内田祥哉は语る
定義によるかもしれないが、工学部で歴史の研究室があるのは建築学科だけらしい。私も建築学科を卒業したが、建築史研究室を出て活躍する建築家を何人も知っている。この本に登場する建築学科?名誉教授の内田祥哉先生 (以下敬称略) は「工学は歴史を教えるべき」とまで言っている。なぜ工学で歴史が必要かといえば、社会的な要求に対して解決策を導き出してきた歴史から、今後の進み方について多くを学べるからである。
戦後、日本社会の大きな変化と共に生き、建築界から答えを出し続けてきたのが内田祥哉である。この本は内田祥哉の人生を、建築史の研究者 (戸田) と内田祥哉が専門とした建築構法の研究者 (権藤) が20回近くインタビューをしてまとめたものである。なぜ2人でインタビューをしたかといえば、内田祥哉の業績が建築設計から構法研究まで幅広いからである。日本建築学会賞を作品、研究の両方で受賞したのは内田先生を含めても2、3人しかいない。
内田祥哉は1925年東京に生まれた。父は東大キャンパスの多くの建物を設計し、終戦時には総長も務めた内田祥三である。戦後、内田祥哉は東京大学を卒業し、逓信省 (今のNTTと郵便局を合わせたような省) に入省する。大量に建物が必要で、20代でも大きな建築物の設計を任された時代である。海外の雑誌を参考にしながら鉄骨のドームやガラスブロックなど新しい材料を取り入れた電信局や電話局および関連施設を全国に設計した。1956年に東京大学助教授に着任すると新たな分野として建築構法学を始める。これは戦後、建築のつくられ方が大きく変わる中でこの性能を評価していくための分野であり、プレハブ住宅や高層ビルなど新しい建築技术の開発にも活用された。研究活動と並行して佐賀県立図書館、同博物館 (日本建築学会賞受賞) などの地方公共建築を、モダニズムらしい意匠やアクロバットな構造を使って設計する。1970年代、80年代に入ると日本の建築界は大きく変わる。住宅不足は解消される一方で、未来永劫使えると考えられてきた鉄筋コンクリートの耐久性に疑問が生じる (劣化したコンクリートをよく見かける現在では信じられないが)。内田の研究テーマも長寿命化や木造建築の見直しへと進み、設計においても長寿命化や木造をテーマにした作品が見られるようになる。NEXT21など長寿命化をテーマにした建築は海外でも知られる。
このように内田祥哉の人生を通して、戦后日本の建筑界がたどった道筋が见えてくる。时代や社会のニーズが大きく変わる中で、それに感度良く答えたという意味では工学的であるが、设计した建筑や家具、书かれた文章はなんともいえない味わいや面白みがある。関心があれば、図版や写真も多く掲载したので本书を见ていただきたい。率直に申し上げて、建筑に関心のない人は関係のない本かもしれない。ただ、建筑分野に多少関心があればどこかには引っかかる本になったと自负している。
(紹介文執筆者: 工学系研究科 准教授 権藤 智之 / 2022)
本の目次
第1章 大学まで
生い立ち/笄尋常小学校のころ/旧制武蔵高等学校のころ(一九三七 ―― 一九四四年)/東京帝国大学のころ(一九四四 ―― 一九四七)/卒業論文?卒業制作について(一九四七)/終戦前後(一九四五)?空襲の記憶/Column1一九二〇年代と先達たち
第2章 逓信省?电电公社
逓信省入省/逓信省?電電公社時代の設計/中央電気通信学園宿舎/鉄筋コンクリート/デザインの参照元/中央学園講堂/残響時間について/トラスについて/Column2 戦後の若者たち
第3章 大学に戻る ―― BE論
東大に戻る/左官?雨仕舞い?取り付け強度/筋の通った研究/BE論の始まり/海外からの新材料?サイエンスへの憧れ/BE論と環境制御/BE論の限界/Column3 一九五〇年代の建築学
第4章 自邸
経緯/平面計画/住宅面積/モデュール/増築/Column4 手摺り
第5章 佐贺前期
青年の家/佐賀県立図書館/佐賀県立博物館/Column5 地方都市の戦後
第6章 学生运动
建築運動との距離感/学生運動とのかかわり/Column6 近代建築の転回
第7章 构法计画?工业化とのかかわり
構法計画へ/产业界とのかかわり/行政による開発プロジェクト―パイロットハウス/設備ユニット試作競技/芦屋浜/建築家と工業化/建築とシステム/Column7 内田賞
第8章 东京大学から明治大学へ、学生とともに
GUP/テーマの変遷/GUPと実践/明治大学/軽量立体トラス/重ねて並べられる机/Vフレームと自在鉤/継続性/Column8 講義
第9章 武蔵
経緯/八号館/構法研究との関係/Column9 学校建築
第10章 佐贺后期
有田町歴史民俗資料館/九州陶磁文化館/有田焼参考館/陶工之碑/Column10 世代交代
第11章 システムズビルディング
システムズビルディング/KEPと住要求の多様化/長寿命化へ、CHS/NEXT21/NEXT21の住棟設計/クラディング/住戸設計/まちづくりへ/Column11 住民参加と建築家の立ち位置
第12章 木造へ
明治神宮神楽殿/木造とRC造/構法研究と木造/Column12 木造禁止決議
論考1 耐える、応える (戸田穣)
論考2 仕組みと隙間 (権藤智之)
作品リスト
内田祥哉年表
参考文献リスト
関连情报
門脇耕三 評「内田祥哉の生涯に迫る言説録の決定版」 (『建築技术』 2022年7月号)
福島加津也 評 (『建築士』 2022年6月号)
内田祥哉追悼展:
「等身大の似顔絵がお出迎え、故?内田祥哉氏らしい元気の出る『追悼展』」[於:建築会館ギャラリー 主催: 内田祥哉追悼展実行委員会?日本建築学会建築博物館委員会 2022年3月14日~22日] (BUNGA NET 2022年3月14日)
連載 (レクチャーシリーズ):
内田祥哉 窓と建築ゼミナール [幹事:門脇耕三、藤原徹平、戸田穣] (窓研究所 2016年~2018年)
インタビュー:
DAAS interview vol.006 内田祥哉 インタビュー YOSHITIKA UTIDA, architect (DAAS 2009年)