Gender and Nation in Meiji Japan Modernity, Loss, and the Doing of History
本书は近代日本における流行というメディア现象の生产と受容を分析し、当时の流行と日常生活との関係性を明らかにすることにより、ジェンダーアイデンティティの変容とナショナリズムの台头を説明するものである。
流行という現象により急激に西洋化された日常生活に対し、批判的な考えを表象している様々な分野のメディア (風刺画、冒険雑誌、遊学案内書、少年小説、記念行事、女性雑誌等) を資料として分析し、どのようにメディアがナショナリズムを煽動する役割を果たしていったかを示している。
これまで多くの研究でとりあげられてきた明治期のナショナリズムとは、明治国家による、天皇制を基盘とした国家统一と近代化の手段としてのナショナリズムであったが、本书では、これに竞合する「民众ナショナリズム」という概念を导入する。この民众ナショナリズムの担い手である在野の知识层は、上にあげたような様々なメディアを通し、国家の过剰な西洋化倾向を批判し、日常生活と日本の伝统的な文化との调和を奨励し、その国民的共有に価値を见いだそうと模索した。本书では、このようなプロセスがもたらすナショナリズムに焦点をあてていく。
そのプロセスにおいて、流行という社会現象は、近代化の中でもたらされた浅薄な文化の象徴として激しく批判される。つまりは、大量生産の消費文化によってもたらされた「質よりも量」という価値観の見直しが迫られ、不変の質の高さや簡素で慎みを重んじる伝統的な美学が肯定されたのである。また、流行を追うことは西洋の表面的な模倣であるとして批判され、さらには西洋的な服装や行動への過剰な関心や模倣は、日本男性の日常生活そのものに不必要な「女性化 (feminization)」をもたらすと危惧された。この「女々しい」男性像 (feminized masculinity) への反動は、日本の伝統的精神や冒険的精神を重んじる「男らしい」男性像 (masculinized masculinity) を強調するプロセスとして、日清、日露戦争期の世相の中で助長され、のちの軍国主義や帝国主義への下地を準備することに繋がったと主張する。
また、在野の知识层や评论家によって煽动された前述の「民众ナショナリズム」は、个人が服饰等により自由に身体表现をしたり、他者の表现の违いを容认したり、型にはめられることなく自らアイデンティティを创造していくという、日本がモダニティへ移行していくための必要不可欠な価値観を否定してしまったと主张する。よって、これまでのナショナリズム研究で主流であった、明治国家の抑圧が民众を军国主义へと导いたという主张に対して、全く新しい视点を提供している。
本书は、现代の日本社会においても重要なメディア现象である「流行」を、明治期の日本の世相や思想を文章的にもビジュアル的にも生き生きと描写する资料を多数駆使し、ジェンダー论的分析を试みることで、ナショナリズム台头のプロセスを明确にするという、これまでの歴史研究、メディア研究には见られなかった视点を提供し、その分野に大きく贡献するものであると确信する。
(紹介文執筆者: 情報学環 准教授 ジェイソン?G?カーリン / 2016)
本の目次
Chapter 1: Competing Masculinities in Meiji Japan
Clothes Make the Man
Caricaturing the State
The Vice of Frivolity and Extravagance
Authenticating Masculinity
Neckties and High Collars
Barbarism, Adventure, and Imperialism
Fashioning Civilization
Chapter 2: The Mythos of Masculinization: Narratives of Heroism and Historical Identity
The Hero as the Agent of Order
Adventure Novels, Heroes, and Imperialism
Torture the Women!
From Boys to Men
Oshikawa Shunrō and the Creation of Hypermasculine Heroes
Iconic Heroes in History
Nationalism, Vigilante Justice, and the Politics of Direct Action
Chapter 3: The Aestheticization of Everyday Life: Inventing the Modern Memory of Edo
The Measure of Loyalty
The Memory of Righteous Resistance and the Ghosts of Edo
Kobayashi Kiyochika in the Autumn of Edo
Narrating the History of Edo
The Tricentennial Celebration of Edo
History amid the Ruins
The Genroku Boom and the Commercialization of Edo
The Eroticization of the Past
The Culture of Everyday Life
Chapter 4: The Lure of the Modern: Imagining the Temporal Spaces of City and Countryside
Mass Culture, Moral Panic, and Nostalgia
The Rural Exodus
Degenerate Schoolgirls and the Awakening of Female Desire
The Monstrous City
The Light of the Home
Yanagita Kunio, Fads, and the Homogenization of Tastes
Conclusion: Oedipus in Chains: Eternal Return and the Memory of the Epic Past
序説: ナショナリズム?日常生活?永劫回帰
第1章 明治期における競合する男性像
"Clothes Make the Man " (衣類が人を作る)
国家の風刺
軽薄と贅沢という悪
蛮カラ:リアルな男性像の追求
ネクタイとハイカラ
野蛮と冒険と帝国主義
服飾による文明と植民地主義の形成
第2章 男らしさのミトス: 英雄主義と歴史的アイデンティティの物語
秩序をもらたらす英雄
冒険小説における英雄と帝国主義
「Torture the Women!」(ヒロインに苦痛を与えろ!)
少年から男へ:「真の男になる」という苦闘
押川春浪による過剰に男性的な英雄像の創造
歴史におけるアイコン的英雄
正義執行と直接行動の政治によるナショナリズム
第3章 日常生活の美学:「江戸」の近代的記憶の創造
忠誠の尺度
正義の抵抗の記憶と江戸の旧臣の霊
小林清親と江戸の秋
江戸の歴史の物語化
明治における江戸の残骸
東京三百年祭
元禄ブームと「江戸」の商品化
江戸ノスタルジアとエロティック
日常生活という文化
第4章 モダンの誘惑と地方の理想化
大衆文化における流行というモラル?パニック
奇怪な都市
堕落した女学生と女性の欲望のめざめ
都会への流出
「家の光」の創刊
柳田国男:流行と趣味の同質化
結論: 連鎖するオイディプース:永劫回帰と叙事詩的な過去の記憶