自然に学び、持続可能な社会をつくる 环境问题に取り组むための教育と社会活动
毎年4月22日は、地球环境への意识を高め、将来の世代のために环境を守る行动の重要性を确认する「アースデイ」です。地球环境への负荷を軽减するために何をすべきか、自然からの学びをどう活かすかについて、东京大学大学院农学生命科学研究科の五十嵐圭日子教授に闻きました。
地球环境への负荷を軽减するために
── 持続可能な社会の実現を阻む最大の要因は何ですか?
现代の人间社会の仕组みが、自然环境に过大な负荷をかけています。エネルギーや食物、素材原料として私たちが自然から取り出すものの量と、自然に还すものの量との间でバランスがとれていないのです。どんな新技术が开発されたとしても、この循环による均衡が保たれない限り、长期的な持続可能性は実现できません。
アース?オーバーシュート?デーと呼ばれる日のことをご存知ですか。地球が再生产できる生物资源の総量を、人间がすべて使い切ってしまうタイミングを、1年のうちの日付になぞらえて示すものです。1月1日から使い始めてその日を过ぎると、私たちは未来から资源を&辩耻辞迟;借りて&辩耻辞迟;消费していることになります。私が生まれた1970年代、人类は1年间でおよそ地球1个分の资源を消费していました。辛うじてオーバーシュートはしていなかったと言えます。しかし、昨年(2022年)は7月28日にアース?オーバーシュート?デーを迎えました。しかも地球上のすべての人々が日本に住む私たちと同じレベルの生活を送っていたなら、5月6日にはアース?オーバーシュート?デーを迎えることになります。つまり、今の私たちの生活スタイルをそのまま続けるなら、1年间に地球约2.9个分の资源が必要になるのです。アース?オーバーシュート?デーの日付は、年々早まっています。
── 何が過大な負荷となっているのでしょう?
私たち人间とバイオマス、つまり地球の表面上に存在する有机物との関わり方が主な原因の一つです。バイオマスとは、生きている、もしくは直前まで生きていた动植物に由来する再生可能な有机物です。人が口にする食物、衣服に用いる绵や羊毛、家を建てるための木材などがその例です。
人が木を燃やしたり食料を摂取したりしてこれらの物质を消费すると、主に二酸化炭素の形で炭素が発生します。この炭素は、植物によって吸収され、地球环境に还元されます。これを「炭素循环」と呼びます。地球环境を维持するためには、この循环が十分に机能することが必要です。
ところが、毎日の食料品からプラスチック製品に至るまで、私たちは作ったモノを大量に廃弃し、浪费しています。その结果、食品のように本来炭素循环によって地球に戻すことができるものが、その循环に乗ることがなくなっています。流通している商品の扱い方が、环境に负荷を与える原因となっているわけです。リサイクルが可能であれば再利用する、そうでないものは炭素を地球に还元できるように、循环サイクルの改善が必要です。
また、石油や天然ガスなどの化石资源は、通常の炭素循环には含まれません。厳密には、化石资源ももとは动植物ですが、数亿年かかって形成されたため、「长い间地下に隔离されていた炭素」とでも言いうるものなのです。これをエネルギーとして利用するために燃やすと、膨大な时间の中で贮蔵されていた大量の二酸化炭素が大気中に放出され、自然がこれを有机物に戻す速度が追いつかないわけです。
未来に向けた教育と社会活动
── 地球环境への負荷を軽減するため、私たちにできることは何でしょうか?
実际のところ、个人レベルでできることは限られています。例えばプラスチックの购入や廃弃を避けることはほとんど不可能です。家庭の定番であるお米を考えてみてください。かつてお米は稲わらから作られた俵に入れて売られていました。のちに、麻袋をそのつど生产者のところに持っていき、米を买うようになりました。ところが、今では、ポリ袋に入った米が贩売され、この袋は生产者に返却されることもなく、自然に还ることもありません。袋は捨てられ、また新しい袋に入った米を购入しなければなりません。米がポリ袋で贩売されている限り、プラスチック廃弃による环境负荷を个人の努力で削减させることは难しいでしょう。
つまり、これは公司や产业界、政府レベルにおいて大规模かつ组织的なシステムの変革が求められている课题なのです。そのような巨大な存在と向き合うことになると、私たちは一人の人间としてあまりにも无力であると絶望してしまいそうです。しかし、その絶望こそが変革を促すエネルギーにもなるのです。问题とその解决のためになすべきことに気付くのが第一歩です。そして、できるだけ多くの人々にそのことを知ってもらうために、教育と社会活动が欠かせません。
── どのような教育や社会活動を実践していらっしゃるのでしょう?
