ド?ロ版画の旅 ヨーロッパから上海~长崎への多文化的融合
フランス生まれのパリ外国宣教会司祭ド?ロ (Marc Maria de Rotz, 1840-1914) は、1868年の来日から1914年の逝去までの46年間を、惜しみなく日本に捧げた人物である。日本に残した多くの文化遺産の中に無視できないものがある。いわゆる「ド?ロ版画」の10点。一八七五年ごろ長崎の大浦天主堂付設神学校においてド?ロ神父の主導で制作されたものと思われる。
そのうちの5点は「イエズスの聖心」「聖母子」「聖ヨゼフ」「聖ペトロ」「聖パウロ」と名付けられ、現在、大浦天主堂キリシタン博物館および他の施設に収蔵されている。残りの5点は本書の主な研究対象であり、画題は「悪人の最期」「地獄」「復活と公審判」「煉獄の霊魂の救い」「善人の最期」である。彩色付きで5点一揃いで現存しているのは、大江天主堂 (天草市) と「お告げのマリア修道会」本部 (長崎市) の収蔵品だけである。
郭の「ド?ロ版画の前奏曲」(第一章) は、ド?ロが幕末?明治初期にプティジャン版の印刷を行う過程において1868年から69年ごろまですでに、上海より渡来した仏人イエズス会士A?ヴァスールの木版画に接触し、それを模倣していたことを紹介する。それから「ド?ロ版画のルーツ」(第二章) は、ド?ロ版画の手本となったヴァスールの絵がどのような理念のもとで誕生したのかを検証する。それは15世紀のヨーロッパで流行した『往生術』の挿絵、1593年出版された『福音書物語図解』、17世紀の中国で製造された教理説明書の挿絵を継承、発展したのではないかとする。
鄭巨欣の「ヴァスール版画とド?ロ版画」(第三章) は、中国のキリスト教宣教絵画の歴史をたどり、それを吸収したヴァスールの版画における中国の模様と信仰の表現を解釈し、ド?ロ版画5点がいかにそれを模倣し、日本化したのかを詳細に考証する。白石恵理の「「ド?ロ版画」にみる日本イメージの受容と展開」(第四章) は、明治初期の日本、とりわけ長崎の社会?文化的背景を解読し、ド?ロ版画における独自の表象上の特色を指摘し、どの集団の人びとを主たる対象とし、どのような点に注意を払ってキリスト教理を伝え広めようとしたのかを考察する。
内島美奈子の「大浦天主堂キリシタン博物館所蔵 ド?ロ版画関連資料および九州における分布」(第五章) は九州地方を中心とするド?ロ版画の収蔵状況を報告し、ド?ロ版画のプリントが多数存在していることによって、当時のド?ロ版画が広範囲に利用されていた状況を彷彿とさせる。
郭「近代日本语文学の先駆者」は、キリシタン言语を多用したプティジャン版が、のちに一大ジャンルとなった「近代宣教師の日本语文学」(第六章) を導いていたことを論述する。
本书は、欧州から中国、日本へ渡ってきた圣画の长い歴史的背景をもつド?ロ版画の源流、製作、使用状况を考察し、それのもつ多文化的要素と东西交流史を浮き彫りにし、近代宣教师が日本にもたらしてきた文化的贡献を明らかにする。
(紹介文執筆者: グローバルリーダー育成プログラム 特任教授 郭 南燕 / 2020)
本の目次
第1章 ド?ロ版画の前奏曲 郭 南燕
コラム1 プティジャン司教がキリシタン言语に最後までこだわった理由 高祖敏明
第2章 ド?ロ版画のルーツ 郭 南燕
第3章 ヴァスール原画とド?ロ版画との比較 鄭 巨欣
第4章 ド?ロ版画にみる日本イメージの受容と展開 白石恵理
コラム2 五岛列岛のド?ロ版画と堂崎天主堂 野下千年
第5章 ド?ロ版画と関連資料の収蔵状況 内島美奈子
ド?ロ版画 / 版木所蔵一覧 石上阿希、内島美奈子、白石恵理
第6章 近代日本语文学の先駆者 郭 南燕
終 章 ド?ロ版画の多文化的イメージ 郭 南燕
関连情报
「ド?ロ版画、上海より来たる 宣教师の足跡」 (『日本経済新闻』 2020年3月23日)
「原画」は中国起源と特定 ド?ロ神父の木版画 (『西日本新闻』 2019年6月6日)
书评:
佐藤芳哉 評 (『日本の神学』59号 2020年)
书评 ド?ロ版画の旅 东西の文化交流象徴 (『长崎新闻』 2019年6月9日)