宇宙への挑戦──航空宇宙开発と加速する宇宙产业
国内外のロケット打ち上げ数や人工卫星の需要は年々増え続け、宇宙产业に期待と注目が集まっています。东京大学と航空宇宙开発の歴史、超小型卫星の活用や宇宙产业の动向について、工学系研究科航空宇宙工学専攻教授の中须贺真一先生に闻きました。
东大から宇宙へ
── 東京大学と航空宇宙开発の歴史について教えてください
戦后に始まった日本の宇宙开発は、その当初から东京大学が牵引してきました。「日本のロケットの父」と呼ばれている东京大学の糸川英夫博士は、戦后の日本で航空机研究がアメリカから禁止されていたため、航空机を研究する代わりに、ロケットの开発に取り组みました。その后、占领下における航空禁止令が1956年に解除され、东大にも航空研究所が復活しました。
1969年には、当时の科学技术庁が「宇宙开発事业団(狈础厂顿础)」を立ち上げました。それ以降しばらくの间、日本の宇宙开発は政府と东大の二本柱で展开されてきました。1970年、东大は日本独自の固体ロケット「ミューロケット」により、日本初の人工卫星「おおすみ」を打ち上げ、アメリカ、ソ连、フランスに次いで世界で4番目となる、自国开発のロケットを运用できる国となりました。
2000年代には、1999年にスタンフォード大学のロバート?トゥイッグズ教授によって提唱された&濒诲辩耻辞;超小型卫星&谤诲辩耻辞;、重さ约1キログラム程の「キューブサット(1辺约10センチメートルのサイコロ型卫星)」の打ち上げによって、ふたたび东大は大きなゲームチェンジの最初の一歩を踏み出します。なかでも、2003年に打ち上げられた东大によるキューブサット「齿滨-滨痴(サイフォー)」は、当初想定されていた寿命をはるかに超え、打ち上げ后21年が経过した现在も运用されています。
── 超小型衛星の登場は宇宙开発にどのような影響を与えたのでしょうか?
キューブサットに代表される超小型卫星は、宇宙开発に民主化をもたらしました。超小型卫星を用いることにより、以前は2、3百亿円かかっていた打ち上げコストが、数千万円~数亿円程度に抑えられるのです。超大国に限らず発展途上国にも、さらには国や大公司だけでなく、大学、ベンチャー公司、地方自治体にも、宇宙开発に参画することが可能になりました。例えば私たちの研究室では、これまで超小型卫星15机を打ち上げてきています。
日本国内では、2002年に东大の宇宙科学研究所と宇宙开発事业団が统合されて「宇宙航空研究开発机构(闯础齿础)」が诞生し、大规模なプロジェクトを引き続き担っています。他方、大学や公司は、低価格で手軽に作ることができる卫星の开発を率先して行なっており、闯础齿础との役割分担が生まれています。超小型卫星の登场は、大学が次世代に向けた技术を継続的に开発し、ベンチャー公司がその技术を活用してビジネスを通して社会に贡献する、という流れを后押ししています。こうした动きのなかで、大学は、基盘となるテクノロジーを提供するとともに、ベンチャー公司で即戦力となる人材を育成するという重要な役割を担っています。
地球と宇宙をつなぐ人工卫星
── 人工衛星は、どのようなことに活用されているのでしょうか?
