春雨直播app

FEATURES

English

印刷

今、そこにある「过去」 叁次元デジタルデータ化技术で挑むサイバー考古学

掲载日:2012年2月15日

昔ながらの穏やかな风景が広がる奈良県明日香村。7世纪后半、この地には、最高の头脳と技术が结集した政治?文化?流通の中心都市「飞鸟京」が置かれていました。しかし、现在は田畑が広がり、当时を偲ばせるのは野山と建造物の遗构だけです。

2011年11月、この明日香村で「Mixed Reality(複合現実感)による飛鳥京体験ツアー」が開催されました。いにしえの最先端の都を、現代の最先端技術を使って蘇らせる試みです。この日、田園風景の中をゆっくり走る赤い電動バスに乗った参加者たちは、西暦645年のまさにこの場所を目にすることになりました。現在の村の風景に重ねて、飛鳥京に並ぶ木造家屋や色鮮やかな大伽藍をもつ飛鳥寺が現れます。参加者は蘇我氏暗殺事件まで目撃したのです。

飛鳥京体験ツアーを主催した、東京大学生产技术研究所の池内克史教授は、歴史的建造物のデジタルデータ化技術や復元展示技術を研究しています。文化財のデジタルデータは、保存?復元を助けるばかりでなく、考古学に新しい知見を加えることもあります。カンボジアのアンコール遺跡における「バイヨン寺院デジタルアーカイブ化プロジェクト」がその典型的な例です。

アンコール遗跡をスキャンする

アンコール王朝が最盛期を迎えた12世纪末に建造されたバイヨン寺院は、神々の颜を东西南北に刻んだ四面塔が林立する迫力のある外観と、回廊に施された繊细な浮き彫りで有名です。内戦などのために长い间无管理状态にあり、倒壊の危机に濒しています。

池内研究室は、日本国政府アンコール遗跡救済チームと协力してバイヨン寺院のデジタルデータ化に挑みました。屋外の巨大建造物の计测には様々な新技术が必要でした。

形の计测には、距离センサーを用います。通常、地上や足场に固定した距离センサーから対象物までの距离を一点ずつ计测することにより、点集合としての立体形状を得ます。

ところが、広さ160尘×140尘、高さ45尘のバイヨン寺院には、従来の固定型センサーでは太刀打ちできません。そこで、気球にセンサーを吊り下げた「気球型移动距离センサー」を开発しました。しかし、気球が揺れるとセンサーと対象との距离が変化し、得られる立体画像に歪みが生じます。研究グループは、センサーの上に取り付けられたビデオカメラの映像と比较する方法(阪野、2005年)や、地上据え置き型のセンサーと比较する方法(増田、2005年)により、距离データを补正して歪みの无い立体画像を得ました。

気球型移動距離センサーで得られた画像

気球型移動距離センサーで得られた画像 (池内研究室提供)

補正後の画像

補正後の画像 (池内研究室提供)

一方、増改筑が繰り返された寺院内部には、狭くて复雑な空间が多く存在します。そのような场所も、梯子を上下しながら壁面を正面から计测する「木登りセンサー」(小野、2005年)や镜を利用した手法を开発し、立体形状を计测することができました。

计测が终わると、取得データを张り合わせる「位置合わせ」を行います。ところが、バイヨン寺院のデジタルデータ量は膨大で、一台のコンピュータでは扱えません。大石岳史讲师(现准教授)は、二枚の画像の高速位置合わせや复数のコンピュータを同时に使用する手法を考案して、従来の1000倍の计算速度を実现(大石、2005年)し、この问题も乗り越えることができました。

形と同様に重要なのが、色の计测です。屋外の场合、时间や天候によって光の当たり方が変わるため、同じ材质でも色が异なって见えます。私たちは普段、光源からの光が物体表面で反射された色を见ています。色情报を取得するカラーカメラも同様に、光源の色と、物体に固有の反射率の掛け合わされたデータを记録します。しかし、文化财の保存という目的からは、光源の色に左右されない真の「色」である反射率の情报を记録する必要があります。そこで、太阳光の色を推定して日照による见かけの色変化をキャンセルし、寺院壁面の反射率を得る手法が考案されました(川上、2005年)。さらに、反射率の情报を利用して、さまざまな照明条件での见え方を合成できるようになりました。

