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新旧総長対談「変革を駆动する大学」 | 広報誌「淡青」35号より

掲载日:2017年9月28日

実施日: 2017年09月08日

変革を駆动する大学
 
法人化、产学协创、少子高齢化からデータ活用型社会まで――
共通点の多い二人の総长が语る大学改革论
五神 真 30代総长(2015~)  × 有马朗人 24代総长(1989~1993)
                           武蔵学园学园长
  

24代総長として、研究?教育環境の改善をはじめとする改革を進め、文部大臣として国立大学法人化に携わった経験もお持ちの有马朗人先生。
30代総長として、東大を「知の協創の世界拠点」にしようと決意し、この4月には『変革を駆动する大学』と題する著書を上梓した五神真先生。
私立武蔵高校出身、理学部物理学科出身、理学部长経験者と共通点が多く、「変革を駆动した総长」と「変革を駆动する総长」でもある二人が、大学改革のこれまでと现在、そしてこれからについて语り合いました。
(対談司会:白波瀬佐和子広报室長/人文社会系研究科教授)



白波瀬 有马先生、五神総長の著書『変革を駆动する大学』はいかがでしたか。

有马&苍产蝉辫;一読し、感心しました。私の顷は现役の総长が本を书くことはありませんでしたし、総长として目标を明确に示す机会も多くなかったので、それをやってくれたのがまずうれしいですね。法人化のいい面の一つかなとも思いました。

五神&苍产蝉辫;ありがとうございます。

白波瀬 さて、有马先生は総長時代に大学院重点化を進め、文部大臣時代には国立大学の法人化を進められましたね。

有马 ええ。私は総长になる前、森亘総长の时代に特别补佐を务めたんですが、当时の一番の心配は大学の施设や设备がぼろぼろだったことです。研究室が狭かったり、ガラスが割れていたり、安田讲堂も壊れたままでしたね。なんとかして施设费や研究费を増やさないといけない状况でした。そこで始めた改革が大学院の重点化です。学部中心の运営よりも予算の総额を増やせると考えたんです。もう一つ考えたのは产学协同です。まずは寄付讲座をと思い、委员会の座长を务めました。その际に苦労したのは强い反対があったことです。大学の自主性が损なわれる、と评议会※1の场で声が上がり、私の説明が制されるほどでした。当时のことはいまも鲜明に覚えています。大学院重点化にも反対はありました。现在では両方とも当たり前であることを思うと、今昔の感あり、です。

五神 产业界との连携が学问の自由を夺うのではないかという悬念は、30~40年前ならあっておかしくないですね。当时はまだ产业界と大学はそれぞれ别の役割があると思っていたはずですから。でも现在は両者が别个に议论している场合ではない、と感じます。大学と产业界が活动の重なりを深めて社会全体を大きく変えなければいけません。それは実は学问の自由を守るためにも不可欠なことです。

有马 まさにそう思います。

五神 产业のグローバル化、资本の国际化が进み、日本公司の経営者も困惑しているように见えます。昭和の终わりに5%程度だった外国法人等による株式保有率は现在30%以上です。株主の圧力が强くなり、日本公司が伝统としてきた自前主义がうまく机能しなくなっています。ならば大学の出番だ、いっしょにやろう、という流れでの「产学协创」ですから、大学の自由度が夺われる心配は不要です。何をするかゼロベースでともに考えるのが产学协创。その前提を共有する人は产と学の両方で増えているように思います。今回の着书もその共有を拡げたくて书いたんです。

有马 私は、寄付讲座は出発点だと思っていました。それを端绪に产业界と交流を始めようという思いでした。现在はもっと本质的な协力体制に入ったわけですね。大変よいことです。

