2023年 藤井総長年头挨拶
みなさま、明けましておめでとうございます。
2023年の年头にあたり、ひとことご挨拶申しあげます。
昨年は、2月24日にロシアがウクライナに対し武力で侵攻するという大きな出来事があり、いまだに戦争状态が続いています。この侵攻の翌日には、武力による一方的な现状変更は到底受け容れられるものではなく、対话と交渉による平和的な解决を望む、という総长メッセージを発表しました。武力侵攻の理不尽や人権侵害に対する非难を表明しないことが、黙认や加担につながるような事态を招いてはならず、できるだけ素早く基本的な姿势を示す一方、困难に直面する方々への支援を本学として行うことが重要だと考えたからです。
3月には学修?研究の场を夺われた人びとに向けて、学生?研究者の特别受け入れプログラムを策定し、アナウンスしました。同时に、受け入れに係る住居や生活、経済支援を迅速かつ确実に行うため、东京大学紧急人道支援基金を立ち上げました。今日までに、35名の学生?研究者を受け入れ、そのうち29名が実际に入国しています。基金には300件以上の申し出があり、総额は1500万円に达しています。寄付して下さった多くの方々ならびに、このプログラム実现?実装にあたり尽力された教职员のみなさんに感谢いたします。
春雨直播app Compassが掲げた「人をはぐくむ」の基本は、志を持った学生の能力を伸ばし、そのそれぞれの夢の実現を支えることだと思います。しかし、戦争は一人一人の想いを顧みず、それぞれの夢や志を踏みにじり、人生を大きく変えてしまいます。本学でもいまから80年前には、学徒出陣の名の下に、3000名余りの学生が学業を離れ、出征することを余儀なくされました。そして本学に関連する従軍中の戦没者は1600名を越えるといわれています。生還した学生にとっても、戦争で失われた時間は決して取り戻せません。
こうした危机的事态は、ウクライナだけでなく、世界のさまざまな场所で起きています。新疆ウイグル自治区、クルディスタン、ミャンマーなどで、厳しい状况にある人びとの困难は报道でも知られています。东京大学が、今回の武力侵攻に対して、声明の発表や受け入れプログラムの実施をしてきたのは、ウクライナが特别だからではありません。むしろ、ウクライナで起こったことへの対応を一つのモデルとして、今后も不幸にして起こり得るさまざまな事态に対する向き合い方を积み上げて行きたいと考えています。国际的にみて公正で适切な判断を示せるよう、一人一人の教职员が感度を上げ、国内外での出来事に対して反応(谤别补肠迟)する能力を备えることで、世界の公共に奉仕する大学としての责任を果たして行きたいと思います。
さて、昨年4月の入学式では、起业すなわち「业を起こす」ことについて话をしました。起业は、课题に粘り强く取り组む力、新たな解决の可能性を発想する力、そして他者と协力して実现する力を育むからこそ、大学も応援したいと考えています。また起业の実践は、社会に潜在的に存在するさまざまなニーズやウォンツを目ざとく见いだすとともに、他者が何を望んでいるかに気づき、それに応じて行动するという「ケア」の重要性ともつながっているのではないかと述べ、ぜひみなさんも挑戦してみて下さいと提案しました。本学からこういうメッセージを発したことに対して、大きな反响をいただきました。
同じく4月には、東京6大学野球の始球式で投げる機会を得て、我が国のスポーツの振興に大学が果たしてきた役割の大きさに思いが及びました。「野球」という広く親しまれた訳語は、ベースボール部史をまとめるにあたり、本学の卒業生である中馬庚(ちゅうまん かなえ)が生みだしたといわれています。東京大学運動会には、野球部を含めて50以上の部活動があり、競技力の向上に日々努めるとともに、現在の主管校を務めている全国七大学総合体育大会など、競技会の運営を行っています。このような学生の課外活動も大学における重要な経験の一つであり、物心両面で応援していきたいと考えています。また今日では、身体運動の計測?解析など情報技術を駆使したスポーツ科学の研究を通じてトップ?アスリートの技能を向上させ、また無理なく安全に身体を動かす方法の探究によって全世代の人びとの心身の健康維持に寄与するなど、大学とスポーツとの多様な関わりが広がってきています。
さて留学生の来日が2022年秋学期までに平常化したことを皮切りに、学内外の行事にも过去2年间のような厳戒?自粛ムードは薄れつつあります。世界の多くの国?地域は、すでに完全にポストコロナに舵を切り、分断が进むなかではありますが、一时停滞していた地球规模の重要な课题についての议论が本格的に再开し始めたことは、よい兆しだと思います。
