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水を使い「グリーン」な宇宙開発を後押し | Entrepreneurs 04

掲载日:2021年3月5日

このシリーズでは、东京大学の起业支援プログラムや学术成果を活用する起业家たちを绍介していきます。东京大学は日本のイノベーションエコシステムの拡大を担っています。

超小型衛星用のスラスタ(推進機)を開発する株式会社Pale Blue (千葉県柏市)は、究極のグリーン燃料である水を推進剤として活用する、世界でもユニークなスタートアップ企業です。宇宙環境にやさしい燃料を使った持続化可能な宇宙開発を後押しするほか、近年深刻化する宇宙ゴミの課題にもスラスタを用いた解決策を提案しています。

Pale Blue を率いるのは、東京大学大学院の工学系研究科で航空宇宙工学を専攻した浅川純代表取締役です。博士課程に在籍していた2016年、指導教員の小泉宏之准教授(新領域創成科学研究科)から「水を推進剤としたスラスタの研究をしてみないか」と提案を受け、研究を開始。その研究結果をもとに2020年4月、小泉先生や研究室の仲間2人とPale Blueを立ち上げました。2022年に宇宙で実証実験を行い、2025年までに衛星部品としてのスラスタの販売開始を目指すほか、東京大学と共同で月探査機の推進系技術開発を進めています。将来的には、太陽系惑星探査用スラスタの開発なども視野に入るといいます。

ISS 宇宙実験で研究にのめりこむ

高知県で生まれ育った浅川さんは、多趣味な父親の影響を受け、宇宙に興味を持ち始めました。高校時代はぼんやりと「宇宙工学を学びたい」と考えていましたが、その方向性が固まったのは、航空宇宙工学科がある東大に進学したからでした。博士課程2年の時、科学技術振興機構 (JST) の大学発新産業創出プログラム(START)助成金での支援を得て、水を推進剤とした超小型衛星用推進システムとその実証衛星を開発し、国際宇宙ステーション (ISS) から宇宙へ放出することに成功しました。「自分が関わった実証衛星が打ち上げられた瞬間、今まで味わったことがない不思議な感情が沸き起こりました。実際に(地上から)宇宙で衛星を動かす感覚を味わい、研究にのめりこんでいきました」と浅川さん。実は、JSTの助成金を獲得した当初から、起業する覚悟を決めていたようです。「約1億円の研究費をいただき、仲間も巻き込んだので『起業するしかない』と動きました」

起业への兴味を持つきっかけとなったのが、产学协创推进本部が2005年から主催する「アントレプレナー道场」です。ベンチャーについて初歩から体系的に学びました。「宇宙ベンチャーの方とディスカッションする机会が増え、ベンチャーを身近に感じました。また、(起业のアイデアを竞う)ピッチコンテストにも参加し、外部の方ともつながりができたのが大きかった」と、浅川さんは起业に対する学内サポート体制の手厚さを指摘します。

真空环境を模拟する装置とその内部に取り付けられた自社开発の推力测定装置 

世界の先端を行くグリーン技术

10肠尘四方の水レジストジェットスラスタ(水蒸気式)の実机 

博士課程修了後の1年間、新領域創成科学研究科で特任助教を務めながらJSTのプログラムを完了させた後に、Pale Blue を始動。小泉先生はチーフ?テクノロジー?オフィサーとして参画しました。同社は、研究成果の事業化推進を図る学内助成制度、GAPファンドの支援を受けました。また、株式会社東京大学TLOを通じて独占ライセンスを取得。东大罢尝翱は1998年に設立され大学が100%株式保有する、東京大学の発明と企業の橋渡しをする技術移転機関です。

さらに、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(东大滨笔颁:東京大学のベンチャー創出機能強化のため、2016年に大学100%出資で設立)が東大関連ベンチャーに対して事業資金や経営支援を提供するプログラム「1st Round」の支援も受け、創業から半年で累計1億4000万円の資金を調達しています。

最近、大手公司やベンチャーが低コスト、短期间で开発できる超小型卫星の市场にこぞって参入しています。特に、复数打ち上げた卫星をネットワーク化する「コンステレーション」构想は、卫星を使った课题解决の幅を広げるものとして期待されています。しかし、开発には课题が多いのも现状です。例えば、大型の卫星はスラスタを搭载し、轨道の修正や移动が可能ですが、超小型卫星は搭载可能な机器に限りがあり、スラスタがないのが普通です。

また、大型の卫星に使われるスラスタの推进剤は、取り扱いが难しい剧物を使っており、环境负荷が悬念されます。「この点、水は全く问题がありません」と、浅川さんは胸を张ります。竞合会社は海外に2社ほどあるそうですが、同社の优位性は、细かい轨道修正を可能にする水レジストジェットスラスタ(水蒸気式)と推进力のある水イオンスラスタ(水プラズマ式)を组み合わせたハイブリッド型を研究开発している点です。水蒸気式で重さ1.2キロのスラスタは既に闯厂罢のプロジェクト実証実験が済んでおり、ハイブリッド型は2020年5月に闯础齿础の実証テーマに选定され、开発が进んでいます。后者のプロジェクトは、革新的卫星技术実証3号机を用い、民间公司や大学がそれぞれの机器や部品、超小型卫星などを轨道上で実証するもので、2022年の打ち上げ予定です。

ハイブリッド式は、水蒸気式に比べて必要な机材が多く、関连机材のさらなる小型化が当面の课题です。打ち上げに向けて、エンジニアなど得意分野が违う人材を雇い、2021年末には10人体制で临みたいとしています。

「科学技术の発展こそが人类を幸せにする」

Message

小型卫星の実利用が急拡大するのに伴い、悬念されるのは、使用済み卫星など宇宙ゴミの増加です。浅川さんは、同社が开発するスラスタを利用してゴミを大気圏に突入させ、消却するサービスを构想しています。また、卫星の轨道修正や、水タンクを卫星に搭载し、卫星の「ガソリンスタンド」として提供するサービスも视野に入れています。「研究を始めて、社会贡献のあり方に目が行きました。科学技术の発展こそが人类を幸せにすると考えています」

同社の技术は月探査プロジェクトにも応用可能であり、水が存在する月で卫星に水を补给し、そのまま他の惑星に送ることも不可能ではないと考えています。「梦はもっと远くにあります。例えば、内部に水があり、それが表面に水蒸気として喷出している土星の月(エンケラドス)があります。このような月に小型卫星を飞ばすことも将来的には可能ではないでしょうか」。高校生时代から持ち続けた宇宙への梦は、ますます広がりを见せています。

株式会社Pale Blue

超小型衛星用のエンジンであるスラスタを開発するスタートアップ企業で、2020年4月に設立された。水を推進剤として使用する、世界でも珍しいベンチャー。現在、JAXAの革新的衛星技術実証3号機の実証プログラムに採択され、研究を進めている。东大滨笔颁の「1st Round」に採択されたほか、インキュベイドファンドと三井住友海上キャピタルがそれぞれ運営するファンドを引受先とした第三者割当増資や、金融機関からの融資で資金を調達。社名の由来は、pale blue (淡青)が水を連想させることと、1990年に約60億キロメートルの彼方から米国の無人探査機ボイジャー1号が地球を撮影した歴史的写真、通称Pale Blue Dot。

取材日: 2020年12月21日
取材?文/森由美子
写真/武田 裕介

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