五神 社会をよりよくしようと事业に取り组む経営者と多様な时间轴を持った活动を行う大学との信頼ある连携は、社会を変革する駆动力になると信じています。

白波瀬 そういうことができる人材をつくるのが大学だとすると、若手研究者の雇用という问题が避けられませんね。

五神 若い人が学问に人生を赌けたいと思える雰囲気を醸成しないといけません。短期的な成果や任期を気にせずのびのび研究に打ち込める场所を守らないといけない。しかし、法人化后はそこが痛んでしまいました。40歳未満の任期なし教员数は、2006年に903人いたのが2016年には383人です。30代で仕込んだことが40~50代で独自の研究として开花し、大きな新しい学问をつくるはずなのですが、そのチャンスが失われています。いま求められるのは、大学が运営でなく経営をすること。経営とは何かというと、长期的な视点を持って先行投资をすることです。运営费交付金※2は减りましたが、东大全体のスケールメリットを生かすことができれば、任期なしの雇用を増やすことはできます。そのための仕组みを総长就任后に动かし始め、この1年で89人のポストを回復させました。减った分を戻す作业は、将来を见すえて人に投资し、新しい学问をつくる好机でもあると思います。

有马 文部大臣になって最初に扱ったのが大学法人化でしたから、この问题はずっと心配していました。私は法人化された世界の大学の事例を调べ、そうした大学の运営には自由があってよいと知り、法人化を进める判断を下しました。その际の一番の悬念は运営费交付金が减ることでした。大臣を退いた后、议员として法律を通す际には、教育?研究费を减らさないという付帯条件をつけたんです。しかし、现実はご承知のとおりです。さて、私には十分できなかったが五神総长にはできたこととして浮かぶのが、ベンチャー公司です。総长の次に理化学研究所の理事长になり、そこで言ったのは「大河内精神を復活せよ」でした。大河内正敏先生は理化学研究所理事长として自ら稼ぐことを奨励し、ビタミン础の大量生产とか、复写机の开発とか、様々なベンチャー公司を世に出し、稼いだお金を研究费に回していました。それを踏まえて言ったのですが、私の时代には少ししか物にならなかった。东大ではもう200以上もあるんでしたかね。

五神 はい、东大発のベンチャー公司は现在280以上あります。

有马 何が総合大学のよさかといえば、あらゆる分野の専门家がいて幅広い知恵を使えることです。総合大学の强さを活かしたベンチャー育成こそ、知恵のある大学のやることだなと感じます。

白波瀬 実は、ベンチャーの话が出ると、文系の研究者としては少し取り残されるような気持ちになってしまいます。

五神 社会の変化が激しいなかで次の価値创造を考えるなら、大きなタイムスケール感を持っていないと难しい。その意味で、実は文系の価値は非常に大きいんです。东大の强みの一つは创立前からの日本の文化资产を引き継いでいること。そのバトンを预かった多くは文系だと思います。明治时代、西洋文化を取り入れるだけでなく、江戸时代の制度と擦り合わせながら日本独自の形に高めていました。その知恵はいま必要な新しい社会システムづくりに通じるものです。社会に新しいテクノロジーを活用する场面では、现在の仕组みについての深い理解が前提で、文と理の协働は絶対に必要です。実际、东大発ベンチャーを见ると、文と理の连携がうまくいっているところは高い価値を创造できているようです。

有马 大学の使命は人间の文化を伸ばすことだと思います。たとえば础滨研究を进めるなら、言语の本质をわかった上でないと难しい。文系が长い时间轴のなかで培ってきた言语学研究を踏まえないといけないでしょう。経済现象もそう。文学もそう。私が特に期待するのは、宗教间の争いについてです。これは文系がきちんと调べて社会に知らせるべきです。社会构造や経済体制の违いもそう。たとえば厂顿骋蝉※3は温暖化だけの话ではなく、人间が今后どう生きるかの问题で、理系だけでがんばっても难しい。文系が奋起しないといけませんよ。

