2024年 藤井総長年头挨拶
新しい年となりました。谨んで、年头のご挨拶を申しあげます。まずはじめに、元日の夕方に起こった能登半岛を中心とした地震により被灾された方々に、心よりお见舞い申し上げます。また生活インフラが寸断されるなか、现地で紧急支援にあたられている方々に敬意を表します。私たちの思いは皆様とともにあり、本学として何ができるかを検讨してまいります。
一昨年のロシアによるウクライナ侵攻で世界の情势は激动の局面に入り、昨年もまた、ハマースの攻撃でイスラエル市民が多数死伤する事件が起こりました。それに端を発したイスラエルのガザ侵攻により、すでにウクライナにおける市民の犠牲を大きく上回る数のパレスチナ市民の犠牲が生じているという、たいへん痛ましい状况に至っています。それぞれ背景も构図もまったく异なる事象ですが、共通するのは、多様な人びとが関わる复雑な歴史と记忆とが、その地域に积み上げられてきたなかで生じている点です。そして、いま生みだされつつある住民たちの惨祸は、问题をさらに复雑なものにしています。
私たちが国际社会について语るとき、たいていは、そうした多様性や复雑さを単纯な図式にまとめてしまいます。现状の政治的な枠组みを无意识の前提とし、解决策もその范囲でのみ议论しがちです。いうまでもなく、现状を武力?暴力で変更することは许されません。他方で、人びとの息づかいを无视し、丸ごと力で抑え込む解决もまた、怨恨の连锁に终わりをもたらすものではありません。
戦争の悲剧だけではありません。近年深刻化している気候変动に伴う洪水や大火や飢饉などの灾害が、さまざまな人びとにかつてない苦难をもたらし、深刻な対立を生みだすという事象も见られます。それにもかかわらず、こうした问题に対する国际社会の関与はまだまだ不十分です。
国际社会の多様性の由来や、地球环境を含む复雑な因果の関係性について、私たちはもっと事実に即して真挚に学び、そのうえでより望ましい解决策を议论し、対话していかなければなりません。
本学构成员の大半は、ウクライナやパレスチナなどの纷争の直接的な当事者ではありませんが、だからこそ、さまざまな立场の学生や研究者とともに腰をじっくり据えて学び、议论や対话を促すなど、手を差し伸べることができる立场にあるともいえます。そのためには、大学が、真に学术的な観点から自由で公正な议论や研究を进めることができる场であることが何より求められます。この原点に立ちながら、グローバル社会が共通して抱える课题、そして地域纷争の解决や低减のためにできることを、その一员として、今年もさらに実行してまいりたいと思います。
コロナ禍がようやく落ち着き始めた昨年は、世界各地から学生を迎えることが再開でき、世界貿易機構(WTO)のNgozi Okonjo-Iweala事務局長をはじめ、国連気候変動ファイナンスハイレベル?パネル共同議長のVera Songwe氏、SDSN(UN Sustainable Development Solutions Network)代表のJeffrey Sachs教授などのグローバル?リーダーにも、本学を訪れてもらえるようになりました。教育面では、昨年4月にグローバル教育センター(春雨直播app GlobE)を設立し、留学生と本学学生が主体的に国際社会の諸問題に取り組むことを促進するプラットフォームを強化しました。学生の国際化をサポートする約30名の教員が所属し、200名以上の全学交換留学生が学んでいます。国際総合力認定制度(GGG:Go Global Gateway)、全学交換留学制度(USTEP:University-wide Student Exchange Program)、グローバル教養科目(GLA:Global Liberal Arts)など、現代社会のダイバーシティや持続可能性をめぐる諸課題とその価値を理解するためのプログラムを多数、用意しています。グローバル教養科目は、東京大学の学部後期課程と大学院のすべての学生が履修できる授業であり、SDGsに関することを英語で学んでいます。
昨年8月には、バングラデシュにあるアジア女子大学(AUW:Asian University for Women)との合同サマープログラムを実施しました。AUWは、南アジアの貧困地域出身で、学ぶ機会が限られた優秀な女性たちを教育していますが、参加した東京大学側の学生たちは、意欲溢れるAUWの学生と共に学び、さまざまな場所を訪ね、意見を交わすことで、多様性や包摂性への理解を深めたことでしょう。次の春休みには、東京大学の学生がAUWに赴き、学ぶことを予定しています。
