量子ドットレーザーの科学と工学 研究の创始と実用化への展开

1960年に産声を上げたレーザーは今や医療?情報?工業などの領域で利用され、現代社会を支える不可欠の技術です。特に、半導体レーザーは、小型で省エネであるため、さまざまな応用が可能であり、主流になってきています。しかし、半導体レーザーでは、レーザー光の発生に必要な最小の電流値(閾値電流)が、温度が高くなると増えるなど、いくつかの課題も残されています。これらの課題を克服できるレーザーが、量子ドットレーザーです。生产技术研究所の荒川泰彦教授は、約35年間その提案から実用化まで、取り組んできました。
电子を闭じ込める极小の箱という画期的アイデア
太阳光には、さまざまな色の光が含まれています。この光の色を决めているのが波长、すなわち波の长さです。また、波の山や谷がどこにあるかを位相といいます。レーザーは、同じ波长で位相のそろった光を発するため、高い强度で长い距离をまっすぐに飞ばすことができます。
原子から光が放たれるのは、原子核を回る电子がある轨道から别の低いエネルギーの轨道に迁移するときです。その光の波长は、二つの轨道のエネルギーの差で决まりますが、原子の轨道は自然界が决めているため、原子の种类が同じであれば、各电子は同一の波长の光を放ちます。

図1:自由に动き回る电子の量子ドットによる闭じ込め(上)とその概念写真(下)
量子ドットという电子の波长程度の小さな半导体の箱に电子を闭じ込めると、波の性质が顕着になり、电子のエネルギーは离散的な値をとります。この性质は、ちょうど原子核を回る电子のエネルギーに対応するため、量子ドットはしばしば人工原子とも呼ばれます。电子の取りえるエネルギーは、量子ドットの寸法?形状?材料により制御できます。
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一方、普通の半导体では、电子はさまざまなエネルギーをとって自由に动き回るため、各电子から放たれる光の波长はそろいません。また、温度が上がると、电子の动きが増すため、放たれる光の波长の范囲はさらに広がります。このため、レーザー光の発生に贡献する电子の数が减り、閾値电流が高くなります。
「电子は、粒子と波の二つの性质があります。量子ドットという电子の波长程度の小さな半导体の箱に电子を闭じ込めると、波の性质が顕着になり、电子のエネルギーは离散的な値をとります。もし、レーザーの波长に共鸣するエネルギー準位を持つ量子ドットを多数个作ることができれば、电子からレーザー光へきわめて効率よく変换できることになります。しかも、叁次元的に闭じ込めているため、温度が上昇しても电子の状态が変わらないので、閾値电流は温度に依存しなくなります」と、荒川教授は説明します。量子ドットを使えば、理想の半导体レーザーを実现できるということです(図1)。
助教授になったばかりの荒川教授が” Multidimensional quantum well laser and temperature dependence of its threshold current”(多次元量子井戸レーザーとその閾値電流の温度依存性)というタイトルの論文を、当時助教授で、現在豊田工業大学の学長を務める榊裕之東京大学名誉教授と共同で発表したのが1982年。この論文を出発点として、その後35年にわたる量子ドット研究の世界的な潮流へと発展していきます。
工学者?荒川泰彦
学生に対して「工学マインドを持ってほしい」「エンジニアリングの考え方を持ったサイエンティストになってほしい」と语る荒川教授にとって、社会的価値をどのようにして生み出していくかというプランをデザインしていくことは、基础研究を进めることと并ぶ、関心事です。
事実、1982年の理论から始まった研究の成果により、今や近赤外光を放つ量子ドットレーザーが光ファイバー通信などで使われるまでになっています。しかし、その开発までの道程は安易なものではありませんでした。电子を闭じ込める量子ドットの大きさは数十ナノメートルという极小のサイズ。理论を発表した当时、「どうやったらそれを作れるのかはもちろん、本当にそれを実现できるかすら分からなかったのです」と振り返ります。しかし、荒川教授はあきらめませんでした。
折しも、1985年、フランスのグループが、别の目的で、半导体の多层薄膜を形成する実験を行ったところ、量子ドットが自然に形成されていることを偶然発见しました。この报告から道が少しずつ开けました。
产学连携から大学発ベンチャーへ
1994年には、荒川教授らは、有机金属気相成长という结晶成长法としては世界で初めて、量子ドットを当时としては最小寸法で形成しました。一方、富士通研究所では、光通信に适した波长1.3マイクロメートルの近赤外光を放つ量子ドットの形成に成功しました。そのときの研究者の一人が、荒川教授が技术顾问を务める蚕顿レーザ社社长の菅原充氏です。

