障害者の困りごとを人工知能で「见える化」 ダイバーシティ&インクルージョン研究 02

このシリーズでは、様々な観点からダイバーシティ&インクルージョンに関连する研究を行っている东京大学の研究者を绍介していきます。

ニューロインテリジェンス国际研究机构 特任教授 長井志江
―― 現在、発達障害に関連した研究をされているとのことですが、元々の研究と、今の研究にシフトされていった経緯などを教えていただけますか。
研究の最初のモチベーションは、贤いロボットを作りたいという纯粋な気持ちでした。しかし、いくら顽张っても人工知能は人の3歳児にも及ばない。最近の人工知能は、特定の课题において人の能力を凌驾するものもありますが、逆に子供がするような、他者とのコミュニケーションや言叶を使ってしゃべるなどの非常に基本的な能力ができていない现状があります。そのうちに、人はどうやって贤くなるのかという点に兴味がシフトしていきました。
1999 年頃、大阪大学の浅田稔教授や東大の國吉康夫先生(情報理工学系研究科教授)が中心となって、認知発達ロボティクスという新しい研究分野が立ち上がりました。人のように学習し発達するロボットを創ることを通して、神経科学で得られた仮説を検証し、さらにそれをフィードバックして人の理解を深める分野です。私はそれにすごく魅力を感じて、博士課程で阪大に行きました。
2012 年ごろ出会ったのが、先端科学技術研究センターの熊谷晋一郎准教授と、自閉スペクトラム症(ASD)の当事者でもある綾屋紗月特任講師です。障害や病気の当事者として自分自身を研究する「当事者研究」をされています。それをきっかけに、なぜ学習や発達がうまくいかないのかに視野を広げていきました。そこからは、人工知能を使いながら、発達の仕組みを理解する研究をすると同時に、発達がうまくいかない場合、例えばコミュニケーションが苦手と言われるけれども、本当に苦手なのか、それともただやり方が違うだけなのか、その辺をもっと理解したいと思って研究してきました。
―― 具体的にどのように研究を進めていますか。
一つは、画像処理や音声认识で使われている深层ニューラルネットワークなどを使って、人の脳を真似たモデルを作り、そのモデルに実际に子供が获得する模倣やお絵描き能力を学习させ、その学习はどんな条件であればうまくいくかを実験しています。人の脳を操作してある机能を働かなくさせることは伦理的にできません。我々はニューラルネットワークモデルを使って、そのモデルの中に、障害に相当する、コネクションを遮断したりノイズを乗せたりといった操作をすることで、学习がどのようにうまくいかないのかを理解しようとしています。
もう一つは、ヘッドマウントディスプレイ型シミュレータで、础厂顿の方の视覚过敏を再现して、当事者や周囲の人に体験してもらう研究です。础厂顿の方はコミュニケーションや相手の気持ちを読むのが苦手といわれますが、それ以前に自分の中で何が起こっているか、また自分の感情の状态についてわからない方が多いそうです。自分のことが分からないがゆえに他の人との対応もわからない。なのでまず、自分自身の中で何が起こっているかを「见える化」することが重要であると考えました。
统合失调症や础厂顿の方の幻覚や视覚过敏などの体験を、映像で再现したり痴搁装置として実装したものはいくつかありますが、多くは経験谈に基づいた定性的な再现です。我々は、当事者の方の体験について定量的なデータを集めた上で、それが脳、目、耳などの感覚器の机能としてどんな原因で起こりうるのかを、知っている限りの科学的な根拠に基づいて仮説を立てています。
例えば、人の脳は「自発発火」(自発的な电気信号のやり取り)をしています。目を闭じて耳をふさいで何も感覚信号は入ってこない状态でも脳は常に自分から活动していて、その活动は人によって个人差がある。础厂顿の方は、その活动が强く起きすぎているらしいことも研究で分かってきました。それが视覚上に点々のようなノイズとして现れたり、色が消えて见えたり、何かぼやけて见えたりするのではないか、と。そういう一个一个の现象を、科学的な根拠をもとに説明をしていくことで、今までの再现映像とは违った展开ができると思い、熊谷先生たちと一绪に研究を进めています。

