世界一を目指して実験の限界を突破。幻の素粒子「マヨラナ粒子」の手がかりを物质中で発见。| UTOKYO VOICES 067
物性研究所 極限コヒーレント科学研究センター長 教授 辛 埴
世界一を目指して実験の限界を突破。幻の素粒子「マヨラナ粒子」の手がかりを物质中で発见。
粒子と反粒子が同一粒子となる「マヨラナ粒子」は、扰乱に强い新しい量子コンピュータ実现のキーになると期待されている。1937年にエットーレ?マヨラナがその存在を予言し、以来80年も谜に包まれていた幻の粒子?マヨラナ粒子。その存在の手がかりを証明したのが、世界一の高分解能を夸るレーザー光电子分光装置を开発した辛らのチームだ。
「レーザーを光源とする光电子分光によって物理量を测定する分解能が飞跃的に上がり、1尘别痴(ミリ电子ボルト)を切った装置を世界で初めて开発しました。そのおかげで高温超伝导体としてよく知られていた物质の最表面がトポロジカル超伝导であることを発见できたのです。これは、マヨラナ粒子が通常の超伝导体表面にも存在する可能性を意味していたため、2018年春の『サイエンス』と『ネイチャーフィジックス』に连続して掲载されました」
鉄腕アトムと科学、特に物理が好きだった辛は东大理1に进学。「世界で最初のシンクロトロン放射光が物性研(当时の东京大学原子核研究所)で开発され、素粒子科学を専攻していた先辈から『絶対にそれをやったらいい』と言われた」のが、将来、放射光科学とレーザー科学の両者を结びつけた新しい「光科学」を目指すきっかけとなった。
放射光が物性研究に役立つことを明らかにした辛は、レーザーの研究を始める。放射光は大きな加速器が必要であるが、エネルギー可変で强力な光を得ることができる。一方、レーザーはコンパクトにできるうえに、分解能を极端に上げることができる。光电子分光の常识は、分解能は10尘别痴とか100尘别痴止まり。辛は世界で初めてレーザーを光源とした高分解能光电子分光の研究を开始する。
「使えるレーザーが见つかるまでに3~4年かかりました。2005年にやっと、物性研のレーザーの共同研究者とともにそのレーザーを见つけて、世界で初めて分解能が1尘别痴を切るレーザー光电子分光を开発できたんです」。それによって超伝导のメカニズムがわかり、世界中でその真似をするところも出てきた。超伝导の研究が飞跃的に発展したという。
「レーザー光电子によって物质科学を研究する新しい分野を4つ作りました。1つはエネルギー分解で、マヨラナ粒子の研究はその一例です。2つ目はスピン分解で、磁石の研究などを行っています。3つ目は时间分解で、物质中の电子の非平衡な情报を知ることができます。4つめは空间分解で、结晶构造や结晶性、磁性など様々な物质の物理的?化学的性质を空间情报として可视化できます」
时间分解光电子分光を活用すると、ごく短い时间でできる新しい物质を観测することも可能になる。强力なレーザーを用いて非平衡な电子状态を作れば、瞬间的に新しい磁石や超伝导体を作ることもできるという。
「基础研究で世界一を目指してきましたが、分解能を上げて世界一の测定装置を开発したら、それがいつの间にか产业分野でも利用される可能性も生じてきました。実験の限界を突破することで、いつの间にか世の中の役に立っていたのです。レーザー光电子分光は物质中の电子を知る万能の実験で、今まで地球上になかった物质を作ることもできます。とにかく世界一を目指す。その気持ちがあってこそ、面白いことができると信じています」
テレビ「ガリレオ」の撮影にも使われた、60别痴レーザーと时间分解光电子分光装置。「世界一を目指してきたらいつの间に、真空紫外光や软齿线领域の高调波レーザーを用いた物性研究の将来が见えてきたと思います」。
「セレンディピティというのは突然の発见であり、今まで基础研究で世界一を目指していたら、予想もしなかった新しいことが立ち上がってくるということ。それが物性研究の面白いところです」
Profile
辛 埴(しん?しぎ)
1977年东京大学理学部物理学科卒业。1980年东京大学理学系研究科物理専攻博士前期课程修了、1983年同博士后期课程退学、同年学术振兴会奨励研究员および东北大学科学计测研究所助手、1989年东北大学科学计测研究所助教授、1991年东京大学物性研究所助教授、2001年同教授、1999年~2007年理化学研究所招聘主任研究员、2007年~2014年理化学研究所励起秩序チームリーダー。科学计测振兴赏、日本物理学会第9回论文赏、服部报公赏、文部科学大臣表彰科学技术赏などを受赏。
取材日: 2019年1月23日
取材?文/佐原 勉、撮影/今村拓馬