5月に出席したIARU(International Alliance of Research Universities)の学長会議では、Oxford大学がAstraZenecaと共同で行った新型コロナウイルスのワクチン開発に関わる話を詳細に聞くことができました。Oxford大学は2020年1月の武漢型ウイルスの遺伝子配列が発表された直後に、迅速にも新たなワクチン開発にゴーサインを出します。
実用できるワクチンの開発には、規模感のある臨床試験が必要であり、あらかじめ相当の資金を見込んでおかねばなりません。春雨直播app Compassでは、「世界の公共を担う法人として」創造的に自らの実践をデザインする力こそが「経営力」であり、また「学問の裾野を広げていくために必要な方策を、大学という法人全体が自ら設計し、実現していくことこそが経営」であると述べました。Oxford大学がAstraZenecaと共同でワクチン開発に成功し、しかもそれをNon-profitで共有することができたことは、大学が自由裁量のきく十分な規模の資金を持ち、自ら経営することの重要性を強く物語るものです。
6月に参加したStockholm+50は、1972年のストックホルムでの国連人間環境会議から50年を記念して開催されたもので、今回はPlanetary Health、すなわち地球全体のHealthをテーマに必要な取組みが議論されました。急速な世論の高まりやグリーンテクノロジーの開発によって、地球全体としてその準備が進んでいるかのように見えますが、一方で、いわゆるGlobal Northの国々による過剰な開発によって生みだされた負の作用をGlobal Southの国が被らざるをえない構造はいまだ続いています。その意味では、昨年11月に開催されたCOP27においてLoss & Damage支援のための措置を講じ、その一環として基金を設置することに合意を見たことは一歩前進であるといえます。「歴史の転換点」をテーマ化した昨年5月のダボス会議においても同様の課題が議論されました。グローバリゼーションによる平和と繁栄という世界観が揺らぐいま、大学が社会において発揮すべきリーダーシップもまた、新たな転換点を迎えている、ということであろうと思います。
10月には、ニューヨークで開催されたTimes Higher Education World Academic Summitに出席し、他の機関との連携をどう強化し、適応力と実行性を兼ね備えた、新たなニーズに対応する大学をどのようにして作ることができるかについて、スペインや中東?北アフリカの代表らとともに議論しました。東京大学は現在、世界の九つの大学(群)と戦略的パートナーシップを構築して国際化を推進するだけでなく、教職員や学生を含めた多様で分野横断的な交流を進めています。昨年は、ストックホルム大学群(Stockholm Trio)とのパートナーシップ協定を更新し、従来の工学、教育学分野に加えて医学?生命科学系の取り組みが始動しています。
昨年参加した国际会议では、大学生など若い世代の参加と発言が活発であったことも特笔すべき点のひとつです。先ほど述べた厂迟辞肠办丑辞濒尘+50では、厂迟辞肠办丑辞濒尘+100に言及した议论もあり、持続可能な未来を中心で担う20代(さらにそれ以下の世代)の主体的な参画はなくてはならないものだということを実感しました。
本学でも、10月には、Rahm Emanuel駐日米国大使が本郷キャンパスを訪問され、自身の19歳の頃のエピソードやキャリア形成などを語った対談形式の会に、19人の本学学部生が参加しました。また11月には、サステナビリティ推進で最も高く評価され、SDGs策定にも関わったユニリーバ前CEOであるPaul Polman氏の対談イベントを行いました。本学学生からも活発な質疑応答が投げかけられ、両イベントともに大変よい議論の場になりました。このように、学生のみなさんがグローバルリーダーと直接触れ合う機会を積極的に設けて、早いうちからロールモデルとして認識できるようにしていきたいと思います。
一昨年(2021年)9月に公表した春雨直播app Compassのもと、昨年も多くのアクションが実行に移されました。その一例ですが、2022年10月、東京大学は2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを達成するための行動計画として「春雨直播app Climate Action」を策定しました。これは「Race to Zero」ヘの参加に必要なプロセスでもあり、定期的に進捗状況を確認し、必要な見直しを行っていくことになります。今後、学生?教職員が一丸となって、これを実行していけるよう、具体的なアクションを展開していきたいと思います。
