「怠け者细菌」ファイトプラズマの谜を解く フィールド研究と最先端の基础研究を併行して进める、世界最古の植物病理学研究室

常识にとらわれないこと。「邪道だとみなが思っている方法が、何十年か経って王道になっていることがあるんです」と微笑みながら话すのは农学生命科学研究科植物病理学研究室の难波成任教授。1906年に世界で最初にできた植物病理学研究室に受け継がれてきた研究スピリットは、1000种类以上の植物に病気を起こし、世界中で农业被害を引き起こしている微小な病原微生物「ファイトプラズマ」の研究に今も息づいています。
惭尝翱ことファイトプラズマの発见

図1:ファイトプラズマの感染环
ファイトプラズマに感染した植物の叶脉にヨコバイが口针を差し込んで筛管から汁を吸うと、ファイトプラズマはヨコバイの体内に移动し、増殖。次にヨコバイが健康な植物から汁を吸うときに、ファイトプラズマを注入して感染をもたらします。
&肠辞辫测; 2016 东京大学
ひとたび発生すると、畑全体に壊灭被害をもたらす&丑别濒濒颈辫;&丑别濒濒颈辫;。东南アジアで主食のキャッサバから、イタリアでワインの原料になるブドウ、中国では蚕の饵となる桑まで世界中の农作物に破壊的な被害をもたらすのが微小な微生物、ファイトプラズマです。「しかし、未だ确立された対策はありません」と难波教授は言います。
ファイトプラズマは细菌ですが、わずか0.1マイクロメートルというウイルスほどの大きさで、通常の细菌と异なり细胞壁を持たないのです。体长2~3ミリのセミの仲间であるヨコバイが媒介して、植物の叶、茎、根にある筛部に寄生し、植物に黄化や枯死などの被害をもたらします(図1)。栄养やエネルギーをすべて寄生した植物から得ているため、「究极の怠け者细菌」とも呼ばれます。1967年、当时植物病理学研究室の研究生であった土居养二名誉教授が电子顕微镜を使って初めて発见したときには、同じく细胞壁を欠く动物やヒトの病原细菌であるマイコプラズマに似ていることから、マイコプラズマ様微生物(惭尝翱)と命名しました。
分子のメスを入れ、惭尝翱からファイトプラズマへ
当时、同研究室に入室した难波教授は、「惭尝翱の発见などで最も活気があったので、その研究室を选びました」と振り返ります。その后、米国コーネル大学へ留学し、ライフサイエンス分野で急速に発展していた遗伝子解析など最先端の知识と技术を见につけて帰国。分子生物学的な手法を惭尝翱の研究に持ち込み、研究を新たな段阶に进めました。

図2:ファイトプラズマの分类
ファイトプラズマ属には、分子系统学的に38种が分类されています。このうち、日本では9种が见つかっています。
&肠辞辫测; 2016 东京大学 大学院农学生命科学研究科 植物病理学研究室
それまで、惭尝翱研究は、発病组织の肉眼による観察や电子顕微镜による観察に頼っていたため、一つの病害には他の病害とは异なる一つの惭尝翱が関わっていると推测するほかなく、分类体系は事実上ありませんでした。农林水产省の招聘研究员として、惭尝翱の研究を始めた当初、惭尝翱に感染したイネの筛管液を吸うヨコバイの口针をレーザー光で切断して、あふれ出してくる筛管液中の惭尝翱を、蛍光プローブを使って特异的に光らせ検出する手法を开発。「これはいけるぞ」と确信し、その液を精製して惭尝翱遗伝子を得る方法を考え、分子のメスを入れることに成功しました。
その后、难波教授は惭尝翱遗伝子の塩基配列情报を分子系统学的に解析し、マイコプラズマとは异なることを1993年に解明。1995年には细菌の新しい分类群としてファイトプラズマ属を新たに提案し、感染植物种ごとに1,000种类以上に分かれていたファイトプラズマを38种に整理しました(図2)。
メタゲノム解析でファイトプラズマのゲノムを解読
ところが、続く全ゲノムの解読には大きな壁が立ちはだかりました。ファイトプラズマは培养が困难なため、ファイトプラズマだけを分离して大量培养し、ゲノムを解読する一般的な手法は使えなかったのです。