白波瀬 はい。文系への激励と受け止めて、次の話題に移らせていただきます。有马先生といえば、教員の外部評価を進めた総長としても知られていますね。

有马 大学は説明责任を果たさないといけません。国民の税金を使って、これだけ仕事してこれだけ価値を提供しています、とね。自己笔搁だけではだめで、外の目で客観的に评価してもらうことが必要です。外部评価の话でいえば、东大で率先して导入したのは文学部でしたよ。いかに素晴らしい研究なのかを自分で诉えても伝わりません。外の目で言ってもらうことに意味があります。外部评価を怖がる必要はありません。むしろ外の人のほうが、自分で気づかないよさまで教えてくれるはずです。

五神 その前提として、评価は専门家として自分たちで责任を持って行わなければなりません。たとえば论文引用数は一つの切り口にすぎません。次の学问を託す人を选ぶときには、あらゆる手を使って多様な観点から选ばないといけない。たとえば、「论文数は少ないが、一番すごい発想を持っているから将来性を见込んで採用する」などと説明する场合もありうるでしょう。自分たちの仲间をどう选ぶかの场面で手を抜いはいけない。学生の教育と同じくらいそれは重要だと思います。

白波瀬 现场の话が出ました。东大だからこそ地域の现场に贡献できることというとなんでしょうか。

五神 高度経済成长の过程で地方と都市の格差が际立って进んだのが日本の一つの特徴ですが、これは修正しなければなりません。それは人类全体にとって役立つモデルの提示につながる。そのためには、东大と地方自治体が连携した取组みを进めることが一つの契机になると考えています。今年を开始しました。学生が地方に入って地域の课题に向き合うというものです。学生たちには、たとえば地域で暮らす多くの高齢者を元気づけるような活动を期待しています。

白波瀬 有马先生も高齢者の活用はよく言及されますね。でも若い人とポストを取り合うことになりませんか?

五神 若い研究者は未来の学术のための资产です。彼らが大きな构想でリスキーな研究に挑戦できる环境をつくる一方で、学生のケアや入试の业务といった研究以外の部分をシニアの先生が分担してくれる仕组みをつくるのがよいと思います。たとえば、退职した先生が教科书を书いて次世代にバトンを渡すのは非常に重要な作业です。现役时代の蓄积を社会に伝える作业をし、现役をサポートしてもらう。全年代が活跃するモデルを东大が提示できれば、働き方改革の见本になるでしょう。

有马 私は高齢者をどんどん使えと言っています。体が动く限り仕事させろ、ただし给料は最小限でよい、减らした部分は若手にまわせ、とね。それから、高齢者は长にせずに顾问として雇え、です。学部长や课长といったポストを与えると老害を招く可能性がありますから。得意なことを自由にやらせて、电车赁と弁当代くらい出してあげれば十分です。もう一つ言いたいのは、日本は少子高齢化を念头に置いて高等教育を充実させるべきだということです。人口が减る分だけ高等教育のレベルを上げるべき。大学には若者をより能力のある状态に高めていただきたい。それから、一度人口が减りながら戦后に復活した国々の人口対策について、文学部や医学部の先生の力でよく考えていただきたい。日本の将来を考える际に重要だと思うからです。

五神 実は、指定国立大学※4の申请で提案したのはまさにそこです。未来社会协创推进本部を新设し、厂顿骋蝉を踏まえて健康长寿社会の実现に向けた取组みを掲げました。具体的アクションを打ち出すためにオール东大で取り组み始めたところです。

白波瀬 図らずも有马先生がうまく話をつなげてくださいましたね。

有马 あともう一つだけお愿いです。たとえば、70歳になったらどんなものを食べたらいいのか、どれだけ运动したらいいのか。80歳ではどうか、90歳ではどうか。このあたり、実は全然指针がないので、东大のスポーツ先端科学研究拠点※5の皆さんに、年齢ごとの指针を打ち出していただきたい。人によるでしょうが、経験法则はあるはずです。

五神 いいヒントをいただきました。今後の世界のパラダイムシフトの肝となるのはデータ活用型社会だと思います。従来の大量生産型の成長モデルは終わりを告げ、今後はICTなどの技術を活用することで個の特性に合わせた製品やサービスが簡単に提供できるようになる。有马先生用に今週はこれを食べて来週はあれを食べて、などとカスタマイズした健康アドバイスを提供すれば、喜んでもらえますよね?

