台湾をめぐる东アジア情势
台湾をめぐる东アジア情势に注目が集まっています。現在の緊張状態に至る中台関係の構図と日本の置かれた立場について、東京大学东洋文化研究所教授の松田康博先生に聞きました。
「繁栄と自立のジレンマ」のなかで
―― 現在の台湾の国际的な立場はどのような歴史を経て構築されてきたのでしょうか?
台湾は日本やアメリカとは外交関係がありませんが、多くの人がビザなしで観光に行っているように、台湾をめぐる国际関係は极めて特殊です。その背景には复雑な歴史的経纬が存在します。
台湾は、日清戦争の结果、1895年に日本の植民地となりましたが、日本は第二次世界大戦で败れて台湾を放弃します。一方、中国では中国国民党(国民党)と中国共产党(共产党)の内戦が始まり、胜利した共产党が1949年に中华人民共和国を建国しましたが、败れた国民党は政府、军队、官僚机构を中心とした约百万の人々とともに台湾に移り、中华民国を名乗り続けます。共产党は台湾も取ろうとしましたが、その直前の1950年に朝鲜戦争が勃発したため、中国の内戦は事実上そこで一时停止しました。
当初、アメリカや日本をはじめとする多くの国々は中华民国を承认していましたが、1970年代以降、台湾から大陆の中国へと外交関係を切り替えていきます。それでも台湾は、冷戦下で西侧阵営にあったため、日本や韩国と同じように、安全保障上はアメリカの庇护下にありつつ、経済的には米国市场への输出や米国公司からの技术支援によって経済成长を遂げました。
このような関係は、冷戦が终わりグローバリゼーションの时代に入ると、変化をせまられます。象徴的なできごとが、2001-02年の中国と台湾の奥罢翱(世界贸易机関)加盟です。とりわけ中国は、贸易や投资の障壁が非常に低くなったことで世界中から投资が流れこみ、&濒诲辩耻辞;世界の工场&谤诲辩耻辞;に変わっていきます。
こうなると、台湾は苦しい状况におかれることになります。日?米?欧の公司が中国への投资を进めるなか、台湾の経済発展と繁栄を保つためには、敌だからといって中国とは贸易も投资もしないというわけにはいきません。そこで台湾公司も急速に中国との贸易や投资関係を强めましたが、そうすると、いわば敌に経済的に依存するという状况が生じてしまうのです。もちろん中国は最终的に台湾の「统一」をねらっていますが、最大の贸易相手、投资相手である以上、台湾は中国から离れることも难しく、自立を犠牲にせざるをえなくなっていく。私はこれを「繁栄と自立のジレンマ」と呼んでいます。
―― 「繁栄と自立のジレンマ」を抱えた台湾は、どのような対応をしてきたのでしょうか?
台湾は「繁栄と自立のジレンマ」のなかで、対中政策を模索してきました。その背景を理解するためには、私たちが见ているのは民主化を遂げた台湾であることを念头に置いておく必要があります。
戦后の台湾では、支配者として入ってきた外省人と呼ばれる人々が、日本の植民地时代を経験した本省人と呼ばれる人々を独裁的に统治していましたが、1980年代になると、台湾にも民主化の「第叁の波」(*註)が到达しました。民主化で投票によって政権が选ばれるようになると、多数派である本省人たちの声が政治に反映されるようになります。
日本の统治を経験した人々とその子孙の多くは、国民党により中国的に涂り替えられた台湾から、台湾らしさを取り戻したいと考えていました。结果として、中国に対抗して自分たちの自立性を确立したいと愿う势力と、中国とうまく関係を维持して将来的には统合も排除しないと考える势力とが政権交代を繰り返しているのが、民主化された21世纪の台湾です。どちらの方针をとるかは、国际関係だけでなく、内政によっても大きく左右されてきました。
2000年から8年间続いた民主进歩党(民进党)の陈水扁政権は、台湾の自立を重视しました。2008年から2016年の中国国民党の马英九政権は、悪化した中国との関係を改善し、将来的な统一も排除しない姿势を见せました。しかし、中国の経済的影响力が强くなりすぎると反発が生じ、2016年に再び政権交代が起こりました。现在の民进党の蔡英文政権は、政治的には独自性を维持し、経済的には中国だけに依存することを避け、経済パートナーの多元化を进める政策をとっています。
繰り返される军事的紧张の高まり
―― 中国の軍事的圧力の背景には何があるとお考えですか?
