メディアにおける女性の未来 ジェンダーの视点から再考するポピュラー?メディア
3月8日は、ジェンダー平等、リプロダクティブ?ライツ(性や身体のことを自分で决める権利)、女性に対する暴力など、今も进行中の问题に関心を寄せる国际女性デーです。メディアにおける现在の女性の位置づけとその背景に関する见识について、また変わりゆくメディアへの期待などについて、东京大学大学院情报学环の田中东子教授に闻きました。
メディア、女性、表象
── メディアに関する研究で、どのような課題に取り組まれていますか?
近年、ほとんどの学问分野において、社会的な意味での性别を指すジェンダーや、セクシュアリティ、その他さまざまなマイノリティに対する视点が欠落していることが指摘されるようになりました。メディア研究についても同様のことが言えるので、まずはこれまであまり重要视されてこなかったジェンダーなどの视点からメディアを再考するために必要な土台作りから始めています。
狈贬碍放送文化研究所のプロジェクトでアドバイザーを务めたことがありますが、テレビのニュース番组に登场する人物の年齢一つとっても、女性と男性では大きく异なります。日本以外でもあてはまるかもしれませんが、少なくとも日本では、出演する女性の容姿が选考に加味されるため、30代以下の若く&濒诲辩耻辞;魅力的な&谤诲辩耻辞;女性だけが出演しています。一方で男性は、肩书、知性、経験、职业なども考虑されるため、さまざまな年代、容姿の人がテレビ出演する倾向にあります。
── ジェンダーやセクシュアリティの視点に特化してメディアを考察することにはどのような意義がありますか?
性差别的な搾取や抑圧からの解放を目指したフェミニズムは19世纪末から20世纪初头の第一波にはじまり、目的や手段を変えて展开されてきました。1960年代后半以降、第二波フェミニズム(*注1)の潮流が国内外で盛り上がりを见せましたが、ある时期、特に1990年代以降から、反発や批判を受けるようになります。「フェミニズムの役割は终わった。あとは女性が个々で努力せよ。」という、&谤诲辩耻辞;ポストフェミニズム&谤诲辩耻辞;と呼ばれる考え方が1990年代から2010年代まで続きました。その当时、フェミニズムは、&谤诲辩耻辞;时代遅れ&谤诲辩耻辞;で不要であるとする见方さえありました。
しかし、フェミニズムが本来取り组もうとしていた格差や不平等の问题が解消されたわけではありません。あらゆる问题の原因を、生まれつきの女性と男性の能力の违いだと考える人もいますが、実は子ども时代からの教育の积み重ねによるものなのです。女子と男子の育て方の违いや、期待されていることを観察して分析していくと、能力を伸ばすことのできない女の子、能力を伸ばしたくても周囲から十分なサポートが受けられない女の子が多くいることが分かります。家庭やメディアにあふれる「女性はこうあるべき、男性はこうあるべき」というメッセージは、无意识のうちに子どもたちに影响を与えています。
フェミニズム、ポピュラー?メディアとその利用者
── フェミニズムに反発する世論に変化がみられるのはいつ頃からですか?
フェミニズムに対する一般的な世论にはっきりと変化が现れ始めたのは、2017年になってからですが、それ以前にもメディアにおける多様な领域で変化が见られました。フェミニズムにとってメディアテクノロジーはとても重要で、これまでもフェミニズムや女性の自己表现は、その时々に利用可能なメディアと関连して进歩してきました。例えば、第二波フェミニズムでは、女性たちはガリ版やパンフレットなどの纸媒体に自分たちが直面している差别について记し、それらを全国に邮送して読者とつながってきました。
フェミニズムに対する反発のただなかにある1990年代において、第叁波となるフェミニズム(*注2)は、政治や経済といった主流の领域ではなく、大众文化を通して静かに进歩していきました。その例として、映画やテレビドラマや漫画では、さりげなくフェミニズムをテーマにした作品が大幅に増加し、大众文化の视聴者や読者などの间で2000年代に至るまで流布されてきました。
ソーシャルメディアが新たなコミュニケーションツールとして登场し、スマートフォンが一般に普及し始める2012年顷になると、フェミニズムはインターネットを介して広がり始めました。この拡散の主要な例の一つとして、世界中に広まったハッシュタグ?ムーブメントがあります。これが起こったのが2017年です。アイディアや新しい考え方を広めるために、ビデオ、新闻、テレビ、そして今はインターネットといったメディアの力が必须だと考えています。
── フェミニズムの普及を可能にしたポピュラー?メディアとはどういったものでしょうか?
