地下1000メートルで証拠を捕まえる 东京大学が拓いたニュートリノ物理学
「この時を境にニュートリノ振動は物理的な事実となりました(宇宙线研究所所長梶田隆章)」。ニュートリノ天文学という新しい学問を拓いたカミオカンデや、ニュートリノ振動を証明し素粒子物理学の常識を覆したスーパーカミオカンデ。理論的予測を物理的事実にしてきた神岡鉱山に、今、ハイパーカミオカンデの建設が構想されています。そこでは何が発見されるのでしょうか。
ニュートリノ天文学の诞生
1987年2月23日の7时35分35秒(世界标準时)から约13秒间に、カミオカンデは大マゼラン星云の超新星爆発でつくられた11个のニュートリノを検出しました。宇宙ニュートリノ観测の业绩により、カミオカンデを构想し、当时の実験の指挥をとっていた小柴昌俊东大名誉教授は、2002年にノーベル物理学赏を受けました。
カミオカンデは3000トンの水をたたえたタンクの壁面に1000本の光电子増倍管を并べた観测装置で、岐阜県の神冈鉱山の地下1000尘に1983年につくられました。そもそもの目的は、大统一理论で予测されている阳子の崩壊をとらえることでした。
カミオカンデ計画に大学院生の時から関わってきた宇宙线研究所長の梶田隆章教授は、「小柴先生は観測を始めて間もない頃、観測データのエネルギー分布から、低いほうのエネルギーを精度よく測定できるようになれば、太陽ニュートリノを観測できることに気づき、すぐに改造を決断しました。そこがすごい」と語ります。
1984年からバックグラウンド(ノイズ)を约1000分の1に下げるなどの改造を行い、1987年1月に太阳ニュートリノの観测を开始しました。それから2カ月も経たないうちに超新星が现れたのです。「超新星爆発のニュートリノは太阳のものより少しエネルギーが高いですが、装置の改造がなければ検出できなかったでしょう」。
超新星爆発は、太阳の8倍以上の质量をもつ恒星が一生を终える时に生じます。理论から、&濒诲辩耻辞;太阳が45亿年间に放出する全エネルギーの约1000倍を约10秒间にニュートリノとして放出する&谤诲辩耻辞;と予测されていました。13秒间に11个というカミオカンデの観测はこれを里付けるもので、ニュートリノ天文学という新しい学问が诞生したのです。
大気ニュートリノの振动を発见する
太阳ニュートリノは核融合反応で生じます。ニュートリノには、「电子ニュートリノ(电子型)」、「ミューニュートリノ(ミュー型)」、「タウニュートリノ(タウ型)」の3种类がありますが、太阳ニュートリノは电子型です。
カミオカンデには、大気ニュートリノもやって来ます。宇宙线が大気の原子核と衝突して生じるニュートリノで、电子型とミュー型の2种です。カミオカンデがとらえる大気ニュートリノは、长らく阳子崩壊の最后まで残るバックグラウンドとして扱われていました。
「大気ニュートリノのデータが『何かおかしい』と、意识し始めたのは1986年の秋顷ですね。データ解析プログラムを大幅に改良した効果が表れたのでしょう」。カミオカンデがとらえた大気からの电子型とミュー型の数を数えたところ、前者は理论的な期待値に合うのに、后者はその6割しかなかったのです。「この结果を1988年に论文発表しましたが、その中で『ニュートリノ振动かもしれない』と一言触れています」。
ニュートリノ振动は、3种のニュートリノの中で、ある种类のものが别の种类に変わることをいい、ニュートリノに质量が无ければ起こりえません。现在、最も确かだとされている素粒子の理论、「标準理论」ではニュートリノの质量はゼロとされているので、振动の発见は、素粒子物理学を大きく进歩させます。
その后、梶田教授たちは、大量の大気ニュートリノのデータの中で、高いエネルギーをもつものを解析してみました。数だけでなく、来た方向も分かるからです。するとミュー型については、上空から来るものの数は期待値と合うのに、カミオカンデの下から来るもの、つまり地球の里侧から来るものは期待値の半分しかありませんでした。これはミュー型が长い距离(地球の直径程度)を飞んでいる间に、别の种类のニュートリノに変化していることを示します。「1994年の论文ではニュートリノ振动の可能性を示しましたが、统计误差を含めると确率99%で、これではまだ结论はでません。结局、言い切るにはスーパーカミオカンデの登场を待たねばなりませんでした」。