有马 そうですね(笑)。

五神 私はいま、腕にセンサー机器をつけています。歩数、心拍数、睡眠の质まで自动测定できるものです。データ活用型社会を実感しようと思いまして。つけてみて、一番役に立つのは睡眠の情报です。时间だけでなく、眠りの深さ、何回途中で目が覚めたかもわかります。今週は睡眠の质が悪かったから土日は休もう、などと健康管理に役立てています。

有马 歩数计は私も使っていますよ。东大総长时代の1992年10月から使い続けています。70歳までは一日1.5万歩、その后1.2万歩にして、最近は1万歩です。医者には多すぎと言われるけど、実际は何歩がいいのかわからないですね。

五神 文部大臣时代に毎日1万歩というのはかなり难しくなかったですか?

有马 昼休みに皇居を一周するんです。警备の人が逐一随行するのがかわいそうでしたが、実はその人の健康にも役立ったんじゃないかな(笑)。とにかく、东大版の健康の指针を出したらいい。多くの利用者のデータをきちんと解析すれば社会のためになるはずです。

五神 それこそまさに私のデータ活用型社会のイメージです。

有马 五神総长はよくがんばっていると感心していますよ。私も物理教室の出身ですが、理论屋だからか屁理屈で终わってしまうことが多い。でも五神総长はきちんと実行もしますね。実験をやる人だったからかな。私を他山の石としてしっかりやってくれてありがとう。私は総长时代に倒れて、それで歩くようになりました。くれぐれも体には気をつけて。

五神 はい、肝に铭じます。
(2017年7月24日、安田讲堂特别会议室にて対谈)

※1 評議会 東京大学評議会。東京大学の最上位の意志決定機関。総長、理事?副学長、研究科長、附置研究所長及び評議員などからなっていた。
※2 運営費交付金 国が国立大学法人に対して負託した業務を運営するために交付するお金。国立大学に対する運営費交付金は年々減り続けている(平成26年度からは下げ止まり傾向にある)。
※3 SDGs 2030年までに世界中の人々が解決すべき目標として国連が設定した「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals)。飢餓ゼロ、ジェンダー平等、気候変動対策など17の目標と169の達成基準が記されている。
※4 指定国立大学 教育研究水準の向上とイノベーション創出を図るために文部科学省が始めた制度。東京大学は、東北大学、京都大学とともに、2017年6月に指定国立大学となった。
※5 2016年5月に设置された东京大学の新しい全学组织。全学から16の研究科や研究所が参加し、スポーツ?健康科学に関连した分野横断的な研究を推进している。

Makoto Gonokami
1957年生まれ。东京都出身。私立武蔵高校を経て、1980年本学理学部物理学科卒业。1983年本学理学部助手。1985年理学博士(本学)。1988年本学工学部讲师。1990年本学工学部助教授。1995年本学工学系研究科助教授。1998年本学工学系研究科教授。2005年本学総长特任补佐。2010年本学理学系研究科教授。2012年本学副学长。2014年本学理学系研究科长?理学部长。2015年4月より総长。専门は光量子物理学。着书に『』(东京大学出版会)。

Akito Arima
1930年生まれ。大阪府出身。私立武蔵高校を経て、1953年本学理学部物理学科卒业。1958年理学博士(本学)。1975年本学理学部教授、1989年本学総长。1993年理化学研究所理事长。1995年中央教育审议会会长、1998年参议院议员?文部大臣、1999年科学技术庁长官。财団法人日本科学技术振兴财団会长などを経て、2006年より学校法人根津育英会武蔵学园长(现职)。2010年文化勲章受章。専门は原子核物理学。日本を代表する俳人としても活跃中。近着に『』(春秋社)。
 
 

写真:貝塚 純一


※本记事は広报誌「淡青」35号の记事から抜粋して掲载しています。笔顿贵版はをご覧ください。

 


 
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