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総长対谈「社会と対话と共感と。」 藤井辉夫 × ロバート キャンベル

掲载日:2021年9月16日

社会と対话と共感と。

しなやかで开かれた大学を目指して--
海中工学と日本文学、二人の研究者の共通する思いとは?

藤井総長の就任後初となる本誌の総長対談企画。「対話と共感」を重視する新総長がお相手として希望したのは、日本文学研究者のロバート キャンベル先生でした。対談場所は、各々が研究生活を送ってきた駒場からほど近い渋谷の街の中心部。キャンベル先生が持って来られた江戸時代の版本を眺めながら、二人の対話は進みます。専門家の世界を市民に開く。分野の違う両者の言葉から共通の思いが浮かび上がってきました。 (対談日:2021年7月21日)

入学式祝辞で语られた论理と共感の间のきわどいバランス

  • 藤井 私がキャンベル先生とお话ししたいと思ったきっかけは、2018年度の入学式です。祝辞の中で、アメリカと日本という二つのカルチャーの间を行き来する话をされたのが印象的でした。私は研究人生の中で分野が何度か大きく変わりましたが、よかったと思うことが多かったんです。学生たちには、踌躇せずに境界を越えたほうがいいよとよく话します。キャンベル先生は祝辞の中で、论理と共感の间のきわどいバランスの话をされました。対话を进めるとき、まず共感があってそれに合わせて话すのではなく、积极的に対话を进める中で共感が広がることが大事だと思います。今年5月の中部大学のシンポジウムの讲演でも、共感という言叶の使い方が难しいとおっしゃっていましたね。二つのカルチャー、二つの言叶の领域を行き来し、共感ということについて深く考えてきた先生のお话をぜひ闻いてみたいと思ったんです。
  • キャンベル 私は2017年3月に东大を早期退职してに移りました。その顷に入学式の祝辞という大役を打诊され、东大は人使いが荒いなと思いましたよ(笑)。
  • 藤井 改めましてご登坛ありがとうございました。
  • キャンベル 私の研究は昔の文献に即しながら実証的に进めるものです。しかし明治以前の文献の大半は崩し字で书かれていて现代の日本语话者は読めません。昔の文献を繙き、现代人がわかるようにする作业を経て多くのことにぶつかり、様々な分野の人と议论して研究するのが私のスタンスです。ただ、文献に书かれたものすべてに共感できるわけではありません。21世纪に生きる人间として共感するのが难しい部分も当然あります。逆に共感に引きずられることで妥当でない読解に行きつく场合もあります。エビデンスを欠いた共感ほど危険なものはないからです。境を越える际には、上野千鹤子先生が别の年の祝辞で话したように、自らの所与の条件を客観的に捉えて理解することが大事だと思います。
藤井総長写真
东京大学総长
藤井辉夫 FUJII Teruo
1988年、本学工学部卒业。1993年、本学工学系研究科船舶海洋工学専攻博士课程修了、博士(工学)。生产技术研究所助教授、理化学研究所研究员、生产技术研究所教授、生产技术研究所长、本学大学执行役?副学长、本学理事?副学长を経て、2021年4月より本学総长。専门:応用マイクロ流体デバイス、海中工学
  • 藤井 自分の立ち位置を确かめるためにも、同质な人たちの中にいるよりあまり驯染みのない背景を有する人たちがいるところに入ることが重要ですね。违う分野に入るとその分野の言叶の使い方がわからなくて最初は困りますが、违うバックグラウンドをもつ自分の考えがその中では新しくユニークなものだと感じることが多かったんです。「わからない感」を楽しむ感覚もありました。同じ分野を突き詰めることも大事ですが、知らない世界に入っていくことが研究者にとって非常に大事だと思うようになりました。
  • キャンベル 踌躇せず违う分野に分け入り、枝叶を広げられたのは、藤井先生の中に干がすでにあったからでしょうね。20歳で初めて日本に留学した顷、20代は何でもいいから手応えを感じるまでこつこつやることが重要だ、とある先生に言われたのを思い出します。既存の学术分野で他の研究者と伍していけるくらいの成果を积み上げた先に広い世界があると思います。
  • 藤井 私の场合は海中工学の分野がそうだったんでしょうね。
  • キャンベル 驹场にいた顷から私は东大の当事者研究に注目してきました。障碍者デザイン、盲聋者の支援といった活动は世界的に注目され、イノベーションにも结びついています。この文脉に性的マイノリティのテーマも加えてほしいんです。理论的基础はすでに充実したものがあります。それが可视化され実体化されることが望ましいと思います。
  • 藤井 そうですね。当事者研究がさらなる広がりをもって、当事者でない周りにも発展するといいなと思っています。
  • キャンベル まず実态を示す基本的データ整备が必要です。それが前提となって学术が动き、世论が动き、政治が动く。フェミニズムはその最たる例で、ここから生まれた新しい方法や制度はたくさんあります。私は少し前まで制度を変えずに均衡を见出そうと言ってきましたが、いまは最初から能动的に制度设计を视野に入れた议论の形成に取り组むべきだと思います。叠尝惭や#惭别罢辞辞の运动が広がった今がチャンスです。この部分はぜひ强化してほしいです。
  • 藤井 ソフトバンクとの产学协创で进めているという事业があり、その中に当事者研究と础滨研究を组み合わせたプロジェクトがあります。ニューロインテリジェンス国际研究机构の先生のチームに、先端科学技术研究センターの先生が参加され、础滨を使ったサービスやシステムがマイノリティを軽视しがちになる、という重要な问题に取り组んでいます。个性を生かす社会设计を目指して、今后どんな成果が出てくるか楽しみです。

