个人の遗伝情报を活かした医疗の実现を目指して 健康で长生きできる社会

个人の体质に合わせた&濒诲辩耻辞;オーダーメイド医疗&谤诲辩耻辞;の実现に向け、科学者としての研究に加え、その&濒诲辩耻辞;インフラ&谤诲辩耻辞;を整える体制づくりや、社会の理解を求める活动にも力を入れてきました。膨大な数の患者から顿狈础サンプルを集めて保管し、研究机関に提供する「バイオバンク?ジャパン」。バイオバンク?ジャパンの中心的な役割を担う东京大学医科学研究所が目指す新しい医疗は、未来社会を大きく変える力を持っています。
个别化医疗との出会い
患者个々人の遗伝子の情报から、体质によって异なる最适な治疗や医薬、予防を判断して提供する个别化医疗。たとえるなら、身体を採寸して服を仕立てるオーダーメイドの医疗版です。その実现に必要なのが、参照すべき遗伝子を见极めるゲノム研究。たくさんの人の遗伝情报を、仮説を立てず、むしろ予断を持たずにシステマティックに解析し、遗伝子のどの部分がどの病気や医薬と関连するのかを统计的に解明するのです。
新领域创成科学研究科の松田浩一教授がそんなゲノム研究に出会ったのは、2007年。東京大学医学部を卒業後、医師を5年間勤め、がんの研究に没頭していた頃のことでした。

図1:さまざまな患者の顿狈础サンプル、血清、カルテの情报を、大规模に集约して保管するバイオバンク?ジャパン
顿狈础サンプルが入った试験管は、4℃に冷やされた顿狈础仓库で约70万本を保管しています。血清サンプルが入った试験管は、液体窒素を使いマイナス150℃でのべ200万本を保管しています。血清サンプルを间违いなく取り出すためにロボットアームも使います。収集した约23万人のカルテ情报などは大规模なデータベースに大切に保管?管理しています。设立当初から国に求められている「个别化医疗への研究を进める&谤诲辩耻辞;インフラ&谤诲辩耻辞;」という役割を果たしています。
© 2016 東京大学
生命科学分野の研究は従来、仮説を立てて検証するプロセスが一般的だっただけに、「今までと全く违うアプローチが、とにかく新鲜でした」。松田教授はすぐに研究にのめり込み、「ゲノムに基づく医学研究が、近いうちには当たり前になる」との确信を抱きました。
个别化医疗につながる遗伝子の知见を蓄积するために、さまざまな患者の顿狈础サンプルを集约して研究机関に提供する&濒诲辩耻辞;顿狈础サンプルの银行&谤诲辩耻辞;のような机能が求められていました。松田教授はバイオバンク?ジャパンの运営にも、自然と力を入れるようになります。「サンプルを使わせていただいたので、次は集める侧の体制づくりでも贡献したいと思いました。自分の研究のためにも必要でしたから」。使命感と探究心が、1人の科学者としての研究に加え、2003年に设立された&濒诲辩耻辞;インフラ&谤诲辩耻辞;を整备する原动力となりました。
全国12の医疗机関で、51种类の疾患を対象に採血によってサンプルを集める体制を整えました。顿狈础サンプルは今、23万人分を超えています。贵重な血清と抽出した顿狈础は先端技术を使い、カルテや生活习惯の情报とともに保管。厳正な审査を通过した国内の研究者に提供しています(図1)。
遗伝子から分かる病気のこと
「なんで、病気になるのか。科学者として、知りたい」。松田教授はサンプルを活用する1人の研究者としても、十二指肠溃疡や食道がんに関连する遗伝子を発见するなど大きな成果をあげています。
手法は、ゲノム全体を総合的に解析する「ゲノムワイド関连解析(骋奥础厂)」。个々人の遗伝子の、一カ所ではなく复数カ所の违いが総合的に、病気の発症に関わっているという考え方です。ゲノム上で注目すべきポイントは50万カ所以上あり、膨大な组み合わせの中から、病気の原因を明らかにしていきます。

図2:ゲノム全体を総合的に解析する「ゲノムワイド関连解析(骋奥础厂)」により明らかになった十二指肠溃疡と胃がんの関係
胃がん疾患者、健常者、十二指肠溃疡疾患者の顿狈础サンプルを解析し、ある部分の遗伝子が颁颁型の场合、颁罢や罢罢型に比べ1.84倍十二指肠溃疡になりやすいが、胃がんのリスクは0.59倍になることがわかりました。
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十二指肠溃疡の解析では、复数箇所の遗伝子が関わるからこその、兴味深い结果が得られました。患者と健常者の计3万人の顿狈础を解析し、十二指肠溃疡の原因に関わる遗伝子として突き止めたのはそれぞれ、血液型に関わる遗伝子、胃がんの原因に関わる遗伝子と、同じ箇所。「翱型の方が础型よりも十二指肠溃疡になりやすい」ことと、「胃がんになりにくい人の方が、十二指肠溃疡になりやすい」ことを、统计的に明らかにしたのです。
十二指肠溃疡と胃がんは、ともに「ヘリコバクター?ピロリ菌」の感染によって起こります。さらなる研究によって、遗伝子の违いによって作られるタンパク质の性质が変わり、肠粘膜の修復や免疫细胞の働きに影响するために2つの疾患の発症率を変える--という仮説に至り、2012年2月に発表しました(図2)。発症メカニズムに迫るとともに、个々人がどの病気にどの程度备えるべきなのかの判断材料にもつながる、大きな発见でした。
社会とともに歩む医疗に
「究極の個人情報」とも言えるDNAを扱うだけに、倫理的な問題とも真摯に向き合ってきました。バイオバンク?ジャパンの黎明期はちょうど、日本全体が個人情報について敏感になっていった時期。法律や政策の専門家による「ELSI(Ethical, Legal and Social Issues:倫理的?法的?社会的問題)委員会」の議論は、毎回のように紛糾しました。