―― 個人差が大きいんですよね?
そうですね。実はASD の診断を受けている人の中でも、半分未満しか視覚過敏は体験していません。一方、聴覚過敏や触覚過敏が非常に多いとの報告があります。人間の脳は視覚野、聴覚野など、役割分担がある程度分かれているのですが、基本的に領野に限らず同じ信号処理が行われています。例えば、渋谷の大きな交差点の映像を見てもらって、この場面で過去にどんな体験をしたかを再現してもらう。すると、ASD の方の聴覚過敏や視覚過敏は、うるさいところ、物がたくさんあるところに行くと出やすいことが分かりました。視覚上でノイズが現れているのが見える時と、砂嵐のザーっていう音が聞こえる時の環境要因が近かったのです。脳の中での自発発火が発生しやすい条件が、環境要因の中にあることがそこから推測できる。
これまでの発达障害の方の支援や治疗は、その人の中に全ての障害が帰属されて、その人を変えたり治疗したりしようとしてきたけれども、我々は环境との相互作用で初めて障害が起きる、と定义し、环境を変えることによって、その人のつらさをなくしてあげることができるのではないかと考えています。これは(法律で义务づけられている)「合理的配虑」に沿った设计にもつながると思います。
―― 自閉症は、2013 年に自閉スペクトラム症に呼称が変更されました。病気にも幅、スペクトラムがあり、個人の個性の一つだと示していけるようになるのでしょうか。

まさにそれを目指してきました。これまで、(障害のない)定型発达の人がスペクトラムの片方にいて、もう片方に発达障害や自闭症の人がいると区分けされてきました。我々は実は、定型発达がスペクトラムの真ん中にいて、その両端にいわゆる発达障害とラベルをつけられてきた人がいるのではないかと见ています。
ニューラルネットワークモデルを使った実験で、あるパラメータに変化を加えると、両極端に変化させることができるんです。いわゆる中庸なパラメータを与えると学習はうまくいくけれども、そのパラメータをものすごく小さくしたり大きくしたりすると、違う困難さが出てくる。なので、そもそも ASD は同じ原因で起こっているわけではなくて、まったく違う両極端の原因から生じているものを一括りにまとめていたのではと考えられます。
もうひとつは、そこに境界を決める必要がないこと。例えば100人から一人一人のASD特性のスコアを集めると、はっきりと 2 つのグループに分かれているわけではないんです。分かれていないものを、研究者が、ここを境界にします、って無理やり分断させているだけなんです。そもそも分かれていないんだからその連続的な変化というものを素直に見ればいいんじゃないか、と思っています。
―― これからどんな社会を作っていきたいですか。
これまで、公司や学校で60数回讲演活动をやってきました。医疗少年院にも行ったんですが、医疗少年院には発达障害を抱えているお子さんが多いんです。障害があるがゆえにうまく社会に溶け込めずに何かしら悪いことをしてしまう、もしくは悪いかどうかの判断ができず、谁かに頼まれてできると嬉しくて(诈欺集団の)受け子などをやってしまう。そうしたお子さんや医疗少年院で働いている先生方向けに、発达障害についての考え方を话したり、シミュレーターを体験したりしてもらっています。
特に発达障害のお子さんをお持ちの亲御さんの中には、我々の讲演に参加して泣きながらすごく安心される方がいます。こうした体験を通して、少しでも子どもを理解することができたことに喜びを感じてくださっている。科学的な知见から、仮説ではありますが病気を理解するきっかけを提供させていただくことで、社会のお役に立てるのかなと感じています。
取材日: 2021年8月13日
取材?文/小竹朝子
撮影/ロワン?メーラー