制度はいかに进化するか 技能形成の比较政治経済学
著者K. セーレンは、マサチューセッツ工科大学に所属し、国際的にも著名な政治学者である。本書が書かれた背景には、ゲーム理論などの適用に見られる政治学における数量的アプローチの台頭といった状況が存在した。セーレンは、それらの潮流に対し、現在制度が果たしている機能から制度の成立を説明する傾向があるとして批判的であり、制度の成立?存続?変容?解体といったプロセス全体を、それに関わる諸主体間の政治的争いという観点から把握しようとした。本書は、まさにこのような観点からドイツ、イギリス、アメリカ、日本において戦後高度経済成長期を支えることとなる職業教育制度 (特に企業内職業教育制度) が如何に成立してきたのかを描いた研究であり、比較政治経済学の古典とも位置づけられている。
本書で注目される主体は、具体的には、手工業親方、熟練工業労働者、熟練に依存する工業 (金属機械产业) の使用者及び国家である。それらの織り成す動態の中で、前工業化期の熟練養成制度が工業化過程の中で継承されていったのかどうか、工業化期を経て安定した企業内教育システムが形成されたのかどうかが問題とされる。安定した制度が形成されたのがドイツと日本であり、されなかったのがイギリスとアメリカになる。とはいえ、諸主体の歴史的性格やそこで働いた政治力学はそれぞれの国において大きく異なっていた。詳細は、本書を読んでいただければと思う。
一方、本书の课题はこれらの国における制度の成立を比较するのみではない。英?米?日の叁つの国については、19世纪末から戦间期までが时期的対象となっているが、ドイツについては20世纪末まで分析は及んでいる。それは长期的スパンの下に同じ国の制度の展开を辿ることにより、制度进化が如何に行われてきたのかをより明确に捉えることが目的となっている。それにより、ドイツにおいては、19世纪末より惊くほど长期にわたって同じ制度的枠组みが継続しているように见えるのであるが、それを支える主体、その戦略やそこにおける当该制度が占める位置、制度が果たす社会的机能などは、时间を通じて大きく変化してきたことが浮き彫りにされるのである。セーレンの议论の真骨顶は、谁が见ても変化する局面のみではなく、一见すると何の変化も起きていない状况の中に歴史的変化を読み取る、いわば制度の渐进的な変化を理论的射程に収めたことにあると思われる。
本书の背景には、経済学におけるゲーム论などの兴隆の政治学へのインパクトが存在した。本书が対象としている职业教育制度は、経済学や教育学の研究対象ともなってきた。本书が様々な専攻领域に所属する学生?院生に読まれ、将来学际的な议论や研究を生み出す一つの契机となれば幸いである。
(紹介文執筆者: 経済学研究科?経済学部 教授 石原 俊時 / 2022)
本の目次
第1章 比较と歴史の视点から见る技能の政治経済
第2章 ドイツにおける技能形成の进化について
第3章 イギリスでの技能形成の进化
第4章 日本とアメリカにおける技能形成の进化
第5章 ドイツにおける职业训练システムの进化と変化
第6章 结论
解説 (石原俊時)
あとがき (横山悦生)
関连情报
How Institutions Evolve: The Political Economy of Skills in Germany, Britain, the United States and Japan (Cambridge University Press刊 2004年)
著者: Kathleen Thelen
书评:
濱口桂一郎 評「四社四様の資本主義」 (労働新聞第 3375号7面 2022年11月7日)