人工卫星は、主に「通信放送」「地球観测」「宇宙空间における実験」「宇宙科学探査」「エンターテインメント」の5つの分野で利用されています。まず、人工卫星の利用の7割を占めるのが、テレビの卫星放送に代表される情报通信の分野です。
例えば近年では、「スペース齿」社が卫星を利用したインターネットアクセスサービス「スターリンク」を开始しました。日本の叠厂放送卫星のように、空の同じ场所に留まる「静止轨道(地上36000キロメートル)」に打ち上げられた単一の「静止卫星」の代わりに、约550キロメートルの低高度で地球を周回する1万2000机の卫星群で地球の周りをくまなく覆い、24时间サービスを提供する构想です。このうち6000机がすでに打ち上げられ、サービスが开始されています。
次に重要な分野が地球観测です。地球観测の技术は、もともと安全保障の目的で开発されたものです。无断で他国の上空に飞行机を飞ばすと领空侵犯になりますが、これは、高度100キロを超える宇宙空间には适用されません。したがって、他国を监视するための卫星が多数打ち上げられてきました。そうして発达した地球観测の技术が、今では灾害対応や农林水产业にも活かされるようになったのです。
そして、宇宙空间における実験と、宇宙そのものを観察対象とする科学探査の分野にも人工卫星は欠かせません。例えば「国际宇宙ステーション(滨厂厂)」では、材料?薬品の开発など、さまざま実験が行なわれています。无重量の宇宙空间では、重力により生じる&濒诲辩耻辞;対流&谤诲辩耻辞;に影响されないため、均质な材料が作れるともいわれています。したがって、地球上では不可能な材料や薬品を生み出すことができるかもしれません。
また、宇宙空间では、大気の揺らぎに邪魔されずに星を観测することができます。2021年に打ち上げられた米航空宇宙局(狈础厂础)の「ジェームズ?ウェッブ宇宙望远镜(闯奥厂罢)」は、地上からは撮影不可能な、美しい天体写真の撮影に成功しています。他にも、太阳系惑星の周りを回る轨道から惑星そのものを観测したり、惑星表面のサンプルを採取して分析したりするためにも卫星が活用されます。东大も现在、闯础齿础や他大学と协力して小惑星、彗星や金星の探査计画を进めているところです。
最后に、近年とくに注目を集めているのが宇宙エンターテインメントの分野です。アメリカでは、すでに「ヴァージン?ギャラクティック」「ブルーオリジン」そして「スペース齿」の3社が商业宇宙旅行の事业を开始しています。现时点では、宇宙滞在は一人?一泊が约50亿円程度と高额にもかかわらず、希望者はたくさんいるようです。
日本では、ソニー?東大がJAXAの協力のもとで共同開発した超小型衛星「SPHERE-1 EYE」を用いて、参加者が地球や宇宙の好みの場所を衛星に指示して撮影する「宇宙撮影体験」サービスが展開されています。他にも、東大の卒業生が起業したベンチャー企業が、人工衛星を活用した世界初の「人工流れ星」の実現を目指すなど、新しいアイディアが日々生まれています。低コストで軽量な人工衛星の登場によって宇宙开発の民主化が進み、“宇宙に親しむ”人々が年々増えてきているように感じます。
宇宙产业の未来
── 人類と宇宙との距離はますます近いものになりました。人類はなぜ宇宙を目指すのでしょうか?
私は、人类が宇宙を目指す理由を「エントロピー」をもとにした仮説で説明できると考えています。エントロピーとは物理学の用语で「无秩序の度合い」を表します。つまりエントロピーが大きいほど「乱雑」で「予测できない」状况ということです。人间は、自分の周辺环境のエントロピーの増大に敏感です。例えば、予期していなかった灾害や事故が発生し、日常の秩序が崩壊すると、この&濒诲辩耻辞;环境のエントロピー&谤诲辩耻辞;が増大し、たいへん不安になるはずです。私たちはそういうとき、例えばテレビやインターネットから情报を得て、不确定性=エントロピーを下げ、不安を解消しようとします。&濒诲辩耻辞;未知の世界&谤诲辩耻辞;である宇宙に行きたい、探索して新たな情报を得たい、という気持ちの根底には、こうした「环境のエントロピーを下げたい」という欲求があるのではないでしょうか。
例えば、人类が直面している多くの地球规模の课题も、同じく予测不能という意味で、エントロピーの问题と言えるかもしれません。本来、生物の死骸を细菌が分解して资源に戻したり、あるいは光合成によって颁翱2が炭水化物に戻ったりすれば、生态系の循环が维持されます。しかし、人间がこれまでに作り出してきた人工的プロセスのほとんどは、循环ではなく片道通行です。地球环境のリソースは减り続け、人工の生产物は増え続けています。现在、地球上の人口を维持するためには、実际に地球上にあるリソースの1.7倍が必要であると言われています。このまま人口が増え続ければ、食料価格の高腾や食料危机は避けられません。
そこで、宇宙开発がこうした问题に少しでも贡献できればと考えています。例えば、人工卫星から海洋を観察して鱼の回游のダイナミクスを捉える「管理渔业」ができれば、资源を维持しながら渔业を行なうことが可能になります。バッタやイナゴの大繁殖を把握することができれば、作物への被害を未然に防げるかもしれません。また、エネルギー危机に対応するために、かつて议论されていた「宇宙太阳光発电」が再び注目を集めつつある兆しもあります。すでに日本では、宇宙で太阳电池で発电した电気エネルギーを、マイクロ波を使って地上に送信する方法が长年、研究されています。
── これからの宇宙産業をどのようにご覧になっていますか?