2000年代以降、中国は台湾への军事的圧力を强めるとともに、アメリカに対抗するための核戦力の増强を猛烈なスピードで进めています。まさに戦争準备をしているように见える中国の様子をうけて、近年、台湾有事への悬念が强まっています。军事的紧张関係が再び高まりを见せるようになった背景には、いくつかの要因があります。
戦后、中国はあらゆる方法を用いて台湾を「统一」しようとしてきました。もともと1949年の时点で台湾を取れなかった大きな要因は、台湾海峡の存在です。土地を夺って占领しようとする际に、川や海は大きな障害となります。そこで、中国は军事闘争で台湾を取ることをいったんあきらめ、外交闘争に移りました。中国は「一つの中国」という原则を掲げて、诸外国に北京との関係を选ばせるようにせまり、外交的に台湾を孤立させようとしたのです。そうして1971年に国连における中国の代表権を中华民国から中华人民共和国に変更させ、関连机関からも台湾を追放しました。
しかし、台湾は経済规模が非常に大きかったので、多くの国々は外交関係が无くとも贸易パートナーとして台湾との関係を维持しました。そこで中国は、次に経済的手段に诉えて、先に述べたように台湾を経済的に依存させようと试みます。しかし、民主化した台湾ではかえって反発と政権交代が起こり、中国の思惑通りにはいきませんでした。
中国は外交手段でも経済的手段でも台湾を取れませんでしたが、その间に世界第2位の経済大国?军事大国に成长しました。そこで、一度あきらめた军事的手段を再びとるようになったのが近年の状况です。これに対しアメリカは台湾を守る姿势を示しているので、中国がアメリカや日米同盟を无视して台湾を攻撃することはできません。しかし、米军や日本を排除はできなくても、介入を抑止するだけの能力を持とう、できれば台湾から抵抗する気を失わせたい、と考えて大军拡に乗り出しているのです。
―― 日本はどのような立場に置かれているのでしょうか?
もし台湾海峡で戦争が起こったら、日本が无関係でいることはできません。
中国が対岸の福建省から台湾にミサイル攻撃や空爆を行うことがあれば、日本の飞行机もいつ巻き添えで撃ち落されても不思议ではありません。台湾?中国の両者が海に机雷を敷设すると、海流の関係で日本近海にも流れてきて、船が航行できなくなってしまいます。中国军が台湾に上陆しようとする际は、上海方面から北部に、海南岛方面から南部に进攻しますから、部队は冲縄とフィリピン北部の目の前を通っていくのです。つまり、台湾周辺に加え、东シナ海や南シナ海を含めた大戦争になるのです。
中国が台湾を攻撃した场合、米军は台湾関係法に基づいて、外交努力から武力介入に至るまで适切なあらゆる手段を取るでしょう。台湾とアメリカはもともと同盟関係にあっただけでなく、台湾はアメリカにとって経済的?技术的に重要で、例えば世界最大级の先端的半导体公司があります。アメリカは、必要なら武力を使ってでも中国による台湾「统一」を阻止すると考えられます。
现状では中国に対する抑止が効いているため、诸外国を巻き込む危机には至っていませんが、中国はこの现状を打破しようとしています。过去20年间で、中国の国防费は大幅に増大し、今や国防费も骋顿笔も日本の3~4倍です。戦力を高めてきた现在の中国は、かつて日本が真珠湾攻撃を行った时のように、これまでなら考えられなかったアメリカに対して奇袭攻撃をかける可能性さえ否定できません。そして中国が开戦初日の段阶で在日米军を叩こうとした场合、日本全土を巻き込む戦争が起こりうるのです。
それに対し、日本は长いあいだ防卫费が低く抑えられてきているため、これまで日本の防卫力は相対的に弱くなっていました。つまり今后増やしてようやく现状维持になるのです。そこで日本は昨年、防卫费の増额、反撃能力の整备、南西诸岛の自卫队の増强等を行うように転换しましたが、このような防卫力の増强と日米同盟の强化は、対中抑止を维持することで戦争を起こさせないようにするためのものです。このまま放置すると现状が変更されてしまいます。
国际秩序を守るために
―― 長期化するウクライナ戦争は東アジア情勢にも影響を与えていますか?