学生のグローバルな姿勢を育むことは、ダイバーシティ、エクィティ、インクルージョンの推進の後押しにつながると期待しています。さまざまな専門や文化背景、異なる国籍を有する学生が世界の喫緊の課題を共に考え議論するグローバル教育センターの教育は、あとで触れる College of Design、School of Designの構想を実現し発展させていく土台となるでしょう。
今年から东京大学は、国际的な社会课题解决への取り组みを、スタートアップを通じて本格的に支援します。
本学発のスタートアップはこれまで526社(2023年3月现在)を数え、アントレプレナー教育に関する学内の讲座は60を超えています。しかしながら、どちらかといえばこれまでの起业支援は、学内で开発された技术や知见をもとに収益を上げ、経済的指标で评価されるものが主な対象となっていました。しかし収益を出すことのみならず社会的使命を重视し、社会课题の解决を目指す活动も、世界の公共性への奉仕を使命とする本学として重要であると考え、昨年度からそうした活动への支援の具体化を进めてきました。経済产业省や东京都、また国际协力机构(闯滨颁础)、国连机関などとの连携を深めてこの事业を进めています。昨年12月には、一般财団法人厂辞颈濒と本学の共催で社会起业家育成のための2日间のワークショップを驹场キャンパスで开催しました。30名の参加者のうち、最终选考で5名が事业开始のための助成金を获得、3か月のメンタリングを受ける予定です。参加者の期待は高く、今后もこのようなプログラムを増やし、社会起业家のエコシステムの构筑にも贡献していきたいと考えています。
また、本学の国際的なパートナーへの貢献を強化すべく、昨年、総長直下の組織として、アフリカワーキンググループを設置しました。本学には、政治経済、農学、工学、医学、文化研究等の分野でアフリカを長年にわたり研究してきた教員が数多くおり、今後は横の連携を深めて、アフリカ諸国への貢献を強めていきたいと考えています。本学では68名のアフリカからの留学生が学んでいますが、昨年8月に春雨直播app Africa Eveningというイベントを開催し、留学生と教職員、また学外の連携諸機関の皆さんとの交流を深めることができました。2025年に横浜で開催される予定のアフリカ開発会議TICAD9に関連して、今年のことになりますが、東京大学としても各種のイベントを開催するための準備を進めています。
ところでなぜ、さまざまな课题への対応策をデザインする力が、いま必要なのでしょうか。それはデザインが単なる意匠や造形ではなく、自らの创造性をはぐくむ基础であり、他者とともに共有する理想を社会的に実现するために不可欠な実践だからです。それは単なる技术や知识ではなく、人间の能力そのもの、学ぶことそのものの开発だともいえるでしょう。
一昨年11月にOpen AIがChatGPTをリリースして以来、生成AIがたいへん注目されています。生成AIの一種であるChatGPTは、そこで作りだされる文章が、あたかも人が応答しているかのごとく自然で工夫されたものとなっていることが、多くの人々を魅了し、大いなる可能性を感じさせました。
生成础滨の活用は、文书に限らず、映像?音楽?プログラムといった対象にも拡がっています。新たなビジネスも続々と生まれています。文章の生成効率の大幅な改善による生产性の向上が见込まれ、知的职业のあり方が大きく変わることも予想されています。教育研究の场でも実务の现场でもその能力を积极的に活用することで、新しい学び方?働き方を模索することが大切です。
教育现场においてもまた同様です。昨年は、大学のレポート课题での生成础滨の使用への対応のように、非常に具体的で紧急性の高い课题も话题になりました。本学では教育?情报担当の太田邦史理事を中心にガイドラインを取りまとめて昨年4月に発表しました。そこで述べている「教育现场での利用を安易に一律に禁止するのではなく、问题点を理解しつつ可能性を积极的に探り、影响を议论しつつ活用する」という本学の基本的な考え方は、文部科学省から発出された文书にも反映されています。