文献にはテキスト以外の重要な情报がたくさんある

  • キャンベル 国文学研究资料馆では、30万タイトルの古典籍データベースを整備し、画像とメタデータを機械で読めるようにする取り組みをAI研究者とともに進めてきました。書物にはテキストだけでは読み取れない情報がたくさんあります。たとえば表紙を見れば材質や厚み、色や手垢などから貸本屋のものだとわかります。どの地域のどの階層の人が読んでいたのかなどが物質的側面からわかることがあります。それから、挿絵も重要な要素です。今日は参考に天保期の江戸で出版された版本を持ってきました。
  • 藤井 手にとってみてもいいですか。
  • キャンベル もちろんです。『春暁八幡佳年』(しゅんぎょうはちまんがね)は深川の游郭が舞台の会话体小説です。絵に描かれた景観はすでに存在しませんが、いろいろなことが読み取れます。『南柯之梦』(なんかのゆめ)は小説と随笔の要素を合わせた多色刷りの作品で、登场する名前は実在の文化人です。现代人のパラダイムから外れる形态で豊富な情报が入っています。江戸の人にとっては、植物学も兵法も和算も养生训も同じ読み物でした。19世纪のイギリスなどで発展した文学の分类は江戸の书物にはあてはまりません。7世纪顷から日本人が残してきた日记も贵重で、当时の天体や気象の情报、海洋情报、渔获などまでわかります。その时代の社会を映す镜のような文献を多分野の研究者と共有すれば学术的に非常に有益です。
  • 藤井 昔の文献を読解することで様々な色合いのある学问的展开が生まれるわけですね。
  • キャンベル 私たちにはそれを拓いていく责任もあります。私の所属する学会では「和本リテラシー」と铭打ち、小?中学生に崩し字の読み方を教える授业を10年ほど前から続けてきました。
  • 藤井 昔の文献のデータベースは当然研究资料として重要ですが、それを社会で共有することにも意味があるわけですね。そのプロセス自体がとても贵重です。市民と研究者との双方向のやりとりが生まれることで、大学や学术への理解や共感につながると思います。どうすればうまくいくでしょうか。
キャンベルさん写真
早稲田大学特命教授
ロバート キャンベル CAMPBELL Robert
1981年、カリフォルニア大学バークレー校卒業。1992年、ハーバード大学東アジア言語文化学科博士課程修了、文学博士。九州大学文学部専任講師、国文学研究资料馆助教授、本学総合文化研究科助教授、同教授、国文学研究资料馆館長を経て、2021年4月から早稲田大学特命教授。近著に『日本古典と感染症』(角川ソフィア文庫/2021年3月刊)専門:近世?近代日本文学
  • キャンベル 国文学研究资料馆で思ったのは、こうした活動は研究に還元されるということです。研究を根本から揺るがしたり栄養分を注ぎ込む力もあると思います。私は文献とデータベースを表現者が使うと何が生まれるかに興味を持ち、アーティスト?イン?レジデンスを実施しました。鍬形蕙斎の本に刺激されたアニメーション作家が短編をつくり、作業に伴走した研究者は文字と合わせて絵を見る視点に学術的に大きな影響を受けました。
  • 藤井 同感です。私は生研の所长时代にを立ち上げました。デザイナーを巻き込み、工学とデザインを融合させたんです。人々が望む未来を実现する技术を所内で探し、工学が突き詰めてきた技术を、暮らしのシーンでどう使えるかを形にして示す取り组みを进めたところ、研究にも大きく影响が及び、様々なプロジェクトが生まれました。
  • キャンベル さて、私が特命教授を务める早稲田大学が10月に开馆するは、村上春树さんの膨大な蔵书や原稿やレコードを所蔵しています。
  • 藤井 レコードはどのように使われるんですか。
  • キャンベル オーディオルームやラジオブースを設え、音楽を介したワークショップを行います。村上さんが在学中に開いた店でかけた曲やライナーノーツが70年代の貴重な証言になるでしょう。ジャンルを超えて研究や語らいができる場にしたいと思います。東日本大震災のとき、私は避難した方々と共に読書会を行いました。文学に接点のない人が本について他人と語るのは容易なことではないけれど、未知の世界に皆が歩み寄って語ることは非常に重要だとわかりました。無表情だった人が笑ったり、心を開いたり。文学にはそうした力があります。また、音楽は信条や思想を鮮明にさせずに人を集めることができる媒体だと思います。  大学というのは、安心して過ごせる場所、息継ぎができる場所として求められる部分が大きいと思います。東大には、日本社会に先んじて、海外の元気な人たちを呼び込んでほしいです。私は日本文学の研究者なので資料が多い日本に惹かれましたが、そうではない分野の人も東大で認められ支援されるという形を先行して見せていただきたいと思います。
 

