グローバル関係学 第4巻 纷争が変える国家
今日の世界が直面する深刻な「グローバルな危机」の一つとしての纷争。21世纪に入ってからも世界の各地で频発し続けている纷争は、そこで暮らす人びとの生命や财产はもちろんのこと、その基盘となる国家自体の动揺や崩壊をもたらしてきた。中央政府が机能不全に陥ることで、それに代わる非国家主体が台头したり、国家主体による外部介入を诱発するケースも少なくない。そのため、纷争は、当事国のみならず、周辺诸国や地域、さらには、国际社会にとっての安全保障上の问题となっている。
こうした状況において、紛争を経験した、ないしは経験している国家に対する対応として、「国家建設 (state building)」や「平和構築 (peace building)」の名の下で様々な政策が採られてきた。そこでは、ほとんどの場合、紛争前の国家の再生が目指され、中央政府によるガバナンスや国民としてのアイデンティティを「本来の姿」に取り戻すことが至上命題とされてきた。
しかし、纷争の帰趋を注意深く眺めてみると、こうした理念型としての国家とは异なる、経験的な国家が立ち现れるケースがあることに気が付く。军阀や武装势力による暴力を通した実効支配、民族や宗教に基づく分离独立の试み、纷争における戦局の胶着がもたらす国土の分裂など、理念型としての国家とは异なる姿の国家が诞生?存続することがある。
こうした国家を理念型からの「逸脱」であると批判することは容易い。だが、重要なのは、これらの国家が、统治机构や政治共同体の面で、あるいはその両方において、実际に机能してしまっている现実であろう。现行の国家における中央政府が机能不全を露呈したとき、さらには、国民としての意识が希薄化し统合が损なわれたとき、それらに代わるかたちや补うかたちで新たな国家が出现する状况である。だとすれば、理念型としての国家は、そこで暮らす人びとにとって経験的にはそれほど意味がなく、信頼や共感の対象ではなくなる可能性もある。
本书は、主要な纷争経験国を取りあげ、特に一般の人びとの认识というミクロ?レベルから、今日の世界における国家の多様なあり方を浮き彫りにしようとするものである。そして、その作业を通して、理念型としての国家の再生を前提とした画一的?単线的な政策――「国家建设」や「平和构筑」――のあり方を再考し、「グローバルな危机」としての纷争にどのように対応すべきなのか、新たな知见を导き出すことを目指すものである。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 教授 遠藤 貢 / 2022)
本の目次
I 纷争と国家変容
第1章 紛争下シリアにおける国家観の拡散――アサド政権の「勝利」を捉え直す……末近浩太
第2章 イエメン内戦における国家観の不在――ホーシー派支持者の意識と傾向……松本 弘
第3章 紛争下のリビアにおける国家観――「断片化」と統合の狭間で……小林 周
第4章 ソマリアにおける国家観の錯綜――プントランドでの認識を中心に……遠藤 貢
II 再建と国家変容
第5章 変容するイラクの国家観――紛争の影響をはかる……………山尾 大
第6章 紛争後のボスニアにおける国家観の相克――民族間の分断か、民族を超えた紐帯か……久保慶一
第7章 インドネシアにおける社会的分断と国家の脆弱性――迫害される少数派、侵食される民主主義……増原綾子、鷲田任邦、ミヤ ドゥイ ロスティカ
第8章 民主主義とミャンマー――紛争後の国家再建の行方……増原綾子、鷲田任邦、ウイン ウインアウン カイン
第9章 シエラレオネにおける国家を補完する人脈ネットワーク――エボラ危機 (二〇一四-二〇一六年) からの考察……岡野英之
関连情报
津田みわ (アジア経済研究所) 評 (『アフリカレポート』60巻 2022年2月26日)
足立研幾 評 (『立命館アジア?日本研究学術年報』Vol.2, pp.182-184. 2021年)
青木健 評 (『中東研究』第541号2021年Vol.1、p.98-101 2021年5月)
刊行记念イベント:
岩波叢書「グローバル関係学」シリーズ刊行開始記念Book Launch Series 2 「第4巻『纷争が変える国家』を語る 紛争下の人びとの多様な国家観を可視化する」総論 (グローバル関係学 | YouTube 2020年11月16日)