1996年4月に完成したスーパーカミオカンデは、水が5万トン、光电子増倍管が1万1200本と大型化し、大気ニュートリノの観测データも一気に増えました。そして1998年春に岐阜県高山市で开かれたニュートリノ国际会议でニュートリノ振动を発表したのです。「この时を境にニュートリノ振动は物理学的な事実となりました」
3种のニュートリノ振动
2001年には、太阳ニュートリノも振动していることが明らかになりました(注1)。太阳ニュートリノ振动では、电子型が他の型に変わります。一方、大気ニュートリノ振动では、ミュー型はタウ型に変わりますが、电子型はそのままで変わりません。
ニュートリノ振动の大きさ(変化する割合:振幅)は、「混合角」というもので表されます。ニュートリノが3种类あるため、混合角も3种类あります(注2)。大気ニュートリノ振动の研究から、ミュー型とタウ型の混合角(&迟丑别迟补;23)が明らかになりました。また太阳ニュートリノの研究から电子型と他の型の混合角(&迟丑别迟补;12)も分かりました。
大気から来るミュー型の大半はタウ型に変わりますが、もし第叁の混合角がゼロでなければ、ごく一部は电子型に変わると理论的に予测されていました。つまり、ミュー型から电子型への振动を検出することで、最后の&迟丑别迟补;13が决定できるのです。
「スーパーカミオカンデのところで振动の効果が最大になるようにニュートリノのエネルギーを选べば、ミュー型の约5%が电子型に変わります」。
このような測定ができるのが、2009年4月に始まったT2K実験です。この実験では、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)でミュー型をつくり、これを300km離れたスーパーカミオカンデに向けて発射しています。J-PARCではミュー型のエネルギーを制御できるので、理想のエネルギーを持ったミュー型をつくることができます。「T2K実験では今までにミュー型と電子型間の振動を十数例得ました」。 2012年6月に京都で開かれた「第25回ニュートリノ?宇宙物理国際会議」では、θ13に関して、罢2碍実験をはじめ、中国や韩国、ヨーロッパの原子炉のニュートリノを用いた値が报告されましたが、矛盾はありませんでした。
ハイパーカミオカンデで探る対称性の破れ
梶田教授たちの次なる课题の1つは、物质?反物质间の対称性の破れを探ることです。「ニュートリノと反ニュートリノでは振动の确率が违うのか、ということを见てみたいのです」。
&濒诲辩耻辞;なぜ、现在の宇宙は物质だけで、反物质がないのか&谤诲辩耻辞;は、素粒子物理学の大きな问题です。両者を支配する法则がわずかに违うためだと考えられており、この违いが対称性の破れです。2008年にノーベル物理学赏を受赏した小林诚?益川敏英博士たちは、素粒子であるクォークの対称性の破れを明らかにしました。しかし、「1980年半ば以降の研究から、クォークの対称性の破れだけでは、物质优位の世界が今まで残らないということが分かってきました。ニュートリノもクォークと同様に広い意味で物质のもとになる素粒子です。ニュートリノの対称性の破れも明らかにする必要があります」。
梶田教授たちは、ニュートリノの対称性の破れを探るには、スーパーカミオカンデよりずっと大きい、100万トンの水をたたえた「ハイパーカミオカンデ」が必要だろうと考えています。「米国や欧州でも、大规模な観测装置の构想があります。今、ニュートリノの観测研究は、新たな局面に入りつつあります」。
(注1)スーパーカミオカンデの観测结果と、カナダで行われている别の方法での観测结果を照合したところ、振动の确実な証拠が得らました。
(注2)普段「ミュー型」と言っているニュートリノは、これが物质と反応して出てきた粒子がミューオンということでミュー型とわかります。ところが量子力学ではこのようなミュー型ニュートリノがある决まった质量を持っている必然性はなく、むしろ决まった质量を持たないのが普通です。量子力学では、粒子を波动関数として表します。私达が観测できる电子型?ミュー型?タウ型のニュートリノは、3种类の质量を持った状态(1型、2型、3型としましょう)の波动関数の重ね合わせの状态になっていて、両者の関係が&迟丑别迟补;12, θ23, θ13という3つの混合角で表されます。混合角&迟丑别迟补;23は、ミュー型からタウ型への振动に関係していることが知られていますが、混合角&迟丑别迟补;12、混合角&迟丑别迟补;13は、电子型とミュー型、电子型からタウ型への振动、というように単纯に対応しているわけではありません。
取材协力
梶田隆章教授