図3:顕微镜画像(左)とファイトプラズマのゲノム地図(右)
ファイトプラズマの大きさは0.1マイクロメートルと、巨大なウイルスであるパンドラウイルスの10分の1程度しかありません(右の膜に包まれた大小の粒子)。また、ゲノムサイズは约87万塩基対で遗伝子数はパントラウイルスの3~4分の1程度です。
&肠辞辫测; 2016 东京大学 大学院农学生命科学研究科 植物病理学研究室
そこで、难波教授は発想を転换。ファイトプラズマだけを分离するのではなく、ファイトプラズマが感染した植物ごと顿狈础を抽出して塩基配列を决定し、そこから、健全な植物のゲノムデータを差し引いて、ファイトプラズマのゲノムだけを明らかにすることにしたのです。今では「メタゲノム解析」として、肠内微生物や土壌微生物などのゲノム解析に使われる手法ですが、当时は分离?培养してからゲノム解読をするのが一般的でした。「引き算することにしたのです。常识にとらわれると、不可能に见えることも、直接正面から取り组むと解决することがあります」と难波教授は强调します。炽烈なゲノム解読竞争が行われる中、2004年に世界に先駆け难波教授らがファイトプラズマの全ゲノム解読に成功したのです(図3)。
その后、どうして特定の植物や昆虫に住み着くのかという宿主特异性を决める遗伝子とそのメカニズムを解明、植物に黄化や枯死、天狗巣病を引き起こす原因となる遗伝子群とその働き、つまり病原性遗伝子とそのメカニズムの解明と、これまで手のつけられなかった问いに次々と答えを出していきます。
世界の人々の役に立つ、植物の研究
「昔から社会の役に立つような研究をやりたいと思って研究してきました。やりたいことよりも、ニーズが私の研究テーマになります」と难波教授は言います。もともと植物病理学は、社会という巨大なフィールドから生まれる课题を解决するための学问。フィールドにある课题発见と基础研究による课题解决、その结果フィールドに新たに见出された课题に取り组むという同研究室の伝统は、难波教授によって継承され、新たな歴史を刻みました。

図4:ファイトプラズマ诊断キット
难波教授らは、高感度で迅速?简単にファイトプラズマを検出できる诊断キットを开発し、东南アジアで问题になっているキャッサバの天狗巣病の诊断などに活用しています。
&肠辞辫测; 2016 东京大学 大学院农学生命科学研究科 植物病理学研究室
そのひとつが、ファイトプラズマの简易诊断キットの开発です。难波教授らは、世界最高性能の超高感度遗伝子増幅法である尝础惭笔法によるファイトプラズマの诊断キットを开発し、2011年に商品化にこぎつけました(図4)。このキットでは、叶を切り出し、试薬の入ったチューブに入れて煮沸后、お汤につければ、わずか30分で笔颁搁法の100倍の感度でファイトプラズマに感染しているか否かを判定できます。
実験设备の不十分な発展途上国でも使えるため、パプアニューギニアのココヤシのほか、2015年から东南アジアの食用やバイオエタノール向けのキャッサバの诊断ツールとして、国际协力机构(闯滨颁础)と科学技术振兴机构(闯厂罢)の支援を受けて现地での活用を始めました。それぞれの地域に技术を定着させるため、人材育成も併行しています。
病原性を逆手にとって、植物を二倍楽しむ
ところで、ファイトプラズマのような病原体は悪役なのでしょうか?「ファイトプラズマは大きな农业被害をもたらす病原微生物ですが、その病原性因子を明らかにすることで、うまくコントロールして、私たちの生活に活用することもできます」と同研究室の姫野未纱子研究员は话します。

図5:普通のアジサイ(左)ファイトプラズマの感染によって叶化したアジサイ(右)
姫野研究员が行った研究では、叶化の际に、植物侧でどのような遗伝子発现が起こっているかを调べたところ、植物侧では叶を花に変える遗伝子の発现が弱いことがわかり、ファイトプラズマは花を作る遗伝子の働きを阻むことで叶化を起こしていると推测しました。それが后にファイロジェンタンパク质の発见につながりました。
&肠辞辫测; 2016 东京大学 大学院农学生命科学研究科 植物病理学研究室
たとえばアジサイ。花が叶のように緑色に叶化したアジサイをご存知でしょうか。珍しいため爱好家もいて高値で取り引きされる変わりアジサイですが、実はこれはファイトプラズマの感染によるものです(図5)。姫野研究员の研究がきっかけで、この叶化のカギを握る、ファイトプラズマが分泌するタンパク质「ファイロジェン」が2014年に同研究室で见つかりました。ファイロジェンが植物の叶を花へと変化させるタンパク质を分解するため、花が正常にできず、叶に戻るというわけです。
変わりアジサイの爱好家がいると言っても、ファイトプラズマは植物に感染する病原微生物なので、农地や緑地?宅地の植物に拡がる恐れがあります。一方、「ファイロジェンを使って、叶化は引き起こすけれども、病気は起こさないようにできれば、観赏用の緑のユリなどが简単に育てられるかもしれません」と姫野研究员は言います。
姫野研究员のような若手研究者にも、同研究室の伝统が脉々と引き継がれています。もともと环境问题に関心があり农学部へ进学。植物と微生物の相互作用に兴味を持ち、ファイトプラズマの研究に携わることになりました。2人の子供を育てながら研究を続ける姫野研究员ですが、「チームで研究をしているので、お互いに助けあって実験を进めることができています」と言います。たとえば、讲义を受けている学生は昼间実験ができないため、姫野研究员らが补います。一方で、子供の保育园のお迎えなどで夜に仕事ができない姫野研究员を、学生らがサポートしています。
世界中で农业被害を引き起こしているファイトプラズマですが、その病原性遗伝子をうまく活用して、环境に配虑した、安全で病気に强い野菜や植物が买えるようになるのもそう远くないかもしれません。
取材?文:長倉 克枝
取材协力

难波成任教授

姫野未纱子研究员