ダーウィンとウォレスの150年来の谜を解く愉悦。 | UTOKYO VOICES 019
大学院新领域创成科学研究科 先端生命科学専攻 教授 藤原晴彦
ダーウィンとウォレスの150年来の谜を解く愉悦。
蝶の拟态に関するダーウィンとウォレスの150年来の谜を解くことが藤原の长年の梦だった。最近この梦がついに叶えられた。
冲縄などにいるシロオビアゲハという蝶のメスの一部だけがベニモンアゲハという毒蝶の模様に拟态する理由を、ゲノムを解読することで解き明かした论文「辫补辫颈濒颈辞蝶のメス特异的ベイツ型拟态の遗伝的メカニズム」が2015年の『ネイチャージェネティクス』誌に掲载されたのだ。拟态研究に取り组んで30年を経ての大きな成果であり快挙だった。
しかし、藤原は根っからの昆虫好きではなく、犬とよく游ぶ动物好きの子供だった。高校生の时にオイルショックを経験した。「食を大事にする农学者か病気を治す医者、あるいは建筑家もいいなといろいろ受験したのですが、当时分子生物学が注目されていたので东大理学部に入りました。わりといい加减に歩んできたんです」と、藤原は笑いながら振り返る。
ある日藤原は『The RAINFORESTS』という生物の写真集に載っていた“鳥の糞に擬態したアゲハチョウの幼虫”を見て、強烈なインパクトを受ける。
「一瞬何の虫かわかりませんでした。生き物に拟态する昆虫はいますが、&濒诲辩耻辞;鸟の粪&谤诲辩耻辞;に拟态するということが面白く、遗伝子の発现がどうなっているのか知りたいと思いました」
棘の道となる拟态研究に踏み込んだ瞬间だった。博士课程を修了し、旧国立予防卫生研究所に就职した28歳顷だった。
「博士课程ではリボソーム搁狈础の遗伝子构造を研究しましたが、これから自立した研究を行うなら、生き物に関して多くの人が面白いと思うことやりたい」と拟态をテーマにしたのだが、当时分子レベルの拟态研究は谁も手がけておらず、怪しい研究者だと思われていたらしい。
非モデル生物の入手や饲育も困难だった。そこで旧予防卫生研究所ではカイコの縞模様の研究から始め、东大に移ってから本格的に拟态の研究に取り组む。しかし、「どういう遗伝子によって模様がつくられるかわかってきたのがここ10年くらいなので、研究を始めて20年间はほとんど成果が出ませんでした」と、苦难の道のりを振り返る。
最新の研究テーマは、スーパージーン。特定の遗伝子部位によって起こる生物现象と违い、いくつかの遗伝子领域が関わるスーパージーンが、复雑な适応现象を制御していることがわかってきた。スーパージーンは、アフリカのシクリッドという鱼の复雑な模様や、蚁の社会性なども制御している。
「スーパージーンはいろいろな现象を制御している可能性があり、その解明により特定の遗伝子部位の変化では説明できなかった现象を理解できるかもしれません。また、全く同じような拟态を示す近縁な蝶が异なったタイプのスーパージーンを进化させるといった平行进化の研究の糸口も见えてきました」というから、新たな进化の谜の扉を开けたに违いない。
それにしても、博士修了后の20年间のプレッシャーに心が折れなかったのは、「諦めずに継続的に努力することでした」。その结果、技术革新によって「10年前にはなかった技术を使って成果を出せたのです」と、藤原は新たな进化の谜への挑戦に愉悦している。
取材?文/佐原 勉、撮影/今村拓馬
使用済み用纸の里をメモとして使っている。闪いたこと、今日やることや2~3ヵ月先のタスクリストを书いて、终わったら消すことであまり雑事に烦わされずにすむ。また、书き留めることにより研究の新たなヒントを得られるという。
「Activity, Sensitivity, Belief」は15年来、自分をエンカレッジする行動原理だ。基礎研究には活動性と感性が重要だが、自分の研究や仲間を信じられなければギブアップするので信じることは最も大切と考えている
藤原晴彦(ふじわら?はるひこ)
1986年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修了。理学博士。国立予防衛生研究所、ワシントン大学動物学部(シアトル)研究員、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻助教授などを経て、2004年より東京大学大学院新领域创成科学研究科教授。昆虫を主な研究対象とし、擬態と変態の分子機構、テロメアと利己的遺伝子の進化などの解明に分子生物学的な切り口から取り組んでいる。
取材日: 2018年1月16日