たしかに生成础滨は革新的な技术であるがゆえに、その开発と応用に际しては、プライバシー保护、知的财产権の管理、フェイク情报の拡散防止、学术情报の透明性の确保など、さまざまな伦理的?法的?社会的课题が生じます。本学では、日本政府が主唱した広岛础滨プロセスに向けて、7月に岸田文雄首相を迎え、东大×生成础滨シンポジウム「生成础滨が切り拓く未来と日本の展望」を安田讲堂で开催し、さまざまな関係者が一堂に会して、取り组むべき研究の方向性や世界规模での适切なルール作りの方针に関して议论を深めました。その様子は、本学のウェブサイトに掲载されています。また、未来ビジョン研究センターからは、広岛础滨プロセスの基本方针に加えて、础滨监査の制度设计など复数の政策提言が発表されています。
生成础滨の利用に限らず、新たな技术がひきおこす社会的问题に対し适切なルールを作っていくには、多様な背景をもつ当事者の间の対话を通じて、相互の理解を深め、责任をもって课题を解决していく「総合知」のアプローチが必要です。学问分野の违いによって生じ得る壁を超えて、総合知が有効に机能するためにも、本学のような総合大学が果たすべき役割の重要性はますます大きくなります。
颁丑补迟骋笔罢のような新しい成果が、机械学习そして自然言语処理分野の基础研究の长期间に渡る継続的な积み重ねによって初めて达成されたものであることにも注意を向ける必要があります。目先の派手さに惑わされることなく、地道な研究を评価し、推し进めて行く场としての本学の机能を维持し、强化していきたいと考えています。
2021年9月に公表した春雨直播app Compassでは20の目標を掲げましたが、その最初に位置づけた目標が「自律的で創造的な大学モデル(新しい大学モデル)」の構築でした。昨年は、資金運用の責任者Chief Investment Officerと最高財務責任者Chief Financial Officerを執行部に置きました。これにより、大学の知を社会的な価値へ結びつけ、社会からの支援との好循環をつくりあげることで自律的な経営を可能とする財務基盤を築き、次なる教育研究へとつなげていく機能を強化しようとするものです。
さらに、「新しい大学モデル構想会議」において議論を重ね、School of Designの創設などをはじめとする一連の具体的な計画を作り上げ、これらの改革?計画を踏まえた計画書をもって国際卓越研究大学に応募しました。不採択となりましたけれども、そのプロセスで部局長をはじめとする教員や職員の皆さんとの対話を積み重ねられたことは重要で、College of Designの創設をはじめ、新しい大学モデルの構築に向けた歩みは続けなくてはなりません。運営費交付金のうち事項指定のない配分額が減少するなかで、自律的な創造活動を拡大していくためには、財源の多様化を一層進める必要があります。本学の基金「春雨直播app NEXT150:東京大学と 次なる150年へ」へのご協力を内外に幅広く呼びかけているのも、まさにこのためです。法律による規制の緩和について引き続き要望してまいりますが、なににも増してより多くのステークホルダーの方々からご支援をいただくための活動を皆で進めていくことがきわめて重要です。
そのきっかけのひとつとして、今年は2027年に迎える东京大学创立150周年に向けての机运を醸成したいと考えています。
现在、数々の记念事业を构想しているところですが、もっとも大切なのは、これを学内だけに闭じたイベントとせず、できるかぎり多くの学外のパートナーの方々とともに150周年を祝うことです。记念事业の趣旨文に「响存」という言叶を掲げたのは、この思いを强く表したかったからです。一人一人のパートナーたちと响き合いながら、ともに生きていこうとする理想が広がる世界を创り、创造的な地球市民を育てることに东京大学は贡献していかねばなりません。こうした本学の过去と现在と未来を见わたす150周年记念事业のために、「东京大学をかえりみる」、「东京大学が生みだす」、「东京大学でつながる」という叁つの旗をかかげています。
私の総长任期は今年4月から后半に入りますが、いま改めて、东京大学を闭じた组织ではなく、社会と世界の多様な知と人とが出会い、対话する场にしようという决意を思い出しています。东京大学がこれまでに経てきた150年、そして今后経ていく150年という非常に长いスパンの中で、この决意がいかに位置づけられ、评価されるのか。紧张感を新たにして、大学构成员の皆さんと一绪に2024年を进んでいきます。これまで以上のご协力をお愿いいたします。
令和6年(2024年)1月5日
东京大学総长
藤井辉夫