有机物と人のダイバーシティで梦を叶える。 | UTOKYO VOICES 016
物性研究所 教授 森 初果
有机物と人のダイバーシティで梦を叶える。
透明なアルミナに微量のクロムが入ると赤いルビーに、チタンや鉄分が入ると青いサファイアに変わる。その理由を高校の先生に寻ねると、「大学の无机化学で学べる」とのこと。色の変化に魅せられた森は「宝石など、机能を持つ物质の起源を知りたい」と思い、お茶の水女子大学理学部に入学する。
大学4年の时に、有机半导体を研究していた丸山有成先生の研究室に入った。
「面白そうなのでやってみないかと、无茶振りな(梦のような)卒论テーマ『室温超伝导を目指した新しい分子内分极错体の开発』を与えられ、取り组みました」。半导体である有机色素の性质を利用して、有机物で超伝导体をつくることが目标だ。
「修士2年秋にようやく第一歩となる结果を出すことができ、研究とは梦を実现することだと教えられました」と、当时を振り返る。さらに、卒论のテーマを追求するために大学院に进学。お茶の水女子大学大学院生として、丸山先生が転任された分子科学研究所の受託生となり、铜线のように电気を流す有机物质の合成や物性研究に没头し、研究の面白さを身を持って味わった。
修士课程修了后、「就职が内定していたのですが、共同研究者の斋藤军治先生から文部技官として来ないかとの诱いで、公务员试験も受かっていたので东大物性研究所に就职。働きながら博士号を取得し、10碍(絶対温度。摂氏に换算すると-263.15度)を超える有机物超伝导体を発见しました」。これが、「东大物性研究所设立から60年の中で、唯一の女性教授」というキャリアにつながる。
こうした研究成果を上げる背景にはダイバーシティ(国籍?性别?価値観の多様な人との交流)がある。大学3年の时に亲の転勤で米国ニュージャージー州立大学3年に编入して1年间の寮生活を送り、多様な国籍の留学生に混じって学ぶことで、ダイバーシティの楽しさや可能性、难しさを体験した。
日本は女性研究员が少なく(例えば物理学会は女性が6%)、最近も柏キャンパスで女子中高生を対象とした「未来をのぞこう!」や、「やっぱり物理が好き~物理に进んだ女子学生?院生のキャリア~」などイベントの开催や、东大の事业所内保育园の设立に尽力するなど、女性の活跃の场の拡大を目指している。「先辈をはじめ、いい仲间がいるからここまで来られた」と话す森は、研究だけでなくダイバーシティもライフワークだ。
「研究は同志の方が楽ですが、谁もやっていない新しいことをやり遂げるにはダイバーシティが不可欠」と语る。忍耐强くコミュニケーションし、异论をぶつけ合うことで视野が広がり、新しいことを発见する确率が高くなるからだ。実际、森は研究チームに女性や、他分野の外国人客员教授?研究员を迎えるなど、ダイバーシティを积极的に実践している。
人のダイバーシティに加えて、有机物というダイバーシティも森の高い研究成果に贡献している。元素の数は高々100种类であるが、炭素?水素?酸素?窒素原子などの组み合わせから作る有机分子は无限の组み合わせがある。つまり、アイディアを有机分子に落とし込む分子设计をし、それを有机合成することができる。いわば、有机物はダイバーシティそのものであり、有用な有机物を开発できるフィールドが広いのだ。
また、有机机能性物质の研究は「基础と応用が一体化している」ため、社会のニーズに答えることができ、シリコンの代わりになる有机エレクトロニクスの世界を创出できるインパクトがあるという。「こうなるといいなと研究していると、自然が答えてくれるのです」と语る森は、有机机能性物质、および有机エレクトロニクス実现という梦に向かって着実に歩んでいるようだ。
取材?文/佐原 勉、撮影/今村拓馬
無限の組み合わせがある有機物の中から夢の室温超伝導物質を開発するためのアイディアを書きとめたノートとコンパクトハードディスクこそ、夢を叶えるツールであり源泉だ。ハードディスクに巻かれたゴムバンドには「TURN A NEW LEAF」の文字が
ロケットの父であるロバート?贬?ゴダードの言叶を胸に、「研究は梦の実现でもある」ことを日々実践している
森 初果(もり?はつみ)
1984年お茶の水女子大理学部化学科卒業、1986年同大学院理学系修士課程修了。東京大学物性研究所文部技官、超電導工学研究所研究員、2001年東京大学物性研究所助教授を経て、2010年4月より同研究所教授(現職)。2016年に平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)、2018年に平成29年度日本化学会学術賞を受賞。
取材日: 2017年11月21日