狈贬碍テキスト 100分诲别名着 ヴァーツラフ?ハヴェル「力なき者たちの力」
今から約三十年前の1989年、ヨーロッパの社会主義国の体制が次々と崩壊していきました。いわゆる冷戦構造の崩壊です。各地で政治体制が変わっていくなか、チェコスロヴァキアのある人物に注目が集まりました。かつて反体制派の戯曲家として知られた人物が一国の大統領になったからです。その人物の名前は、ヴァーツラフ?ハヴェル (1936‐2011) です。
NHK Eテレの番組テキストとして制作された本書は、彼の代表作『力なき者たちの力』(1978) を読み解きながら、全体主義と呼ばれる体制を下支えするものは何か、政治と日常生活はどのような関係にあるのか、また言葉とはどういう力をもつものなのか、という点を考察しています。
ハヴェルは1989年以降大統領となりますが、元々は戯曲家、つまり普通の一市民でした。ハヴェルの考えで特徴的なことは、「政治」と一般的に考えられているものを、政治学あるいは現実の政治の力学といった既存の枠組みで捉えるのではなく、土台から考え直そうと試みる点です。全体主義体制を考える際、特定の人物に注目するのではなく、その体制を支えているイデオロギーが大事だとハヴェルは説きます。イデオロギーは「さまよえる人々に対して、たやすく入手できる『故郷』を差し出す」からです。それにより、人びとは「居場所」を獲得しますが、その代償として個人で思考することをやめ、良心を手放してしまいます。そして、期待されることを「自発的」に行動する、つまり今日の表現で言えば、「空気を読む」ようになってしまうということです。ハヴェルはこれを「自発的な動き (automatism)」と呼んでいます。
この论考の特徴的なもう一つの点は、市民の立场から政治を考え直すという点です。「自発的な动き」の一例として挙げているのが、青果店の店主が店头に饰る政治的なスローガンのことです。それ自体は特别な意味はないように思われますが、その何気ない振る舞いが蓄积されると、それは「日常の风景」となり、社会の雰囲気を醸成するものとなるとハヴェルは考えます。そのような固定した状况を打破するものとしてハヴェルが注目するのが、个々人の良心の目覚めです。青果店の店主がそのスローガンを掲げるのをやめたり、あるいは、思っていることを会议で口にすれば、少しずつその场が変わっていくとハヴェルは説きます。
このように、ハヴェルの作品は、私たちの日常における「政治」のあり方を考え直す契機を与えてくれる書物となっています。また本書では、『力なき者たちの力』だけではなく、他のエッセイ、戯曲にも光をあて、ハヴェルという人物の全体像が浮かび上がるように試みました。「並行文化」として生活の新たな可能性を示唆する芸术表現、あるいは、言葉そのものの魅力と危険性についても論じています。ぜひ、このテキスト、さらには翻訳を手に取って、自分の身の回りのことを考え直すきっかけにしてみてください。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科?文学部 准教授 阿部 賢一 / 2020)
本の目次
第1回 「嘘の生」からなる全体主义
第2回 「真実の生」を求めて
第3回 并行文化の可能性
第4回 言叶の力
関连情报
プロデューサーAのおもわく。2020年2月の名著: 力なき者たちの力 (NHK 2020年2月)
着者コラム:
学問と社会の現在とこれからを考える vol.2 (東京大学大学院人文社会系研究科?文学部ホームページ 2020年10月31日)
「言叶の力」を考え続けた人、ハヴェル (狈贬碍テキストビュー 2020年3月13日)
名著、げすとこらむ: ゲスト講師 阿部賢一
ハヴェル『力なき者たちの力』 ハヴェルの言葉に秘められた「力」 (NHK100分で名著)
书籍绍介:
名著に会いに (4) あなたは「真実の生」を見出せるか (読書のいずみIZUMI 2020年7月7日)
道浦俊彦罢滨惭贰 (読売テレビ驰罢痴 2020年2月20日)
ロックフェスで政治を語れない日本の危うい兆候 - 中森明夫氏が語るハヴェル『力なき者たちの力』をいま読む意味 (JB Press 2020年2月5日)
関连记事:
キーワード 力なき者たちの力=中森明夫 (『毎日新闻』夕刊 2019年11月20日)