人生いきいき百年型社会をめざして 超高齢社会に向けた大规模社会実験

2030年、日本は人口の3人に1人が65歳以上という超高齢社会を迎えます。東京大学高齢社会総合研究机构では、そのときに向けて、高齢者がいきいきと働きながら暮らし、日本経済も豊かさを維持できるようなコミュニティのあり方をデザインし、検証しています。
人生60年型インフラの限界
世界の最长寿国である日本では、2015年には65歳以上が人口の25%を占め、2030年には30%を越えると予想されています。しかもその60%が75歳以上の后期高齢者であり、约半数は独居です。都市部を中心に一人暮らしの后期高齢者が急増すると考えられています。
65歳の诞生日を迎えた时に、概ね男性は20年、女性は25年のセカンドライフが待っています。そのうち介护を要するのは1割で、9割の期间は自立した生活が可能になっています(図1)。高齢者の歩く速度を1992年と2002年で比べてみると、2002年の75歳は10年前の64歳と同じ速度で歩いていることがわかりました(図2)。つまり、男女とも身体的に11歳ほど若返っているといえるでしょう。
「ところが、日本の社会インフラは、60歳でリタイアした高齢者を若い人が支える“人生60年社会”モデルのままです。60歳で定年を迎え、誰もがだいたい同じように“余生”を送る時代はそれでよかったのですが、今の60歳はまだまだ現役です。60歳を過ぎても選択肢の幅は広く、可能性が広がっています。超高齢社会を迎えるにあたっては、人生90年、100年時代の新しいライフデザインを考える必要があります」と話すのは、東京大学高齢社会総合研究机构の秋山弘子特任教授です。
25年にわたる高齢者追跡调査
秋山特任教授は、アメリカでジェロントロジー(老年学)を学び、この分野のメッカといわれるミシガン大学で长く高齢者研究を行ってきました。渡米当时は萌芽期にあったジェロントロジーが学问分野として成熟していく中で、それと同期するように急速に高齢化が进む日本を海外から観察する机会に恵まれたのです。
ミシガン大学に勤务していた1987年から、日本全国の高齢者を対象に「全国高齢者パネル调査」を実施してきました。全国の住民基本台帐から60歳以上の住民5715人を无作為に抽出し、3年ごとに访问して面接调査を行い、「心身の健康」「経済」「人间関係」が加齢に伴ってどう変化するかを调べています。
20年にわたる追跡调査のなかで、秋山特任教授は、男女ともに70歳を过ぎて缓やかに自立度が低下しはじめる“点”に着目しました。(図3、図4)。この“点”を少しでも先送りし、就労を含めて高齢者が自立できる期间を长くする社会づくりを目指すべきだと考えています。そのうえで、心身が弱っても、独りになっても、高い蚕翱尝(生活の质)を维持しながら、住み惯れたところで暮らし続けられる生活环境を整备すること。これが人生100年时代の新しいライフデザインの土台です。
千叶県柏市で大规模社会実験
東京大学では、2009年に「高齢社会総合研究机构」を設立し、高齢社会の課題に取り組んでいます。工学系研究科都市工学専攻の大方潤一郎教授を機構長に、医学、看護学、工学、心理学、社会学、経済学、法学、教育学などの研究者が集まった分野横断的な組織です。
機構では、「Aging in Place:住み慣れた地域で、自分らしく老いることのできる地域づくり」を研究プロジェクトの共通テーマとして掲げ、長寿社会のまちづくり計画に取り組んできました。その一つが、千葉県柏市の豊四季台地域の大規模コミュニティにおける社会実験です。
東京のベッドタウンとして1960年代前半から開発が進んだ豊四季台地域は、約5000戸の豊四季台団地を取り囲むようにマンションと戸建住宅が混在し、その間に農地が点在する典型的な大都市近郊の住宅地です。高齢化が進むこの町に、UR都市機構や柏市と連携して、商店街、医療?介護施設のほか、高齢者の就労の場を設けるなど、高齢者を中心としたコミュニティを構築しています (図5)。老朽化した団地は、独居高齢者にも暮らしやすい10~14階建ての高層アパートに建て替え中です。
町の中心には “街のダイニングルーム”となるコミュニティ食堂を作ります。ここは、高齢者だけでなく、コミュニティで暮らす働き盛り世代が出勤前に朝食をとったり、学童クラブに通う小学生におやつを提供する場でもあります。一人暮らしの高齢者の多くは家庭で調理した食事を摂ることがほとんどなく、低栄養に陥り、それが虚弱化につながるとのデータがあります。栄養バランスのよい食事を、地域の人たちと一緒に食べることができるコミュニティ食堂は、健康寿命の延長にとって重要です。
高齢者に「生きがい就労」を
もう一つ、このコミュニティで重视されているのが「生きがい就労」の実现です。アンケートでは、80%以上の高齢者が「定年后も働きたい」と答え、実际、働ける身体的能力を维持しています。しかしながら、定年后は余生とする现在の社会インフラが高齢者の就労を妨げてきた侧面があります。全国高齢者パネル调査では、家族や近隣の人と付き合う机会がほとんどない一人暮らしの高齢者は、身体的自立机能の低下が着しいことが分かっています。
生きがい就労の前提は、公司の颁厂搁(公司の社会的责任)ではなく、あくまでもビジネスとして成立することです。公司にとって高齢者を雇用することがメリットであるような仕组みを作らなければ、生きがい就労は定着しません。本プロジェクトでは、农业、食、保育、生活支援の各业种で多くの公司が参入し、高齢者を雇用する新たなビジネスが多数创成されています。しかも、多彩な就労形态を用意していることが特徴で、たとえば农业では、休耕地を开拓した本格的な农业から、屋内の棚式水耕栽培で比较的軽作业のミニ野菜工场、车いすでもできる屋上农园など、健康状态や希望する就労形态に応じて様々な働き方を提供しています(図6)。
「高齢者といっても、経歴や健康状态は様々で、就労に対する価値観も人それぞれです。その多様性に応えるような、自由度の高い新しい働きの场と働き方を提供できれば、元気な高齢者たちはいくつになっても働くことができるはず」と秋山特任教授は确信しています。
机构では、柏市と同様の町づくりプロジェクトを、福井県と岩手県大槌町でも実施しています。柏のような都市部と地方では、取り组むべき课题も、活用すべきリソースも违うため、福井県で地方型モデルを构筑中です。また、东日本大震灾により全てのインフラを失った大槌町では、ゼロからの復兴だからこそ、高齢者コミュニティを组み込んだ新たな町づくりをめざしています。
2009年からは、产业界との连携事业として「ジェロントロジー?コンソーシアム」を発足させました。自动车?机械、电机、食品、流通、建筑?不动产、滨罢、マスコミ、教育、金融、医疗など、各业种を代表する大手公司约60社が参加し、「2030年の超高齢未来に向けた产业界のロードマップ」を共同で制作しました。超高齢社会の到来を新たなビジネスチャンスととらえる公司が多く、また、日本での成功事例は、日本に少し遅れてより急速に高齢化するアジア诸国への输出が可能です。
「学内での分野横断的な连携にとどまらず、产业界、自治体、地域住民が手を取り合って、対等な立场で活动するのがこの机构です。私たちは、产业界や行政が议论し合い、実际にまちづくりを推进していくためのプラットフォームとしての役割を担っているのです」。秋山特任教授は机构の意义をこのように语っています。2030年、谁もが生き生きと歳をとる社会の実现に向けて、东京大学を中心に新たな社会インフラが构筑されようとしています。