タンパク质分解を司るプロテアソームの研究から、未知の生命现象に迫る。| UTOKYO VOICES 078
大学院薬学系研究科 薬科学専攻 教授 村田 茂穂
タンパク质分解を司るプロテアソームの研究から、未知の生命现象に迫る。
「プロテアソーム」とは何か、知っている人はごくわずかだろう。细胞のなかで、不要になったタンパク质を分解する酵素の一种だ。
体内でタンパク质を「作る」存在が欠かせないことは谁でもわかるが、30年ほど前にプロテアソームが発见されたときには、科学者のなかでも「壊す」存在がさほど重要なものだとは思われていなかった。村田がプロテアソームの研究に足を踏み入れた20年前でも、その重要性に気づいていたのはごく限られた领域の研究者に过ぎなかった。
「注目されない分野であることはまったく気にしませんでした。多くの人が期待をかける&濒诲辩耻辞;流行り&谤诲辩耻辞;の领域でスピード竞争をするのは研究者の仕事じゃない。まだ谁も见つけていない、『そんなことがあったのか!』というものを见つけたいと思っていたんです」
村田は医学部を卒业后、内科医として出発した。根本的な治疗法が见つかっていないリウマチや胶原病を医师として诊ながら、治疗法発见のため临床研究を进めていくつもりだった。
しかしある日、プロテアソームの発见者である田中启二博士の讲演を聴いたことが人生の分かれ道になった。これは生命の根干にかかわるメカニズムじゃないか。僕もこの研究をしよう。临床から基础研究へ、村田は轴足を移した。
世界中で研究が进むにつれ、プロテアソームはがんやアルツハイマー病、免疫疾患など治疗の难しい病気に深く関わっていることが次々に明らかになっていった。
2007年、村田は胸腺に特有のプロテアソームが、有害な细胞を认识できる免疫细胞だけを选别する役割を果たしていることを解明する。
「胸腺にそういうメカニズムがあるに违いないとは言われていたんです。でも、それまで谁も実体を确认したことがなかった」
それは世界の免疫学者が衝撃を受ける研究だった。论文は国际科学誌「サイエンス」に掲载され、以后の生命科学分野の教科书にも重要なメカニズムとして书かれている。
难病の治疗法を突き止め、人の命を救いたいという思いから临床研究に乗り出す気持ちは理解しやすい。一方、基础研究は「直接的に人の役に立つ」こととは縁远く见える。しかし村田は、基础であればあるほど、结果的に必ず役に立つ研究になる、と言い切る。
「生命现象の根干にかかわる未知の分子やメカニズムが见つかれば、さまざまな病気の解明に结びつきますから」
人类が手をこまねいている难病にこそ、基础研究が大きな価値を発挥する。村田の中で、生命科学の基础研究と难病の治疗は一つの线でつながっている。
いまとなっては、プロテアソームは研究者どころか临床现场の医师でも知らない人はいないほどの注目を浴びる存在だ。とりわけがん治疗ではすでにプロテアソームに作用する抗がん剤も诞生し、効果を発挥している。
「いま僕が研究しているのはプロテアソームと老化の関係です。线虫などのモデル生物でプロテアソームの机能低下が起きないようにしてやると寿命が伸びることがわかってきたので、それがヒトなどの哺乳类でどうなるか知りたいと思っています」
谁もが求めていながらまだ谁も発见していないものを求めて、村田の探索は続く。
猫が好きで、置物の猫を集めているうちに人がくれることも増えてきてずらり。海外を访れた际に手に入れたものも多い。オーソドックスな招き猫は「研究室を构えたときに、『科研费がちゃんと入りますように』と思って(笑)」。
司马辽太郎の『竜马がゆく』で坂本龙马が発した一言。「実験が思った通りにいかないのは失败ではなく、予想もしなかったことが起きていることを示唆している。むしろそこにこそ、面白い何か、人が见つけていない何かが隠れている」
Profile
村田茂穂(むらた?しげお)
1994年东京大学医学部卒业后、内科医のかたわら东京大学大学院医学系研究科博士课程で研究に従事。1997年に体内のタンパク质分解を司るユビキチン-プロテアソーム研究の第一人者、田中启二博士に出会ったことが契机となり、翌年より临床を离れて基础研究に専念。2000年博士课程修了。东京都临床医学総合研究所主席研究员などを経て2007年より现职。日本学术振兴会赏、持田记念学术赏、柿内叁郎记念赏など学术赏の受赏多数。
取材日: 2019年10月24日
取材?文/江口絵理、撮影/今村拓马