図2:量子ドットレーザーの概念図と素子
量子ドットレーザーは、レーザー発振に必要な閾値电流が低くできるため、消费する电力を抑えられます。また、閾値电流の温度安定性がよいため、周囲の温度が変化しても调整の必要がないこと、より多くの情报を运ぶための変调特性が优れていることなど、従来の半导体レーザーの性能をあらゆる面で超えることが期待できる究极の半导体レーザーです。
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ところが、量子ドットレーザーの実现に向けて研究者が努力していた矢先、光バブルが弾け、菅原氏らの研究も中止を迫られてしまいます。しかし、ちょうどそのころ、荒川教授が文部科学省の大型国家プロジェクトを开始することが决定されました。そこで、富士通研究所のグループなどを连携先として、当时としては斩新な产官学连携センター「ナノエレクトロニクス连携研究センター」を设立し、荒川教授はそのセンター长に就任します。
2004年、ついに荒川教授らは1982年に提唱した閾値电流の温度安定性の高い量子ドットレーザーの开発に成功(図2)。従来の科学研究は、基础研究があり、応用研究があり、それがやがて商品として社会に出て行くという流れが一般的でした。しかし、研究段阶で社会的なニーズを汲み取ることが大事だと考えた荒川教授は、2006年、菅原氏を社长とするベンチャー公司、株式会社蚕顿レーザの设立に协力し、共同で研究开発を进めることとしたのです。
量子ドットレーザー、そして量子ドットの展望
2011年に製品化した量子ドットレーザーは、主に光通信用のレーザーとして2016年现在、300万チップ以上が出荷されるまでになりました。今后、量子ドットレーザーはどのように社会に広がっていくのでしょうか? 「既存の半导体レーザー市场をすぐに置き换えようとは思わない」「光通信ネットワークがまだ普及していない国や量子ドットレーザーの特长を活かせるシーンを狙っていきたい」と荒川教授は话します。具体的には、计测用や加工用のレーザーなどがあります。他にも、高耐热性や低雑音性を活かすことで、电気ではなく光で情报を运ぶ大规模集积回路(尝厂滨)システムにも応用されます。现在の京スーパーコンピューターを20年后に手のひらサイズにするためには、光の配线が不可欠ですが、その主役となるのが量子ドットレーザーだと荒川教授は考えます。

図3:室温以上で动作する単一光子発生素子
量子ドットは、レーザーのみならず、量子コンピューターや量子通信で必要な単一光子発生素子や太阳电池にも応用することができます。77℃という、ゆで卵もできる高い温度で窒化ガリウム量子ドットからの単一光子の発生に成功し、室温で动作する量子情报集积回路の実现への道を切り拓きました。
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量子ドットの応用先はレーザーだけにはとどまりません。量子暗号通信や量子コンピューターを実现する键となる技术にもなり得ます。これらのシステムでは、光子を规则正しく一つずつ発生させる単一光子発生素子が必要となりますが、量子ドットがその実现を可能にします。荒川教授のグループは、约15年前から、物性物理と结晶成长技术の両面から窒化ガリウム量子ドットの研究に取り组んできており、2016年には、世界最高温度(ゆで卵ができる温度の77℃)で动作する単一光子発生素子を実现しています(図3)。
こうした幅広い応用は、他の研究室や民间公司など复数の関係机関と积极的に连携するオープンイノベーションのマインドからもたらされたものです。荒川研究室で単一光子発生素子の研究にマーク?ホームズ准教授が取り组むきっかけとなったのも、「いい研究を进めていくことが良い人材育成だ」と考える荒川教授とのオックスフォード大学时代での共同研究でした。そして现在、国际色豊かな研究チームの中で、「一人ではとても研究できない半导体量子デバイスの研究が、さまざまな文化?考え方を持った人との助け合いのなかで进んでいると感じています」とホームズ准教授は语ります。
1982年の理论研究からはじまった种が、荒川教授の描く壮大なデザインのもと、まずは量子ドットレーザーという形で大轮の花を咲かせました。そしてその背后では、盗聴不可能な量子暗号や室温で动作が可能な量子コンピューターシステムへの応用など、梦のような未来を拓くつぼみが今にも咲かんとしています。
*冒頭の写真のクレジット:CC BY-SA 2.0