ロシア?ウクライナ戦争は、21世纪にも主要国家间の戦争が起こりうることを示しました。これは、非国家主体のテロ组织が胁威だと言われていた10年前には考えられなかったことです。また、「台湾は中国の一部である」という中国の主张は「ウクライナとロシアは不可分である」というロシアの主张とも重なります。习近平国家主席は、就任以来「中华民族の伟大な復兴」を掲げ、そのためには祖国の统一が必要条件であると明言しています。今后さらに军拡を进めるなかで、个人独裁化が进んでウクライナ戦争と似たような事态が起こる可能性は否定できません。「今日のウクライナは明日の东アジア」とは、多くの人が连想するとおりです。
ウクライナと台湾には多くの相违点もあります。ロシアと陆続きのウクライナに対して、台湾をめぐる衝突が起きた场合の主戦场は海と空です。海を隔てた岛は、攻撃することはできても占领することは容易ではありません。他方、主権国家として国连に加盟しているウクライナと加盟していない台湾とでは、置かれた状况が异なります。国连総会でロシアのウクライナ侵攻を非难する决议が採択されましたが、台湾有事の际には、骋7、贰鲍、日米同盟、有志连合など、国连以外の枠组みで対応せざるをえないでしょう。
―― これからの東アジア情勢を見据えて注目すべきことは何ですか?
台湾をめぐる东アジア情势は、現在の国际秩序を維持していくための要と言っても過言ではありません。
ロシア?ウクライナ戦争からも明らかなとおり、アメリカは核保有国と直接戦うことは避けてきました。アメリカが中国と戦わない唯一の理由は、中国の核兵器の存在です。しかし、核兵器さえ持てばアメリカは手を出さない、ということになれば、核保有国はやりたい放题になりますし、核を持とうとする国が増えて、核不拡散という枠组みが壊れてしまいます。アメリカが台湾を见捨てることになれば、日本を含む多くの同盟国でも、自分たちで核武装せざるをえないという议论が起こるでしょう。つまり、台湾を失うことは第二次世界大戦后の国际秩序の崩壊を意味するのです。
现状の秩序を维持するべく、东?东南アジア诸国では、アメリカと协调路线をとり、中国に対する抑止体制を构筑しようとする政権が出てきました。フィリピンでは反米路线のドゥテルテ政権から対米协调を强めるマルコス?ジュニアの政権に変わり、韩国の尹锡悦政権も中国に対して强気の姿势を见せています。
このような情势のなかで、台湾は2024年1月に総统选挙を控えています。选挙では中国やアメリカとの関係をどうすべきか、国防力强化などのナショナル?アジェンダに加えて、経済政策などの内政も争点となります。结果次第では対中政策が大きく転换されることもありえます。中国との関係の最前线に置かれた台湾の人々がどのような选択をするのか、引き続き注视していく必要があるでしょう。
*註:政治学者サミュエル?ハンティントンが着书『第叁の波』(1991年)の中で呼んだ、1974年から世界各地で进んだ民主化の动き。
松田康博
东洋文化研究所教授
庆应义塾大学大学院法学研究科博士课程単位取得退学、博士(法学)。在香港日本国総领事馆専门调査员、防卫庁(省)防卫研究所助手?主任研究官、东京大学东洋文化研究所准教授を経て2011年より现职。着着に(2006年、庆应义塾大学出版会)、(编着、2009年、彩流社)、(共着、2020年、东京大学出版会)などがある。
研究室ホームページ:
取材日:2023年7月19日
取材:寺田悠纪