カラーカメラによる画像

カラーカメラによる画像 (池内研究室提供)

補正後

補正後 (池内研究室提供)

见えないものを见るサイバー考古学

様々な技术开発を経て得られたバイヨン寺院のデジタルデータから、これまでわからなかった兴味深い事実が见えてきました。

バイヨン寺院には多くのペディメント(切妻壁饰り)と呼ばれる彫刻があります。その大半は光の届かない狭隘部にあり、肉眼で见ることも写真撮影も不可能でした。池内研究室では、镜を利用した距离センサーによって取得したペディメントの3次元データから合成画像を作成しました。この世界初の画像には、仏像が削り取られ、后からヒンズー教のシバ神の象徴であるリンガが彫られた様子が写っていました。これは、バイヨン寺院が仏教寺院からヒンズー教寺院へと作り変えられたことを示す贵重な証拠となっています。

 
破壊されずに残ったペディメント

破壊されずに残ったペディメント (池内研究室提供)

仏像が削られたぺディメント

仏像が削られたぺディメント (池内研究室提供)

また、バイヨン寺院の大きな特徴である四面塔に関する分析も行われました。経年変化や苔などにより肉眼では形を判别しづらくなるほど変色した彫刻でも、コンピュータによる客観的な解析が可能です。その结果、现存する173の颜面が、デーヴァ(男神)?デヴァター(女神)?アシュラ(悪魔)の叁种类に分类できる事がわかりました。さらに、同じ塔の颜や位置的に近い颜が类似しているという结果が得られ、复数の职人グループで分担して制作が行われたという説が科学的に里付けられました。

飞鸟京復元プロジェクト

池内研究室の活动は、计测?分析にとどまらず、デジタルデータを利活用する方法にも及びます。现在、クラウドコンピュータによるデータの共有や、遗跡の復元に関する研究が进行中です。

Professor Ikeuchi

飞鸟京体験ツアーの风景

そのひとつが、現実世界に仮想物体を重ね合わせる複合現実感技術を利用した「飞鸟京復元プロジェクト」です。その実証実験として行われたのが、冒頭の飛鳥京体験ツアーでした。

ゴーグル型のヘッドマウントディスプレイ(HMD: Head Mounted Display)を装着した参加者たちが見ているのは、バスに取り付けられた全方位カメラが撮影するリアルタイムの映像です。装着した人の頭の動きに対応して、顔が向く方向の風景が映し出されます。その現実の風景に、コンピュータ?グラフィックス(CG)で復元された飛鳥京の建物が現れます。CGの建物が違和感なく現実世界に写るよう、光源環境に合わせてCGの見え方が変わる技術や、現実世界の人物の影がCGの実世界や建物に写る技術などが開発されました。

池内教授と大石准教授は、屋内のシアターではなく、現場での「体験」にこだわります。「昔ここに何々寺があったと言われても、小学生は『ふーん』と言うだけ。家に帰ると全て忘れてしまいます」(池内教授)。自分が立っている土地の歴史的意味を、疑似体験を通して理解する。それが、飞鸟京復元プロジェクトです。

かけがえのない文化财を守る工学者の梦

「世の中の役に立つことが、工学者の喜び」と语る池内教授は、研究室の技术によってかけがえのない文化を守ることを目指しています。より多くの人へ感动を届けるため、池内研究室の卒业生である角田氏は池内教授や大石准教授と共に、大学発のベンチャー公司「アスカラボ」を立ち上げました。「実用化して初めて気付く课题を研究室に持ち帰り、再び社会に还元するという、公司と研究室の密なループの実现が、现场の必要にもとづく研究を生む」と池内教授は语ります。社会と大学を结ぶ、始まったばかりの取り组みです。

人々が育む文化は、常に技术の进歩に根ざしてきました。新技术によってもたらされる感动は、かけがえのない文化を守り育ててゆく、大きな原动力になるはずです。


参考文献

「3次元デジタルアーカイブ」池内克史?大石岳史 財団法人東大出版会

取材协力



タイトル画像

バイヨン寺院仏像の3次元スキャン (池内研究室提供)

バイヨン寺院仏像の3次元スキャン (池内研究室提供)

アクセス?キャンパスマップ
闭じる
柏キャンパス
闭じる
本郷キャンパス
闭じる
驹场キャンパス
闭じる