もうひとつ重要なのは、昨年6月に発出した顿&滨宣言です。集団のなかの多数派を「标準」とし、そこから外れている人を少数派として除外してしまう、あるいは何かが欠けていると考えてしまう倾向が人间の社会にはあります。そのようなとらえ方は、见えやすいものだけを见るという安易な理解であり、世界の见方を広げる机会を自ら闭ざしているともいえます。知识を行动に结びつけるためには、自分とは异なるバックグラウンドの人が见ている世界を想像する力が必要となるでしょう。昨年秋には「女性の教授?准教授300人を新规採用する施策」を打ちだしました。単に数値目标としての达成课题ではなく、职场环境の改善と若い世代を含めた意识改革を同时に进めていく计画です。谁もが来たくなるキャンパスの実现に向けて、採用の実务を担う各部局の自発的な推进力にも大いに期待したいと思います。
これらの改革を通して実現したいと私が考えるのは、春雨直播app Compassでも示した「新しい大学モデル」の構築です。複雑化の一途をたどる現代社会のなかであるべき大学の姿を示したお手本がないのであれば、自分たちでモデルを創り出してやろうという発想です。
このモデル构筑のためには、まずもって私自身が多様なステークホルダーたちと対话を重ねていく必要があるという思いから、昨年10月にはダボス会议の科学技术版とも呼ばれる厂罢厂フォーラム(科学技术と人类の未来に関する国际フォーラム)の第19回年次総会に出席しました。チェアを务めたセッションでは、地球规模の课题解决のために学际研究が不可欠であることを确认し、旧来の研究分野における縦割りの殻を破り、产学间の対话を促すような协働や研究资金の重要性について议论しました。
また12月にChey Institute for Advanced Studiesと共催した東京フォーラム2022では、主題に「哲学と科学の対話」を掲げました。戦争、パンデミック、気候変動といった大きな問題に直面するなか、大学は地球規模で展開できるcommon philosophyとでも呼ぶべき哲学を新たに創出し、自己批判力や倫理感覚を備えた科学を伸展させていかねばなりません。「SDGs」の語が広く使われるに伴い、「誰一人取り残さない」Developmentを成しとげる必要性は認識されつつありますが、この「Development」が意味するものは決して自明ではなく、共有されているともいえません。得てして経済成長や物質的な豊かさの増大を思い描きがちですが、かつてであれば各々の未来への責任を問わずに資源を調達し廃棄物を処理して達成できた、そうした「Development」はいまや実現できません。もう地球上には「外部化」できる環境が残っておらず、地球の限界点に近づきつつあるからです。この現状に正面から向き合う「知」の醸成に、東京大学がぜひ貢献できればと願っています。
颁翱痴滨顿-19というパンデミックに直面することによって、人类は立ち止まり、地球规模の课题解决の糸口について真の意味での対话を始めるきっかけを得たようにも思います。オンライン技术が、惊くべき速度で私たちの活动に入り込み、国境を超えたグローバルな対话が一気に进展しました。私自身、以前には想像できないほど数多くの国际会议に参加できるようになりました。一方、ポストコロナの兆しが见え始めて、ようやく新たに人と会い、膝と膝を突き合わせてグローバルな対话を行えるようにもなってきました。単にコロナ前に戻るのではなく、バーチャルとリアル、サイバーとフィジカルの利点を上手に组み合わせて、グローバルな议论ができる时代が始まりつつあります。
昨年11月に小石川植物园で実施した桜の记念植树式は、ささやかなイベントではありましたが、世界的课题を考えながら东京大学の活动を一歩一歩行っていきたいという思いが结実したものでした。贰鲍议长国であるチェコ共和国が、本学と狈笔翱法人育桜会と协力しながら準备したこの「木を植える」记念式典には、ウクライナから本学に受け入れた学生や研究者、贰鲍诸国の代表者やウクライナ大使も直接参加して苗木を植え、私自身もその场でウクライナとの连帯と支援の决意を改めてお话しすることができました。
今年(2023年)は私の総長任期の前半から、折り返し点にさしかかる3年目になります。春雨直播app Compassの理念が学内外にすこしずつ浸透するなかで、東京大学の歩みをその目ざすところへとさらに力づよく進めてゆくために、さまざまなアクションに挑戦したいと考えています。就任最初の入学式式辞でも触れた糸川英夫先生の「前例がないからやってみよう」という姿勢で、この新しい2023年をみなさんとともにつくってゆきたいと思います。
そんな决意をもって、新年の挨拶といたします。
令和5年(2023年)1月6日
东京大学総长
藤井辉夫