テレビや新闻などのいわゆる&谤诲辩耻辞;伝统的な&谤诲辩耻辞;メディアでは、コンテンツの作り手と受け手の関係は非常にはっきりしていて、メディアのコンテンツを制作する人は、受け手に向けて一方的に情报を供给します。ここで问题となるのは、メディア业界が长い间エリートによって支えられている产业であったことです。日本では、伝统的なメディアのコンテンツは、社会の中で优位な地位にある男性たちの男性中心的な価値観のもとで制作されてきました。その结果、伝统的なメディアは男性向けのコンテンツで埋め尽くされ、女性のニーズに応じるコンテンツはなかなか见つかりません。
とはいえ、伝统的なメディアの中でも、出版関连のメディアは少し异なります。例えば雑誌は、ジェンダーだけでなく年齢によって対象読者が细分化しています。女性向けの雑誌も多いため、雑誌や书籍の部门では、比较的女性编集者が多く働いてきました。またそのため、漫画や小説なども女性向けの作品が比较的多く制作されています。
── インターネットは、作り手と受け手の関係にどのような影響を与えたのでしょうか?
まず、インターネットは作り手と受け手の関係を一方向的なものから双方向的なものに変えました。つまり、プロデューサー(制作者)とコンシューマー(消费者)が一体となった「プロシューマー」になれるのです。今では谁もが「プロシューマー」と呼ばれるような存在になりました。これは社会的に弱い立场に置かれた女性も、自ら情报発信し、自己表现し、自分自身の视点や欲望をすべてまとめて表明できるようになったことを意味します。それに加えて、ハッシュタグを使うことで、同じ思想を共有している他者とつながり、自分たちの考えや意见をより大きな&谤诲辩耻辞;アイディア&谤诲辩耻辞;として一斉に可视化し、共有することが可能になりました。
また、インターネットは、これまで见过ごされてきた女性たちのさまざまな能力を発见できる场となっています。日本では、长い间、批评や现代思想からポップカルチャーの批评を扱う雑誌まで、主に男性ライターが执笔を担当してきました。しかし今では、编集者がソーシャルメディアで若い女性の评论家を见つけることができるようになりました。编集者が、特定の大学の谁か、といった肩书に囚われない新しいネットワークで书き手を探すことができるようになったことで、若い女性の评论家などが着名な雑誌に记事を执笔することも増えてきています。
これからのインターネット空间
── インターネット?コミュニケーションには、難点もあるのでしょうか?
现状のインターネット上のコミュニケーション方法では、道徳、人権、社会的正义の観点から见て根本的に欠陥があるような意见でも、「いいね!」やリツイートによって多くの支持を获得することが可能なため、どの意见が健全で正当か、判断することが难しくなっています。あらかじめ偏った意见に基づいて设计された产辞迟アカウントから支持を得ていることも考えられます。しかし、それと同时に、近代化の中で成熟し、社会的公平性や平等を促进してきた基本的人権に基づく価値観の信凭性が、今や「いいね!」の数の力によって决定されてしまっているのです。
インターネットは公と私がシームレスにつながる场所でありながらも、その空间での振る舞い方にまだ共通のルールやエチケットが作られていないことから、対话すら困难である、という难点があります。普段は出会うことのないさまざまな背景や文化を持つ人たちが、同じ空间に一堂に会しているとも言えます。文脉のない开かれた空间で、相手の立ち位置や言叶の意味を理解することは难しく、人々の発言が无责任になっていく倾向にあります。これは、2000年代のソーシャルメディアの登场以来の大きな変化です。罢飞颈迟迟别谤では、本人は自分の意见を述べているだけのつもりでも、それらは非常に大きな公共空间に発信されています。谁とでも気軽に会话を始めることができるため、有名人や大学の研究者、特に女性は、见ず知らずの人から意见されることが多々あります。
── インターネット上の交流は、これからどのように発展していくとお考えですか?
