困りごとを抱えている当事者自身が専门家となり、问题を解消する。| UTOKYO VOICES 096
先端科学技术研究センター 当事者研究分野 准教授 熊谷晋一郞
困りごとを抱えている当事者自身が専门家となり、问题を解消する
生まれつき脳性麻痺の熊谷の幼少期は、 孤軍奮闘の思い出でいっぱいだ。「毎日5~6時間、強い痛みを伴うリハビリ以外は、食べて、寝てという暮らしで、友達と遊ぶことはあまりできませんでした」と、振り返る。一方で不自由な身体だからこそ、一人机上で想像力を駆使して絵を描くことと、算数の世界に夢中になった。中高生の頃からは数学者に憧れるようになる。そんな少年が現在の研究の道に至るまでには、いくつかの転機があった。
熊谷が生まれた1970年代は早期からの浓厚なリハビリで脳性麻痺者の运动机能は90%の确率で回復すると思われていたが、80年代には一転、それほどの効果はないことがわかった。それは熊谷にとって絶望ではなく、过酷なリハビリ生活からの解放を意味していた。これが第一の転机となったのだ。
そして中学の顷に触れた「障害は自分の皮肤の外侧にある。身体に障害があるのではなく社会环境に障害がある」という障害者运动の言叶に勇気づけられた。「自分の障害は治らなくていいんだというパラダイム転换が起こり、ようやく生きのびられる思いがしました」。
第二の転机は、障害者の先辈が不特定多数の人にサポートしてもらいながら人生を謳歌している姿を目にしたことだ。「希望が生まれ、目标ができました。自分も早く亲の庇护から解放されたいと思い、山口の実家から远く离れた东大の理1に入学しました」。そうして驹场のアパートで一人暮らしを始めたのが、第叁の転机だ。
「终电を逃してアパートを访ねてきた同级生に、『泊まらせてあげるから风吕に入れて』という具合に頼んでいたら、いつの间にかサポートチームが出来上がりました。人と触れ合うのがあまりに楽しくて、数学ではなく人や社会と関わりたいと思うようになり、同时に今までの蓄积を生かせる医学の道に进むことにしたんです」
そして第四の転机は、大学院生の时に「当事者研究」に出会ったこと。精神障害者のコミュニティで诞生した活动で、障害のある本人が専门家となって、谁も理解しえなかった自己の苦労を分析し、研究するという取り组みだ。その后、小児科医として自闭スペクトラム症者の主観的経験に寄り添ったサポートを行うなど、当事者研究で得られた知见が医疗の质の向上にもつながることを実感していった。
これまでの医疗やリハビリは当事者の身体を「変える」取り组みだったが、まずはありのままを「知る」こと、そして知ったことを人々と「共有する」ことが、この研究の基本だという。「当事者研究とは、谁にも言えない困りごとを抱えている自分自身が、その困りごとの専门家となり、类似した困りごとを持つ仲间や他の専门家と协力して研究することです」。
大学に戻った熊谷は、発达障害や依存症のある人々、アスリートら、広范にわたる当事者研究を展开。さらに、一人ひとりが抱えている内侧の体験が、思い込みではなく実际に起こっているのか、他者にも当てはまるのかなどを、科学的に分析している。
そして来年度からは、障害の有无を超えて苦労を抱える人々を広く当事者と捉え、様々な组织に当事者研究を実装するためのプロジェクトをスタートさせる。実装の対象には、大学も含む予定だ。
そうして「障害のあるなしに関わらず、大学の多様な构成员が当事者研究をはじめることで、困ったときに助けてと言いやすい文化が大学に実现され、多様な构成员が共同することでより豊かな知を生み出すことにもつながるのではないか」と期待している。
中学1年で初めて车椅子に&濒诲辩耻辞;乗车&谤诲辩耻辞;して以来、车椅子は片时も离せない大切な相棒となった。寝る时间も少ない小児科医时代に、背もたれが倒れて仮眠できる电动车椅子『厂迟辞谤尘』に乗り替えた。この11月には4代目が纳车され、高机能になった&濒诲辩耻辞;新车&谤诲辩耻辞;の惯らし运転中だ。
当事者研究によって、小児科医としての问诊内容は外から目线ではなく、自闭スペクトラム症者の内面に沿ったものに変わった。「壁から跳ね返ってくる音うるさくない?」等と呼びかけることで、相手との间に信頼感が一瞬で芽生えることがある。これこそが「生きのびるための知」だと考えている。
Profile
熊谷晋一郞(くまがや?しんいちろう)
2001年東京大学医学部医学科卒業、同年 5月同大医学部附属病院小児科研修医、2002年千葉西総合病院小児科勤務医、2004年埼玉医科大学病院小児心臓科病棟助手、2009年東京大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻博士課程単位取得退学、先端科学技术研究センター特任講師、2014年大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士号(学術)取得、2015年先端科学技术研究センター准教授。主な著書に『リハビリの夜』(医学書院、2009年)、『みんなの当事者研究』(編著、金剛出版、2017年)、『当事者研究と専門知』(編著、金剛出版、2018年)、『当事者研究をはじめよう』(編著、金剛出版、2019年)、『当事者研究―等身大の<わたし>の発見と回復』(岩波書店、2020年)など。
取材日: 2020年11月10日
取材?文/佐原 勉、撮影/今村拓馬