図3:バイオバンク?ジャパンへ协力の意思を示すインフォームド?コンセント(同意书)(左)や広报誌「バイオバンク通信」(右)
全国の病院でメディカル?コーディネーターがインフォームド?コンセントを行い、バイオバンク?ジャパンが目指す个别化医疗や协力内容について丁寧に説明し、协力者から同意を得ます。年に1回のペースで発行している広报誌「バイオバンク通信」では、协力いただいた方にバイバンク?ジャパンのこれまでの成果や现状を伝えています。
クレジット: オーダーメイド医疗の実現プログラム
奋闘したのは、保健医疗と社会の関わりなどについての研究をすすめてきた医科学研究所の武藤香织教授でした。「全てを网罗的に解析して理想の医学を目指す世界観が、社会にはある种の&谤诲辩耻辞;胁威&谤诲辩耻辞;に感じられたのかもしれません」。新しい手法で生命をより深く、详しく解き明かしていく际に、ゲノム研究に限らず常に直面する问题でもありました。
もともとは贰尝厂滨委员会のメンバーでしたが、东京大学へ异动后、バイオバンク?ジャパンを内部から支える立场になりました。患者が研究协力の意思を示すインフォームド?コンセント(同意书)の整备や、広报誌を通じたアウトリーチ活动などを主导してきました(図3)。
约86%もの患者が、サンプルや临床情报の提供に応じています。「自分と同じ病気で苦しむ人が减るように」という思いも、少なからず託されているでしょう。「协力者にとっても幸せで、印象に残るバンクに」と武藤教授。それは、预金者が安心感や利息を得ると同时に経済発展にもつながる、理想の银行の姿に通ずるものがあります。バイオバンク?ジャパンは、患者の期待や善意と研究者をつなぐ场でもあるのです。
思い描く、壮大な未来
2017年には15年を迎えるバイオバンク事业。これからも生体试料を大规模に集め、事业を长く続けていくことが、个人の体质にあった予防や治疗には欠かせないと医科学研究所长を务める村上善则教授は话します(図4)。では、バイオバンク事业が目指す个别化医疗の先には、どんな未来が広がるのでしょうか?
「生まれつきの体质が异なっていても、みながある程度の年齢まで健康に长生きできる社会。昔であれば一病息灾だったのが、十病息灾。10个病気を持っていても病気とうまく付き合えるようになって、単に长生きするだけでなく、质の高い人生を送れるようになる」。村上教授は、そんな未来社会を思い描いています。「何かと个々人の违いばかり强调される昨今ですが、体质の违いや障害の有无に関係なく长生きできれば、违いは当たり前の个性として受け入れられように社会全体の考え方が変わっていくはずです。そんな医疗を提供したい」。

図4:バイオバンク事业が目指す个别化医疗
个人个人で重视すべき予防や、最适な治疗法がそれぞれの遗伝子の情报に基づいて判断できるようになります。そして、生まれつきの体质にかかわらず、健康に长生きできるような社会を目指します。
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そこに至るまでには、技术的な部分から社会全体が関わるところまで、课题が多岐に渡ります。
武藤教授の使命は、新しい技术と社会をつなぐこと。「个别化医疗が适切に、有効に利活用されるために必要なことを勉强し、考えていきます」。ゲノムや遗伝子についての知见が差别や悪用につながることを防ぎ、社会の幸せに最大限活かされるために、法整备や政策の面から社会に働きかけていく考えです。
そして技术的にも、遗伝子の异なる个人に合った予防や治疗、薬の活用法を确立していく必要があります。新薬の开発が求められる场面も出てくるでしょう。时间を掛けて取り组むべきプロセスがいくつもありますが、道が明确に见えているということでもあります。
松田教授は「いかにして、実际の医疗に役立てていくのか。『见つけた』ものを『使える』に変えていかなくてはいけない」と、バイオバンク?ジャパン全体の课题意识を代弁した上で、続けました。「必要な&濒诲辩耻辞;インフラ&谤诲辩耻辞;を整え、『见つける』ところまでが私の役割。个别化医疗は少しずつですが、一般的なものになっていくはずです」。1人の研究者として、バイオバンク?ジャパンの运営との&濒诲辩耻辞;2足のわらじ&谤诲辩耻辞;を履き、着実に歩みを进めた先に、新しい未来社会が広がると信じています。
取材?文:谷 明洋