Studies in Islamic Intellectual History Knowledge and Power in Muslim Societies Approaches in Intellectual History
この论文集は、ムスリム诸社会における知の営みの歴史を、権力との相互関係という问题に目配りしながら议论する。所収论文は、8世纪から21世纪まで、西はモロッコから东は日本までと幅広くさまざまな场に取材しており、テーマ的にもまた多様である。では、この本には一册の本としてのまとまった意味はないのだろうか。もちろんそんなことはない。以下、その弁明も兼ねて、この本がどういう研究上の文脉でいかなる狙いをもって生まれたものであるかを记したい。
知の営みの歴史研究という枠組は、昨今の世界のイスラーム研究において一つの大きな流れとなっている。その一つの背景として、イスラーム研究が、全くの他者としてのイスラーム (ここでは文明や文明世界といった含意で用いる) を理解するためにそれを特徴づける宗教、思想、歴史などを研究する西洋の学問としての性格を弱め、さまざまな立場の研究者が個々の対象の営みをより共感的に研究する学問へと姿を変えてきたことが挙げられる。
世界のイスラーム研究の一部をなす日本のイスラーム研究においても知の営みの歴史研究が盛んになっている。ただ、その背景には独特な部分もある。西洋に対するコンプレックスを抱える日本では、イスラームへの関心は、西洋に挑戦しよう、あるいは西洋的なものの见方を相対化しよう、という志向と结びついて现れがちであり、それはまた、西洋の场合とは违ったイスラームの客体化と本质主义的理解を生みがちである。このような背景をもつ日本の场合、知の営みの歴史という枠组の広まりは、アジェンダ先行で始まった研究が积み重ねを通じて成熟し、个别事象の个性をより深く尊重するようになっていく过程と重なっていた。西洋の文脉ではイスラーム研究の脱植民地化?脱西洋中心主义化の方向性をもつ知の営みに関する歴史研究の広まりは、日本では、ある意味で逆の意味合いをもつことになる。
この論文集の企画は、イスラーム哲学を中心に知の営みに関する縦横無尽の研究を展開し、かつイスラーム研究の脱植民地化について盛んに発言しているエクセター大学のサッジャード?リズヴィーさん (この本の共編者) が、非西洋世界の一部と目す日本の研究者との対話に可能性を見出したところから始まった。その彼の共同研究の提案を私が受けたのには、西洋と日本の事情の違いを上記のように考えている者として、知の営みの歴史に関する日本の最新研究がリズヴィーさんの目にどう映るのかを見てみたいというひそかな関心も作用していた。
このようなわけで、この论文集は、日英それぞれの环境でなされつつある知の営みの歴史に関する研究の、最新の见本帐としての性格と意义をもつものとなっている。リズヴィーさんが研究の脱植民地化という観点から日本の研究をどう见たかはまだ讯いていない。しかし、彼の答えがどうであったとしても、急速に进みつつある日本のイスラーム研究の国际学界とのより紧密な接続に资する一册には、なかなかよい形ですることができのではないかと考えている次第である。
(紹介文執筆者: 东洋文化研究所 教授 森本 一夫 / 2023)
本の目次
Ian Richard Netton
Introduction: Diversifying the Intellectual History of Islam and Muslim Cultures
Sajjad Rizvi and Kazuo Morimoto
PHILOSOPHY
1 Three Portraits of a Philosopher in Islamic Cultures
Sajjad Rizvi
2 Philosophy for Politics: Ancient Greek Philosophy Echoed in Ibn al-Muqaffa?’s Writings
Istvan T. Kristo-Nagy
3 The Sorcerer Scholar: Sirāj al-Dīn al-Sakkākī between Grammar and Grimoire
Emily Selove and Mohammed Sanad
4 Knowledge for All: Zayn al-Dīn al-Kaššī (d. before 1228) on Philosophical Writing
Hisashi Obuchi
5 Cancelling the Apocalypse: Refracted Anticipation for the Awaited Mahdī in Sayyid Mu?ammad al-Musha?sha?’s Discourse
Tetsuro Sumida
SCHOLARLY PRODUCTION
6 Didactic Discourse and Sarcastic Expressions in the Context of Abū Hilāl al-?Askarī’s Literary Criticism
Mohammed Sanad
7 Writing the Imams’ Virtues under the Interconfessional Policy of al-Nā?ir li-Dīn Allāh: Ibn al-Bi?rīq al-?illī and His Fa?ā?il Works
Ryo Mizukami
8 A Ja?farid-Zaynabid Genealogy from Thirteenth-Century Egypt: ?鲍谤产ā苍 Uprising, Najafī Connection, and the Representation of the Twelve Imams
Kazuo Morimoto
9 ?Ilm al-Siyāq and Bureaucrats in Safavid Iran
Nobuaki Kondo
10 Ma Dexin’s Criticism of Saint Veneration: “Chinese”-Flavored Islam Formed by a Denominational Conflict
Tatsuya Nakanishi
THE MAKING OF THE MODERN
11 The Politics of the Bay?a Ceremony in Modern Morocco
Nozomi Shiratani
12 The Taw?ī诲 of the Painting of God the Mother
William Gallois
13 Teaching Iranian History: Narrative Style and Messages
Keiko Sakurai
14 Inscribing “God’s Words” in Japan: Connecting the Past to the Present through the Translations of the Qur?an
Emi Goto
Postscript
Shigeru Kamada
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