脳の临界期の引き金とブレーキを解明。障害?病気の解明と、础滨研究との融合を目指す。| UTOKYO VOICES 085


国際高等研究所 ニューロインテリジェンス国际研究机构 機構長 ヘンシュ貴雄
脳の临界期の引き金とブレーキを解明。障害?病気の解明と、础滨研究との融合を目指す。
日本人の母と话すときは日本语、ドイツ人の父と话すときにはドイツ语、家の外ではアメリカ英语。幼少期のヘンシュの头の中には3つの言语があり、相手によってスイッチを切り替えるのが普通だった。でも、どうやら自分以外の人はそうではないようだ。
小学6年生になり、授业でフランス语を学び始めると、ぼんやり感じていた违いがはっきりとした形をとって现れた。友达はみんな新しい言语を学ぶのに四苦八苦しているが、自分はほとんど苦にならない。何がこんな违いを生んでいるのだろう?
「そのとき、脳に対する兴味が生まれました」
大学に入る时には人工知能を研究したいと考え、数学を専攻。しかしまだ生物の脳そのものの科学的知见が乏しいことを知って生理学的な研究へ転向した。
脳には「临界期」がある。生后の早い时期に、経験に応じて神経回路が柔软に変化するタイミングだ。视覚や言语学习などいくつもの临界期があり、その时期に得た刺激がその人の回路をおおかた决めてしまう。
脳科学の世界ではずっと、临界期は年齢で决まっているとされてきた。しかしヘンシュはそのメカニズムをきちんと理解したかった。
「マウス実験で试行错误を重ねるうちに、临界期をスタートさせているのは『抑制性ニューロン』だとわかりました」
さらに、临界期を终了させるブレーキの存在も発见。トリガーとブレーキという基本的なメカニズムを明らかにし、临界期の时期は固定されたものではなく「动かせる」ことを世界で初めて示した。
临界期が动かせるなら、幼少期特有の头の柔软さや吸収力をずっと保ち続けることも可能になるのだろうか?
「人间で実験するわけにはいきませんが(笑)。ただこの知见は、人の能力を伸ばす可能性を拓くと同时に、脳の不具合の原因を探るヒントにもなるんです」
たとえば、赤ちゃんの时に大きな手术を繰り返し受けると脳の発达に障害が出るケースが多いことが知られているが、それは、麻酔が抑制性ニューロンに働きかけて临界期をずらしてしまうからかもしれない。ヘンシュはいま、临床データからそれを検証しようとしている。
「これまでの脳科学はもっぱら、脳细胞の8割を占める兴奋性ニューロンに注目してきました。础滨研究も兴奋性ニューロンをモデルとしています。でも実际には、2割しかない抑制性ニューロンが脳の可塑性や不具合を大きく左右している。抑制性ニューロンは、『知性』の键を握る大事な存在なのかもしれません」
2017年に設立され、ヘンシュが機構長を務めるニューロインテリジェンス国际研究机构(IRCN)は脳科学とAIをつなぐ研究機関だ。基礎生命科学、臨床現場、情報科学や数学、社会学などさまざまな分野から世界トップクラスの研究者が集い、多彩な融合研究を生み出しつつある。
ヘンシュ自身も、基础と临床を行き来する研究者。彼らの脳科学?础滨研究は、「基础&谤补谤谤;応用&谤补谤谤;近接分野」という波纹状の広がりではなく、互いに影响を与えあいながら、らせん阶段のようにぐるぐると上に登っていく。
ヘンシュが選んだIRCN 3Dオブジェ。透明なアクリル板に人の脳の模式図が刻まれ、下から当たるライトによって脳が立体的に見える。IRCN主催のシンポジウムなどに招いた研究者に記念品として贈呈されるもの。
ボードレールは「天才とは、子ども时代を意のままに取り戻せることだ」と言った。子どものような创造性やひらめきをいつまでも持ち続けられたら、とは谁もが愿うことだ。「私たちの研究が、それは実际に可能だと示しつつあります」。

Profile
ヘンシュ贵雄(ヘンシュ?タカオ)
2歳半の时に家族で日本からアメリカに転居し、ハーバード大学へ进学。医学部で睡眠研究に携わり、卒业后、脳科学研究のトップランナーである伊藤正男博士のもとで研究するため东京大学大学院修士课程へ。1996年、カリフォルニア大学サンフランシスコ校で博士课程を修了した后、理化学研究所脳科学総合研究センターでグループディレクターに(~2010年)。2006年よりハーバード大学教授、同大学医学部ボストン小児病院教授。2017年より现职も兼任。
取材日: 2019年11月18日
取材?文/江口絵理、撮影/今村拓马