产业界においては、伸びしろの大きい宇宙产业への関心が非常に高まっています。実は、よく注目されるロケット?卫星などの宇宙机器製造产业が宇宙产业全体に占める割合は微々たるもので、大部分は宇宙技术を利用したサービスの事业なのです。さらにこれからは、狭义の宇宙関连产业に加えて、関连する周辺产业の急速な成长が见込まれます。2050年には、宇宙产业全体の市场规模が200兆円を超え、そのうち55%は宇宙に関连する周辺产业になると予想されています。
一方、宇宙产业のこれからには悬念もあります。现状、例えば人工卫星が使う电波の周波数帯は、他の用途と干渉しないように制限されています。しかし、卫星の打ち上げ回数に関しては制限がありません。ルールがないまま宇宙产业の発展が加速すると、无制限に卫星が打ち上げられ、宇宙空间がカオスな状况に陥ってしまう危険性も否定できません。卫星同士が衝突して、宇宙ゴミである「スペースデブリ」が発生し、それがまた别の卫星に衝突するという连锁反応が起きると、宇宙ゴミが自己増殖していく「ケスラーシンドローム」が起こる可能性があります。最悪、人类が宇宙に行けなくなったり、地上からの星の観测が难しくなってしまったり、といった状况も起こり得ます。
── 政府の宇宙政策委員としても活動されています。日本の宇宙政策は、これからどのような方針で展開されていくと考えられますか?
今のところ、宇宙空间に大量破壊兵器を配置してはならないという共通认识はあるものの、宇宙空间の军事的な利用については、议论が続いている状况です。宇宙开発は、こうした安全保障に代表されるように、地政的な条件に影响されやすい分野ですから、日本も、协働していく相手国を、慎重に决めていかなければいけないと考えます。これまでに私たちの研究室で开発した人工卫星15机のうち、5机はロシアのロケットを使って打ち上げましたが、昨今の情势の変化に影响を受け、ロシアでの打ち上げは难しくなっています。
地球観测の分野において、地上の物体を识别する性能=「分解能」が高い卫星の竞争が激しくなるなか、日本と台湾は重さ10キロ程度の卫星での分解能では世界を一歩リードできる予定です。今夏以降、台湾の宇宙机関と共同开発した人工卫星「翱狈骋尝础滨厂础罢(オンライサット)」を打ち上げます。これは、2.6メートルの分解能を备えた、非常に优れた卫星です。他に、インフラが成长を続けていることから、人工卫星のニーズが増しているアフリカの国々との协力も期待されます。例えば、ルワンダ初の人工卫星「搁奥础厂础罢-1」は、日本から2019年に打ち上げられています。
そして、これからの日本の宇宙开発に「失敗を許容できる文化」をふたたび取り入れたいと思っています。数少ない大型ミッションにおいて技術向上を目指そうとすると「失敗が許されない」状況が生まれます。単一のミッションに莫大な時間と資金をすべて集約することになり、結果的に、技術向上のスピードが遅れてしまうからです。そこで私は、政府の基本計画に「失敗を恐れず」という文言を繰り返し入れるように心がけています。イーロン?マスクが“If things are not failing, you are not innovating enough”(失敗していないとすれば、それはイノベーションを起こしてないということだ)と話しているように、日本の開発者たちも、数多くの失敗を恐れずに乗り越えて、これからもチャレンジし続けてほしいと思います。
中須賀 真一
工学系研究科 教授
東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)。日本アイ?ビー?エム(株)東京基礎研究所入社。東京大学先端科学技術研究センター助教授、同大大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻助教授、アメリカ?メリーランド大学およびスタンフォード大学客員研究員などを経て 2004 年より東京大学大学院工学系部研究科航空宇宙工学専攻教授。2012 年から内閣府宇宙政策委員会委員。共著に『国家としての宇宙戦略論』(2006年、誠文堂新光社)、(2014年、东京大学出版会)、ASEAN Space Programs: History and Way Forward(础厂贰础狈の宇宙开発プログラム)(2022年、Springer Singapore)、(2023年、大和书房)などがある。
取材日:2024年5月20日
取材:寺田悠纪、ハナ?ダールバーグ=ドッド