相対化する知性 人工知能が世界の见方をどう変えるのか
本書は3人の著者の知的交流のなかで生まれた本である。私が第一部を、当時、出向中の東京電力の取締役でのちに経済产业省商務情報政策局長を務め、現在東京大学未来ビジョンセンター客員教授の西山氏が第二部を、そして、経済学者で慶應義塾大学教授の小林氏が第三部を担当した。
もとはといえば、私が、人間の知能を解明し、それに近づく上で「深層学習」という技术がいかに重要なパーツであるかを常に力説していたことから始まる。その話を以前から聞いていた西山氏は、深層学習を単に人工知能の話とは捉えず、むしろ世界の側にもその理由があることにあるときに気づいたらしい。西山氏は経産省の役人なのであるが全く役人らしくなく、本書の発刊前には、東大元総長の吉川弘之氏にも来てもらいこの議論をする機会があったのだが、「役人がいると思ったら哲学者だった」と評されていたのが端的に表している。発刊に至るまで3人でたびたび議論を行ったのだが、西山氏は訳のわからないことを突然言い出すことがたびたびあった。例えばあるとき「松尾さん、我々は宇宙中期にいることが分かったよ」などと言い出す。「え、あ、そうなんですか?」という感じでよくよく聞いてみると言っている意味はおぼろげながらわかるのだが、あまりにも通常の発想と飛躍していて驚嘆したものである。あるときには、「絵画の準備を」という本が素晴らしいというので読んで見たが、深層学習との関連はさっぱり分からない。また、あるときには、「フリストンというおっさん(失礼)がいて、たぶんすごい」とか言い出す。確かに、本当にすごい人なのだが、それがよく情報系の研究者でもない西山さんに分かるなと驚いたものである。「結局ライプニッツが考えていたことなんだけど近すぎて説明しにくいんだよね」とか、一般人からは意味不明な思考と推敲の果てに、本書の第二部は徐々に形作られていった。忙しい3人であったので、よくホテルのレストランなどで朝食を一緒に食べながら議論したことは大変よい思い出である。
本书の中心は、そうした过程を経て构成された第二部であって、その内容は、ひとことでいうと「ある」と「知る」が同型であることを述べたものであり、存在论でも唯名论でもないその中间に(両方に)答えがあると喝破する。そしてこの构造自体は世界のさまざまなところに存在する。第一部が人工知能(あるいは人间の知能)という一侧面から、第叁部が社会経済というまたある种の一侧面から述べているのに対して、第二部はそれを统合した世界観を提示する。人工知能が出てきたことではじめて、我々の知性や社会を相対化し捉えることができる。
ある人からいただいた「読んでいてこの本はなんか変だぞと思った」という感想が最高の褒め言叶だと思ったが、决して読みやすい本ではない。読者に何の远虑もしていないため、理解するのは难しいかもしれない。しかし、新しく重要な世界の见方が描かれていると思っている。ぜひこの壮大な世界観を味わっていただければと思う。
(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 松尾 豊 / 2020)
本の目次
ディープラーニングの新展开
1章 人工知能のこれまで
2章 ディープラーニングとは何か
3章 ディープラーニングによる今後の技术進化
4章 消费インテリジェンス
5章 人间を超える人工知能
第2部 人工知能と世界の见方
强い同型论
6章 人工知能が「世界の见方」を変える
7章 认知构造はどう変わろうとしているのか
8章 强い同型论
9章 强い同型论で知能を説明する
10章 我々の「世界の见方」はどこからきてどこに向かうのか
第3部 人工知能と社会
11章 人工知能と人间社会
12章 自由主义の政治哲学が直面する课题
13章 人工知能とイノベーションの正义论
14章 世代间资产としての正义システム
15章 自由の根拠としての可谬性
関连情报
话题の本わしづかみ (奥别产日本评论 2020年3月30日)
书评:
瀧泽弘和(経済学者?中央大学教授)评 「読书委员が选ぶ「2020年の3册」 (『読売新闻』 2020年12月27日)
横田英史の読書コーナー (組込みシステム技术者向けオンライン?マガジンE.I.S 2020年11月12日)
瀧泽弘和(経済学者?中央大学教授)评 (『読売新闻』 2020年7月5日付)
河野龍太郎(BNPパリバ証券経済調査本部長)評 「話題の本」 (『週刊 東洋経済』P85 2020年6/13号)