先住民惫蝉.帝国 兴亡のアメリカ史 北米大陆をめぐるグローバルヒストリー
オックスフォード大学出版局の“Very Short Introduction”という、簡潔だが高度な入門書で定評のあるシリーズの1冊である。短い入門書の翻訳をこの欄で取り上げるのかと思われる向きもあるかもしれない。にもかかわらず本書をここで紹介するのは、短い分量で長い期間を、広大な空間を、たくさんの役者を論じきり、しかも先住民の存在を際立たせる新しい北米大陸史像を打ち出していて、その斬新さと密度の濃さに、専門のアメリカ研究者も目からうろこが落ちるからである。本書でアメリカを学び始める若い学徒は、まったく新しい歴史像を携えて本格研究に進めるだろう。
本书は初期アメリカ史研究の第一人者アラン?テイラーによる、北アメリカ大陆全体の歴史を18世纪まで大つかみにとらえる通史だ。1776年に独立してアメリカ合众国になる大西洋岸のイギリス领植民地にとどまらず、フランス领ケベックやルイジアナも、ニューメキシコやテキサスなどスペインの植民地も、またオランダやロシアの植民地もしっかり取り上げられ、鲜やかに対比される。近年ではヨーロッパ?アフリカ?西半球を行きかう人やモノなどの歴史を取り上げる「大西洋史」が関心を集めているが、本书でも旧世界からの病原菌の浸透や黒人奴隷制度の导入と确立、商品作物の栽培などが、复数の角度から论じられる。そして本书の议论は太平洋にも及んでいて、スペイン领アルタ?カリフォルニア植民地も、クック船长の航海やハワイの王権社会も、さらに中国との毛皮交易も取り上げられる。
ここまでならば内容が重なる书籍があるが、本书はその先を行く。植民者たちが颜を合わせた先住民に注目する「大陆史」の视座が、本书の最大の特徴だ。よく知られるとおり、旧世界の病原菌が持ち込まれると先住民は多大な犠牲を出したが、先住民はそれで力を失うことはなかったと本书は论じる。先住民はコロンブスの到来以前から北米大陆各地の多様な环境に适応して社会を発达させており、ヨーロッパからの植民势力とも渡り合ったのだ。彼らはその戦闘法を切り替え、植民者が持ち込んだ銃や马を使いこなし、植民地侧の兵力を手玉に取った。その巧みな戦いと交渉は、本国の植民地政策にも影响を及ぼした。フランス商人から銃を入手してスペインの植民势力を振り回す内陆部先住民のしたたかさは、特に强い印象を与える。16~18世纪の北アメリカ大陆史は、アメリカ合众国の前史ではなく、ヨーロッパからの侵略の歴史にも、奴隷制度确立の过程にもとどまらない。互いに张りあう各国の植民地が先住民とぶつかり、対応に苦労を重ねた歴史でもあるのだ。
本书を手に取ったらまず序章4~5ページを开いて、先住民が1720年代に鹿皮に描いたカロライナの地図を见てほしい。先住民がヨーロッパからの侵入者をどのように见て、どのような関係を作るつもりだったか、きっと惊かされるだろう。充実した文献一覧も含め、アメリカ史を広域的に、柔软に考えるための基本文献になる一册である。訳者としては本书の面白さを、着者の文体も含めて再现するよう努力したつもりだ。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 教授 橋川 健竜 / 2021)
本の目次
1 カトーバ地図の世界
2 アメリカ例外主義を超える
3 変貌する世界に適応する先住民
第1章 遭遇
1 入植の始まり
2 農耕社会の出現
3 ヨーロッパの海洋進出
4 コロンブスとコロンブス後の交換
第2章 ヌエバ?エスパーニャ
1 コンキスタドールのアステカ帝国征服
2 スペイン領アメリカ植民地の形成
3 スペイン帝国と北アメリカ
4 プエブロ蜂起
第3章 ヌーヴェル?フランス
1 北の先住民とフランス
2 先住民とヌーヴェル?フランス植民地
3 王権統治下のフランス領北アメリカ植民地
4 グレートプレーンズの先住民社会
第4章 チェサピーク植民地
1 イングランドの植民発起人たち
2 植民活動の始まり
3 タバコ植民地社会と17世紀後半の危機
4 奴隷制度に根ざす社会へ
第5章 ニューイングランド
1 イングランドのピューリタニズム
2 ニューイングランド植民地
3 ピューリタンと先住民
第6章 西インド诸岛とカロライナ
1 砂糖と奴隷の社会へ
2 カロライナ植民地
3 ジョージア植民地
第7章 イギリス领アメリカ
1 帝国を強化するイングランド
2 中部植民地の形成
3 名誉革命と植民地統治の再編
4 結び合わされる18世紀イギリス帝国
第8章 帝国
1 七年戦争 (フレンチ?アンド?インディアン戦争)
2 戦後の先住民政策
3 戦後の植民地統治方針
4 太平洋岸のスペイン植民地
5 太平洋世界と北アメリカ
訳者あとがき
関係年表
文献案内
人名?事项索引
関连情报
伏見岳史 評 (世界史研究所『世界史の眼』No.13 2021年4月1日)