マジョリティではない人の声が届く仕组みを作りたい

  • 藤井 いま学内の构成员との対话をシリーズで続けていまして、先日、日本语话者以外の构成员との対话を英语で行いました。驹场の语学の先生も含め、外国人ファカルティの皆さんは学内ではマイノリティの部类に属します。マジョリティではない人たちの声が届く仕组みを作らないといけないと心しています。
  • キャンベル 届いた声をできる部分から反映してほしいです。大学改革は他律的ではいけませんね。
  • 藤井 自律性、自発性、自ら考えて変えていくことが大事ですね。具体的アクションを积み重ねたいと思います。东大は大きな组织ですので、学内との対话も重要です。とはいえ、対话には时间も手间もかかります。学内だけでも人数が非常に多い大学という组织で対话を进める上手な方法はあるでしょうか。
  • キャンベル ある意味、偶発性が大切になると思います。国文学研究资料馆は立川にあり、国立極地研究所や統計数理研究所が同じ建物内にあります。そうした別分野の研究者と廊下ですれ違った際に研究のタネが生まれることがありました。オーロラの研究者と古典文学の研究者がたまたま喫煙所で話をしたのがきっかけとなって、藤原定家の『明月記』という13世紀の日記に低緯度オーロラの話が書かれていたことが判明したんです。でも総長の体は一つしかないですね(笑)。
  • 藤井 デジタル技术の活用も重要ですね。キャンベル先生はデジタルツールを使って盛んに発信しているそうですが。
  • キャンベル 罢颈办罢辞办のアカウントもつくりました。学术と対极にある厂狈厂ですが、少し学びの要素を入れて月20本公开しています。银座のものづくりの现场にお邪魔し、社会问题やイノベーションの芽、街の歴史などを捉えて动画にしています。先日は银座の和菓子店で、店のどら焼きを例に赠与経済の话をしました。厂狈厂が放つ力に研究者がもっと注目を払うべきだと思います。
  • 藤井 ホームページの発信だと双方向性は発挥しにくいですよね。「広报」という呼び方も、変えたほうがいいかもしれないとも検讨しています。大学が届けたい情报を出すだけではない、双方向性が见えるあり方に変えられないかと思います。
本
  • キャンベル やはり広报は大切です。ひこばえのような叶っぱは、次のイノベーションの元かもしれません。従来、大学の広报は各部局の研究成果を広げるものだったと思いますが、自ら组织に分け入っていく方向性があってもいいかもしれません。
  • 藤井 いま学内で进めている议论の大きなヒントになります。
  • キャンベル 日本は有数の海洋国家です。マイクロプラスチックの问题、海产物などの食のサステナビリティも大いに贡献できるテーマです。せっかく藤井先生が総长になったので、海の问题に対しても强いメッセージを出してほしいですね。
  • 藤井 海の科学はこれまで専门家が高度な装置を使って行うものでしたが、これを専门家以外に広げたいんです。例えば、市民が海を调べて海の知を共有する新しい海洋研究として始めたのがです。简単な観测装置を作り、中高生や、渔业者、钓り人やサーファーなど海に関心を持つ人たちと共に考えるワークショップを続けてきました。こうした活动を経験すれば海が远い存在だった人も自分ごととして海を捉えられるはずで、そこに期待しています。
  • キャンベル 私は厂鲍笔(立ち漕ぎボード)が好きでよく乗っています。自分のボードにも翱惭狈滨のセンサを取り付けてみたいですね。
  • 藤井 どうもありがとうございます。先生の罢颈办罢辞办、チェックしますよ。

撮影協力:SHIBUYA QWS(渋谷キューズ) 渋谷スクランブルスクエアの15階に位置する渋谷キューズは、東京にキャンパスがある6大学(東大?東工大?慶大?早大?都市大?東京藝大)や企業をはじめとした会員が、未来に向けた新しい価値創造をともに進めるための活動拠点です。

※本学元理事?副学长の石井洋二郎先生が企画した创造的リベラルアーツセンター设立记念シンポジウム

写真:贝塚纯一

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