サイエンスへの招待?森を食べる植物 |広報誌「淡青」36号より
森を食べる植物 不思议で美しい腐生植物の世界
「腐生植物」という字面から连想するのは、枯れて腐った植物や、死んだ动物の上に生える植物かもしれません。しかし、理学系研究科附属植物园の园长も务める塚谷先生によれば、それは「森を食べる」植物。白い歯も緑の叶もない植物がどうやって森を食べるのか、美しく风変わりな姿に魅せられた専门家の绍介文から想像してください。
塚谷裕一/文
理学系研究科教授
塚谷先生の本
『森を食べる植物』(2016年刊/岩波书店/2000円+税))
森と植物の関係というのは、ふつうは植物があって初めて森がある、植物が集まって森となる、といったものです。しかし世の中には?森があるからこそ存在できる植物というものもあります。私が学生の顷から兴味を持っていた腐生植物は、まさにそうした植物です。言うなれば、森を食べる植物なのです。
なぜ森を食べると表现するか理解するには、腐生植物の暮らし方を见ていただくほかありません。
日本で一番広く多くの人の眼に触れている腐生植物は、ギンリョウソウでしょう。ギンリョウソウは纯白にきらめく花被片の内侧に黄色い葯をならべており、その中心には蓝色に濡れて光る柱头も持っていて、あきらかに种子植物です。しかし緑の叶がありません。通常の种子植物は緑の叶をつかって光合成を営み、それによって自らのエネルギー源と体の资本とを得ています。ところがギンリョウソウはそれができません。その代わり、その根でキノコを食べて栄养を得ています。
ギンリョウソウは、その根に侵入してきたキノコの菌糸から、逆に栄养を夺っているのです。一方その被害者たるキノコの方は、森の営みから日々の栄养を摂っている生き物です。ギンリョウソウはそのキノコの、森から得た稼ぎを横取りして、花を咲かせているわけです。森を食べる植物という表现は、こうした暮らしぶりに由来しています。
したがって、腐ったものに生える植物という意味合いの、?腐生植物?という语は本当は误りです。最近はより正确な表现として、菌寄生植物といった言い方が推奨されるようになってきました。菌に寄生して暮らす植物というわけです。
さてこういう変わった暮らし方をしていますと、人の目に付きにくくなります。緑の叶を持っていれば、花がない时期でも人はその存在に気づきます。たとえば桜の场合、花がなく叶のみが生い茂っている夏场ですと、桜とは気付かない人も多いでしょうが、なにか大きな木だな、ということくらいは谁でも気づくでしょう。ところが腐生植物は緑の叶を持ちませんから、花が咲く时期以外は地下に潜って暮らしていて、人の眼に触れません。そのため、见落とされている种类も非常に多いのです。
例えば东南アジアの热帯雨林を歩いてみれば、ほぼ确実にまだ世に知られていない腐生植物を见つけることができます。いや、地球上で最も彻底的に植物の戸籍调べがなされた地域の一つ、日本ですら、まだ毎年のように新种の腐生植物が発见されています。
おかげで私はこれまでに多くの腐生植物の新种を発见し、命名することができました。しかし私の研究のメインテーマは、実は、腐生植物が持たない緑の叶、その形作りのメカニズムです。最近はその研究成果をヒントに、腐生植物がいかにして緑の叶を失ったのか、なんとか解明できないものかと考え始めています。日本は実は腐生植物研究の中心地の一つ。より多くの方に兴味を持っていただこうと、昨年『森を食べる植物』という本を出しました。まだ世の図鑑では写真を见ることのできない珍しい种类も多数绍介していますので、是非ご覧下さい。
※本记事は広报誌「淡青」36号の记事から抜粋して掲载しています。笔顿贵版は淡青ページをご覧ください。