ジェンダー不平等の解消に向けて

3月8日は、女性の権利や政治?経済的分野への参加について考え、ジェンダー平等の実现を目指すために制定された国际女性デーです。日本におけるジェンダー不平等の特徴や打开策について、教育?仕事?家族という3つの社会领域间の関係に注目した実証研究を行う东京大学大学院教育学研究科の本田由纪教授に闻きました。

―― 国际女性デーにあたって「女性」について考える際、重要なことは何でしょうか?
男性に比べて副次的な存在とみなされがちな女性に光をあてることは、非常に重要です。まず、女性やジェンダーについてお话しする前に留意しておきたい点があります。ジェンダー(驳别苍诲别谤)とは、生物学的な性差(蝉别虫)に対して、社会的に构筑された性别を指す概念です。ジェンダーには、男性?女性に本质的な违いがあるとの认识のもと、男性はこうあるべき?女性はこうあるべき、という规范的な期待も含まれています。社会的?歴史的に构筑されたジェンダーの规范は、人々のあいだで共有され、内面化されてきました。しかし、ジェンダーに注目した数多くの研究が指摘してきたように、人间を男性?女性の2つのカテゴリーに分けて捉える思考や言叶遣いには、弊害があります。たとえば、男性?女性という区分に必ずしもあてはまらない、セクシャルマイノリティといわれる性的少数者、そして同じカテゴリーの中にもある差异や多様性が排除されてしまうことが悬念されます。
多様性を大事にするためには、二分法に基づいた偏见や言叶遣いを见直し、将来的には解消していくことが望ましいと考えています。その一方で、男女别の统计や分布が示す通り、男性?女性の间には大きな格差があり、明らかに女性のほうが不利な状况に置かれていることも事実です。したがって现状では、二分法のジェンダーの思考を解消するための过程として、男性?女性というカテゴリーを使わざるを得ないでしょう。国际女性デーをきっかけに女性に注目することはとても重要ですが、私たちはジェンダー不平等を解消するための道の途中にいる、という认识を持っていたいと思います。
日本社会の歪み
―― 日本における男女格差の現状は、どのようなものでしょうか?
世界経済フォーラムは、各国のデータをもとに男女格差の现状を评価した报告书を発表しています。そのなかで、2023年の日本のジェンダーギャップ指数は、146ヵ国中125位という结果でした。これは2006年に公表が始まって以来、最低の结果で、先进国を名乗るのに値しない顺位です。具体的にどのような个别の项目によって评価されているのか、详しく読み解いていく必要があります。

まず、日本の顺位を下げている最大の要因は政治参画です。地方であれ中央であれ、政治的な决定に関わるポストに女性が非常に少ないことに加え、议员の平均年齢の高さは先进国のなかで一番と言っても过言ではありません。つまり、法律や制度をつくり、物事を决める人々の中心が年配の男性であるため、女性や若者の声が反映されにくい状况にあります。
次に、経済参画に関するジェンダーギャップが日本の顺位を下げています。この背景には、正规雇用と非正规雇用の格差があると考えられます。日本では、レギュラーワーカー(正社员)とノンレギュラーワーカー(非正规雇用)の赁金に大きな差があります。パート、アルバイト、嘱託、非常勤、といった名前で呼ばれる非正规の人たちは、赁金が安いだけでなく、必要な时だけ役に立つ使い捨てのような存在として扱われ、スキルの育成もおろそかにされています。就労率だけを见ると、かなり男女平等が実现されているように见えますが、家庭と仕事を両立するために女性の多くは非正规として働いています。それは结局、管理职や専门性が高い职种における女性の比率を下げ、経済参画を阻んでいます。
もう一つ、注视すべき项目は教育です。公表されている教育におけるジェンダーギャップ指数には、分野别の男女格差が指标に组み込まれていません。そのため指数からは、男女平等が実现されているように见えます。しかし、学部や専攻分野を详しく见ていくと、人文系や看护といった分野に比べて、理工学の分野では女子学生の割合が非常に少ないことが分かります。これは、社会に浸透してしまっている「男らしさ」「女らしさ」の固定観念(ジェンダーステレオタイプ)の表れだと思います。15歳を対象とした国际学习到达度调査「笔滨厂础(ピザ)」の结果も示しているように、日本の女子の科学や数学のリテラシーは世界トップクラスです。リテラシーが高いにもかかわらず、理工学の分野に进学する女子学生が少ないことは、性别によってどの分野に进学することがふさわしいか、という思い込みが反映された结果と言えると思います。

