问题に対する取り组みに、どうすれば次世代の参画を得ることができるでしょうか?彼らと梦を共有することです。私たちは専门家だけではなく、政府やメディア、一般の人々にも参加いただきたいのです。そうした活动に幅広い人々の参画を得るためには、异なる背景を持つさまざまな人をつなぐ架け桥の役割を担うコミュニケーターを育成することも非常に重要だと思います。
「海洋科学の10年」のもう一つの重要な目的は、地元の人々や地域社会を巻き込むことです。マイクロプラスチックをはじめ他の海洋関係の问题に対する共创的な解决策に、地域社会の人たちと一绪に取り组むことは私たちにとって极めて重要です。私たちは、どうすれば関係を筑き、责任をもって彼らの知识を活かすことができるのかを见出そうとしています。私は、渔业について长い歴史を持つ日本はこの课题に対して多大な贡献ができると信じています。ただ、日本社会では急速に高齢化が进み、长く続いてきた地方の渔村は衰退してきているため、私たちは急がなければならないのです。
―― この地球規模の挑戦に関してどのような将来の展望をお持ちですか?
私は楽観的です。少なくとも多少は。社会は私たちが予想するよりもずっと速く変化することができるからです。例えば、公众の面前における喫烟に対する考え方は、20年前と比べて今ではまったく违っています。
国连や滨翱颁の枠组みの内外で、この问题に取り组んでいる国际的な団体や个人はたくさん存在します。私たちは学际的なアプローチに取り组んでおり、异なる分野の専门家が一绪になってたくさんの関连する问题に取り组んでいます。例えば、国连には海洋环境保护の科学的侧面に関する専门家会合(骋贰厂础惭笔)と呼ばれる会议グループがあります。これはマイクロプラスチックだけでなく、マクロプラスチックや石油汚染、化学汚染、さらに科学政策?海洋政策の観点からも中核を担うグループです。10程度の国连机関が参加し、协働する専门家を派遣しています。
ここで特记すべき重要な点は、全ての人が何かをすることができて、またそれをする必要があるということだと思います。私はこの分野に40年以上にわたり携わってきましたが、今、次の世代が新しいアイデアをもたらそうとしていることは、素晴らしいことです!私は皆さんに、あなた自身がキーパーソンである、と申し上げたいです。谁かが100%プラスチックが必要ない术を见つけるかもしれません。それはもちろん立派なことですが、大半の人にとっては非常に难しいことでもあります。一方、もし1000人がそれぞれのプラスチック利用を1%でも10%でも减らせるよう挑んだなら、それは极めて大きな効果があります。私はいつも、人はできることをすればよいのだと勧めています。完璧である必要はないのです。一つでも二つでも可能な范囲のことをすること、それが世界を守ることにつながります。
道田豊
大気海洋研究所特任教授、「国连海洋科学の10年」东大総长特使
- ユネスコ政府间海洋学委员会现议长(2025年6月まで)
- 2024年4月より「国连海洋科学の10年」东京大学総长特使
- 大気海洋研究所(础翱搁滨)前教授、副所长
- 2024年3月まで础翱搁滨国际连携研究センター所长
- 海洋立国推进功労者表彰(内阁総理大臣赏)受赏(2015)
- IOC WESTPAC Outstanding Scientist Award受賞(2015)
- 海上保安庁长官表彰(2016)
- IODE Achievement Award受賞(2019)
- Techno-Ocean Award受賞(2023)
取材日: 2024年2月3日
取材: ニコラ?バーグホール