「匂い」は生物をどう动かす? 匂い研究で自然の美しい摂理を明らかに。| UTOKYO VOICES 083
大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 教授 東原 和成
「匂い」は生物をどう动かす? 匂い研究で自然の美しい摂理を明らかに。
赤ちゃんの匂いはなぜか谁もが「いい匂い」だと感じる。ではその匂いの正体は? そして人はどのようにその匂いを受け取り、それがどう処理されて感情や行动として表に出てくるのだろう?
いい匂いのみならず、强い香料を不快に感じたり、特定の匂いが特定の记忆を引き出したり――。匂いに関する「なぜ?」は山ほどあるが、多くが未知のまま残されてきた。それらの问いに痛快なまでに大きなスケールで取り组む东原は、アカデミアはもちろん社会からも热い注目を集めている。
东原は匂い物质の正体を分子レベルでつきとめ、それを受け取る生物侧の受容体の仕组みを调べ、受容体が出した信号がどのように脳で処理されて、どんな情动や行动につながるかを解き明かそうとしている。「物质」からスタートして「生物の行动」というアウトプットにいたるまでを一気通贯で研究できる人间はそういない。しかも対象とする生物は昆虫のカイコから人间までと幅広い。
それを可能にしたのは东原のたどってきた轨跡だ。大学では农学部に进んで有机化学の研究室に入り、卒业するとアメリカの大学院に留学して生化学や分子生物学の研究に勤しんだ。帰国して医学系研究室の助手になってからは神経科学的なアプローチも身につけた。
「戦略的にいろんな分野を経験してきたというより、研究室配属の抽选で外れたり、匂いの研究を専业でさせてくれるポストがなくてやむなくあちこち渡り歩いて来たんですが、结果的にそれが强みになりました。特に、くじ引きで外れて入った有机化学の研究室で学んだことが研究者としての自分の轴足となっています」
长い蓄积のある视覚の研究に比べると匂い研究の歴史ははるかに短い。手がかりとなる先行研究が少ないなかで东原のグループは多くの目覚ましい业绩を上げてきたが、あえて一つを挙げるなら「マウスの涙にフェロモン」だろう。
「オスのマウスを饲育していたケージに性フェロモンらしき物质がついていたので、どこから分泌されたのかを突き止めようとしたところ、いっこうに见つからない。しらみつぶしに探していったら、なんと涙腺から出ていました。涙でフェロモンを出しているなんて谁も予想していないことでしたから、かなりの衝撃でしたね」
さらに5年后、このフェロモンはメスの交尾受け入れ行动を诱発することを解明。オスの交尾成功率を高める性フェロモンだった。これらの発见は2005年と2010年に一流科学誌ネイチャーに掲载され、大评判となった。
ところが、东原は成果に対する评価にはさほど関心がなさそうに见える。
「だってすごいのは『自然』だから。人间は自然が作ったみごとな仕组みを、美しいロジックを、论文という形で表现しているだけ。表现した人间が伟いわけではない、と僕は思うんです」
目下取り组んでいる研究テーマの一つが、冒头にもあげた「赤ちゃんのいい匂い」について。きっとここにも、自分たちが予测もしていなかったような自然の摂理が潜んでいるはずだ。美しい摂理に出会える期待に胸を膨らませ、东原は匂い研究の世界を拓いていく。
もう何年も、予定はすべてこの卓上カレンダーに爱用の铅笔で书き込んでいる。スケジュール帐は持たない。「いつでも数週间先まで予定を一覧できるようにしておきたいんです。それには月间カレンダーが一番」
「大学に入った顷は建筑に兴味がありました。ただ建物そのものよりも、『空间が人に与える影响』に関心があったんです。実は匂いも、空间を形成し、人に影响を与える要素の一つですよね」
Profile
东原和成(とうはら?かずしげ)
1989年东京大学农学部农芸化学科を卒业し、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校化学科博士课程修了。デューク大学医学部博士研究员、东京大学医学部助手、神戸大学バイオシグナル研究センター助手、东京大学大学院新领域创成科学研究科先端生命科学専攻助教授を経て2009年より现职。「匂いの科学」の専门家としてテレビや新闻などマスメディアへの登场も多く、匂いに関するリテラシーの向上にも贡献している。
取材日: 2019年11月19日
取材?文/江口絵理、撮影/今村拓马