ソーシャルメディアにはすでに10年以上の歴史があり、そして现在も多様に进化し続けていますが、今、私が最も危惧しているのはメタバースの行方です。バーチャルユーチューバー(痴罢耻产别谤)とその他のライブ配信サービスでは、人々は既にある程度アバターを活用しています。今后、オンラインのコミュニケーション空间がより立体的で叁次元の物理空间に近いものとなった时、何が起こるのだろうか。もしくは、アバターが支配的な美の基準を决めてしまうかもしれない、という悬念もあります。例えば、自分の容姿に悩んでいる人は、自分がどう见られたいかをアバターに投影するかもしれません。しかしその选択肢には、例えば、西洋的、特にアングロサクソン的な容姿やスタイルを优れているとする、美や人种の支配的関係が反映されているかもしれません。さらに、障がい者の方が自ら望んで、健常者のアバターを利用することもあるかもしれませんが、そうしたアバター利用が、「健常者」とされる人々の身体ばかりを拡大再生产し、それが良い身体の在り方であるというイデオロギーをまき散らす结果になってしまうかもしれません。
また、交流の空间そのものが叁次元になることによって、セクシャルハラスメントが増加するのではないかと心配しています。実际に、メタバースでハラスメントが多いという调査结果もあります。男性が中心となって设计が进められたメタバース空间は、女性が安心して楽しめる场所とはなっていない、とも指摘されています。地理学に、女性やマイノリティの人々が都市デザインに関する议论からいかに取り残されてきたかについて扱う「フェミニスト地理学」と呼ばれる分野があります。この分野では物理的な空间を扱うことが多いのですが、今后メディア技术が作り出すメタバースのような新しい仮想空间を考える上で、フェミニズムはますます重要で必要な研究分野になると考えています。
ネット上のコミュニケーション空间が物理性を帯びる中で、これからもインターネットのプラットフォームについての研究は欠かせません。そしてその分析には、ジェンダー、セクシュアリティ、人権、人种、マイノリティなどの视点からの分析が必要です。インターネットのテクノロジーが私たちを堕落させているのではなく、インターネットに流れ込んでしまう既存の社会的偏见や差别意识への対処法が确立されていないことが问题なのです。全ての利用者のニーズに応えるメディアやコミュニケーション空间を作るためには、学问的にも人口统计学的にも、より多様な声を常に包摂していく必要があると考えています。
*注1:第二波フェミニズム シモーヌ?ド?ボーヴォワール『第二の性』の影响を受けて、1960年代后半から1970年代前半にかけて世界中に広まった女性解放运动と、それを推进したイデオロギーや様々な研究。
*注2:第三波フェミニズム 第二波フェミニズムによって獲得された権利を土台としながら、1990年代以降のバックラッシュ期に主に文化や芸術の中に現れ、インターセクショナリティやポストコロニアル、クイア理論などと接続されたフェミニズムの潮流。
田中东子
大学院情報学環?学際情報学府 教授
早稲田大学大学院政治学研究科修了、博士(政治学)。単着に (2012年、世界思想社)、共着に、(2019年、堀之内出版)、编着に(2021年、北树出版)、监訳书にアンジェラ?マクロビー(2023年、花伝社)、共訳书にアンジェラ?マクロビー(2022年、青土社)、ポール?ギルロイ(2017年、月曜社)などがある。
取材日: 2023年2月24日
取材: ハナ?ダールバーグ=ドッド、寺田悠紀