右:日本の高校1年生の学習到達度(OECD PISA 2022)
より
―― ジェンダーステレオタイプがなかなか解消されないのはなぜでしょうか?
さきほど述べた政治参画や経済参画における男女格差の问题があります。これについては、高齢の男性中心である社会の仕组みを変革し、女性の割合を各所で増やすことが重要です。それだけでなく、个人の选択でさえ社会に流布する固定観念やジェンダーステレオタイプに影响されていることを自覚し、一人一人が変わっていくことも必要です。
ジェンダーステレオタイプによって生きづらい状况に置かれているのは女性だけではありません。男性は、时间やエネルギーの大半を、いわゆる「仕事」に注ぎ、家庭外で公的な役割を果たし収入を得るよう求められてきました。意识调査では、仕事以外にもっと时间を使いたいと思っている男性が多いということもわかっています。しかし日本社会では、男性は稼ぎ手である、というジェンダーステレオタイプが长きにわたり受け継がれてきたことで、男女ともに偏った状况に惯らされてきたのです。男性は、権力や财力を维持するために、自分の役割から外れる部分を女性に期待するようになり、结果として家事が女性に押しつけられてきました。すると、女性も男性に対して「働いて稼いでもらわないと困る」という期待を持つようになります。非対称でいびつな状况から両者とも抜け出せず、歪みが再生产され続けてきたのが现代日本の状况です。
ジェンダー不平等の再生产を止めるために
―― 日本のジェンダー不平等は、歴史的にどのように形成されてきたのでしょうか?
败戦后の高度経済成长期に构筑された「戦后日本型循环モデル」に注目すると、非対称でいびつな社会の根本的原因を把握できると考えています。「戦后日本型循环モデル」とは、教育?仕事?家族の间で一方向的に资源を流し込む特异な社会のあり方です。1960年代顷の日本は、急激な経済成长、技术革新、所得の増加などを経験し、その変化に対応するための社会システムを政府が先导して作り上げました。国民は、性别と世代に応じて、教育?仕事?家族という3つの社会システムを担うよう诱导されました。子供は勉强、男性は仕事、そして女性は家庭を支えることに専念し、それぞれの领域でパフォーマンスを最大化していくことが理想とされました。その结果、1960年代から80年代にかけて、性别役割分业が循环モデルを回すための不可欠な仕组みとして取り込まれていきました。この循环モデルは一见効率的ではあるものの、ジェンダーステレオタイプを强化しただけでなく、実际には教育?仕事?家族という各领域の本质的な意义を掘り崩すように作用していました。
また、年金制度を充実させ日本が福祉国家に向けた歩みを始めようとした70年代初头にオイルショックが起こり、税収が减ったことで财政的基盘が打撃を受けました。そこで当时の政府は、「日本型福祉社会」を打ち出しました。国が集めた税金によって福祉制度を整える福祉国家に代わり、国家の支出をできるだけ抑え、人々の生活の安定を个人の自助努力と家族の相互扶助によって支える「日本型福祉社会」が提唱されました。「日本型福祉社会」の中核には、政府の身胜手な期待と役割を女性に押しつけることで成り立たせようとした&濒诲辩耻辞;幻想の家族像&谤诲辩耻辞;があります。家族のなかで主に女性が高齢者や子供のケアを担うことが期待され、それが日本の「美风」とみなされてきたのです。

他の欧米先进诸国でも、性别役割分业が明确であった时期はありました。その多くの先进诸国では分业の时期を経たあと、次第に状况改善への努力が繰り広げられ、女性の就労率の上昇や権利の向上につながりました。それに比べて日本では、克服への&濒诲辩耻辞;もがき&谤诲辩耻辞;が充分に発动されてきませんでした。「戦后日本型循环モデル」と「日本型福祉社会」の幻想が一世を风靡し、経済成长期の日本の成功体験として记忆されてしまい、ジェンダーバランスの変革が起きにくい状态が続いてきました。バブル経済が崩壊した90年代初头以降、「戦后日本型循环モデル」は教育?仕事?家族の全ての领域间の関係において破绽に向かっています。人口减少や少子高齢化が进み、赁金が上がらず困穷者も急増する今、「日本型福祉社会」も破绽しています。今后社会を维持するためには、ますますジェンダーバランスの変革が求められます。
―― ジェンダーバランス変革のために、どのような努力が必要だとお考えですか?
教育?仕事?家族の间をつなぎ直す社会全体のドラスティックな体质転换が必要だと考えています。これは、一つの法律や政策で実现できるような简単なものではありません。あらゆる领域をもみほぐし、组み替えていくことで初めて可能になると思います。まずは、男女ともに适正な时间働き、健全な私的生活を送れるような社会にするため、働き方の见直しが重要です。その际、女性も社会で活跃し、できるだけ経済力や発言力を持ったほうが良いと私は考えています。そのためには、これまで女性が担うことが多かったケアの労働を家庭の外で担っていける社会を作らなければなりません。高齢者のケアに加えて、保育と教育の拡充も重要な要素です。近年「亲ガチャ」という言叶も闻かれますが、幼い子供や学童学齢期の子供の世话を家庭の外で公的な机関が担えるようになれば、生まれてきた家庭の环境に人生が左右されてしまうといった状况も防ぐことができます。
女性の政治?経済参画を促していくために、高等教育を担う大学にも责任があります。东京大学では、ジェンダーバランスの変革を目指して日々取り组みが行われていますが、まだまだ不十分です。今后も日本社会の歪みの再生产に加担しないように自己点検を続け、社会のなかで重要な役割を担う人材をジェンダーにかかわらず辈出していく努力を続けることが大切だと思っています。

本田 由紀
教育学研究科教授
东京大学大学院教育学研究科博士课程単位取得退学、博士(教育学)。日本労働研究机构研究员、东京大学社会科学研究所助教授などを経て、2008年より现职。着书に(2005年、狈罢罢出版)、(2008年、劲草书房)、(2020年、岩波新书)、(2021年、ちくまプリマ―新书)などがある。
取材日:2024年1月11日
取材:寺田悠纪、ハナ?ダールバーグ=ドッド