东京大学の取り组みとして、私を含め3名の教员で、2017年にを立ち上げました。アース?オーバーシュート?デーの背后にある考え方と同じく、地球环境への负荷についての意识を高め、地球1个分相当の资源での生活を実现するためのイノベーションについて考えることを目的としています。このプログラムに参加する学生は、讲义を受けるだけでなく、プロジェクトを遂行し、公司や政府机関の人々と関わりながら持続可能性に関する问题を明らかにしその解决策を导き出すためのトレーニングを受けます。プログラム修了后は、その経験を将来の研究やキャリアに活かすことができます。
社会活动としては、「」に関わっています。このプロジェクトは、気候変动について人々の意识を高め、その対策について正确な情报を発信するために、さまざまな分野のボランティア人材を养成しています。これまでに世界で约45,000人、日本では800人以上のクライメート?リアリティ?リーダーが生まれました。リーダーになると、多様な背景を持つ人々が所属する大きなグループの一员として、気候変动问题について意见を交わし知见を共有することができます。このプロジェクトに参加してから、気候変动问题についての私の意识は変わりました。この问题についての议论が世界でどのように行われているのかを、根拠を持って定量的に理解していますので、それに基づいて、日本で、そして大学で、私たちは気候変动にどう取り组むべきかをより真剣に考えるようになったのです。
他には、映画『せかいのおきく』の监修も行っています。この映画を制作しているは、映画製作者と科学者が连携し、気候変动についての意识を高める物语を创り映画の形で広く伝えて行こうとする活动です。『せかいのおきく』という映画は、江戸时代を舞台に「循环型バイオエコノミー」ともいえる生き方を绍介し、2023年の社会に生きる私たちがどうすれば再びその生き方を実现できるのかを考えさせます。それは、何かを买い、使い、捨てる、という现代の直线的(リニア)な経済に替わって、再利用、リサイクル、修缮などによって资源を循环させ続ける方法を见つけ出すということです。
このような活動は、異なった形をとってさまざまな場で展開されています。気候変動について正確な事実を知るだけでなく、地球环境への负荷を軽减するためには現状とは異なる暮らしかたがあり得るのだということを理解しなければなりません。
自然界から学べること
── 持続可能なライフスタイルにつながるものとして、どのような自然現象に注目していらっしゃいますか?
私の専门は「キノコ」です。菌类であるキノコは、木から必要な栄养分を吸収する、すなわち、外部から有机物を取り込むことによって生きており、最小限のエネルギーで新しい物质を作り出すという惊くべき特徴を持っています。独自の消化酵素を使い、エネルギーをまったく使わずに、木という材料を利用しているのです。
私たちはプラスチックを作るときに非常に多くのエネルギーを使い、廃弃するために燃やす际にもまたエネルギーを用います。リサイクルしようとしてもエネルギーが必要です。プラスチックに限らず、现代社会における生活では、あらゆる场面でエネルギーを消费しています。
一方、自然界では、ごくわずかなエネルギー消费で物质を作ったり、壊したりすることができています。例えば、ツガサルノコシカケ(学名:Fomitopsis pinicola)の子実体が成熟して胞子を放出するとき、子実体はプラスチックのように硬くなります。プラスチックを作るには200℃を超える高温の状态が必要ですが、キノコは自然な森林の温度の中でも、プラスチックのような固さの物质を作り出すことができるのです。自然环境におけるエネルギーや资源の使われ方の仕组みがごく一部でも分かれば、人间の日常生活に応用し実现できることは多いはずです。
── これまで人間は自然界とどう関わり何を学んできたのでしょう。また、現在の研究の状況を教えてください。
品种改良に注目すると、私たちがこれまで自然界から学んできたことの一端が分かるでしょう。品种改良とは、ある生物に备わっていてほしい遗伝的性质を特定し、それを持つ个体を繁殖させ、子孙が必ずその特定の性质を持つようにする过程のことです。动物を家畜化したり、本来は食べられなかった、あるいは栄养価が低かったイチゴ、ジャガイモ、トウモロコシなどを食料として摂取できるようにするためなど、理由は様々ですが、人类は何千年にもわたって品种改良を実践してきました。自然をつぶさに観察し、自分たちにとって有益なものを生み出そうとしてきたのです。
近年、よく话题になるゲノム编集は、人类がこれまで実践してきた品种改良の延长线上にあると言えるでしょう。もともとある遗伝子のパターンに変化を加えるという论理は同じだからです。しかし、実は、私が大学院学生だった1990年代后半以后、ゲノムをめぐる研究の状况は剧的に変化しています。遗伝子をはじめとする顿狈础情报、つまりゲノムそのものに関する知识が得られるようになったからです。以前は、ある生物が特定の条件下でどのような反応を示すかを観察によって把握することはできても、反応の背景にある遗伝子レベルの原因までは知られていませんでした。ゲノムは简単に「読める」ものではありません。それが容易に解読できるようになって、あらゆることが変わりました。ゲノムにアクセスできなかった顷と比べると、颁翱痴滨顿-19のような新种のウイルスも、はるかに容易に扱えるようになりました。
しかし、これから悬念されることもあります。例えば、とても筋肉量が多い鱼や肉を作り出すなど、将来的に人类がゲノム编集をどこまで利用していくのかについては、议论をする必要があると考えています。品种改良の延长线上にあるゲノム编集とは异なり、本来持っていなかった遗伝子を人為的に加える遗伝子组み换えについても慎重な検讨が必要です。生命科学は非常に大きな転机を迎えています。生物の働きについてより详细な知见が得られ、人间の生活にも影响する多くの可能性が解明されてきています。とはいえ、自然界の种について、分かっていないことはまだたくさんあります。私たちを取り巻く自然界がどのようにして成り立ち何を必要としているのかを理解することによってはじめて、私たちは自然环境との均衡のなかで生きていくことができるのです。
五十嵐 圭日子
大学院农学生命科学研究科教授
东京大学大学院农学生命科学研究科博士课程修了。博士(农学)。米国ジョージア大学访问研究员、日本学术振兴会特别研究员、スウェーデンウプサラ大学博士研究员を経て、2002年に帰国后、东京大学大学院农学生命科学研究科助手、2007年より同助教、2009年より同准教授、2021年より现职。2016年よりフィンランド痴罢罢技术研究センター客员教授。着者?共着者として数百本以上の论文を执笔。植物や菌类からの物质?エネルギー生产研究の第一人者。
本記事は、Education and outreach to create a sustainable society: Perspectives from the natural world(取材日:2023年4月4日、公開日:2023年4月21日)をもとに、日本語版を作成しました。
取材:ハナ?ダールバーグ=ドッド、寺田悠纪