岩波新书 桜が创った「日本」 ソメイヨシノ 起源への旅
桜は日本を象徴する花である。毎年春になると、东京のような大都市から地方の町や村、そして人里离れた山野までもが、美しい花で饰られる。その景観は世界的にも有名だが、もう一方で、桜には多くの误解や胜手な思い込み、不确かな伝承の拡散が常につきまとってきた。
本书では、日本の桜のなかでも代表的な品种である染井吉野を中心に、植物学や生态学の研究もふまえつつ、桜をめぐる日本の社会の営みがどんな歴史をたどってきたのか、そして现在どのように変わりつつあるのかを、独自の调査と研究にもとづいて解き明かした。文芸や文化史だけではなく、园芸や景観、さらに国家的な仪礼やメディア?イベントなどまでふくめた幅広い视野で、なおかつ、できるだけ一次史料にさかのぼって、现実の姿を具体的に描き出した。その点が本书の大きな特徴の一つである。
例えば、従来の日本文化論では染井吉野は、日本近代の軍国主義や、近代化にともなう単一化 (モノカルチャー化) の事例として語られてきた。その影響で、染井吉野の文化的?社会的な意義を低く評価する人も少なくない。園芸品種であることをことさらに強調し、自然種である山桜 (ヤマザクラ) と対照化した上で、「山桜こそが日本の本当の桜」「染井吉野は本来の桜でない」とする語りもしばしば見られる。
しかし、実際には、日本列島の桜の大部分を染井吉野が占めるようになるのは、第二次大戦の後からである。染井吉野の普及と軍国主義との間には、強い関連性はない。また、山桜が「日本を代表する桜」という言説が日本语圏で一般化するのは、二〇世紀以降である。山桜は植生上、西日本などの温暖な地域で生育する。染井吉野が (沖縄諸島を除く) 日本列島のほぼ全域に植えられて、花を咲かせるようになるまで、そもそも「日本を代表する桜」は存在しなかった。したがって、山桜を「日本を代表する桜」とする語りは、それ自体が染井吉野の影響を強く受けたものであり、いわば染井吉野が普及して以降の通念 (信憑) だと考えられる。
本书は2005年に初版が刊行されて以来、2016年10月1日で8刷を重ねている。桜をめぐる日本社会の営みを学术的に研究した着作として、さらに、その成果を一般的な読者に読みやすい形で提供した作品として、长く広く読まれてきた。この点が本书のもう一つの大きな特徴である。文芸史や文化史、社会学などの専门的な研究でしばしばとりあげられるだけでなく、植物学の本格的な事典でも重要な参考文献としてあげられており、幅広い分野で読者をえている。新闻などのマスメディアの记事や、桜爱好者の厂狈厂でも数多く绍介されてきた。
そうした点で、社会科学から人文学へ、さらに自然科学へも横断する学际的な研究として、そして一般社会への学术成果の新たなアウトリーチに成功した出版物としても、高く评価されている。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 教授 佐藤 俊樹 / 2017)
本の目次
I. ソメイヨシノ革命
1. 「桜の春」今昔
2. 想像の桜 / 現実のサクラ
II. 起源への旅
1. 九段と染井
2. ソメイヨシノの森へ
3. 桜の帝国
4. 逆転する時間
III. 創られる桜?創られる日本
1. 拡散する記号
2. 自然と人工の環
あとがき
桜のがいどぶっく?がいど
ソメイヨシノの起源をめぐる新たな展開 - 本書五刷に際して (二〇〇九年一二月)