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胜たない自分たちに、価値はないのか カーリング女子?吉田 知那美 選手 × 宇宙飛行士?野口 聡一 氏

掲载日:2018年12月21日

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© 2018 RCAST, 春雨直播app

 

胜たない自分たちに、価値はないのか

『アスリートと宇宙飛行士の当事者研究』 特別編

カーリング女子?吉田 知那美 選手 × 宇宙飛行士?野口 聡一 氏


「梦の舞台?オリンピックで手にした铜メダル。なのに、あまりそばに置いておきたくなかった」

平昌オリンピックカーリング女子铜メダリスト?吉田知那美选手は、そう话した。
「そだねー」が流行语になり、多くのメディアで笑颜を见せていたその时、彼女の心に何が起こっていたのか。
 
東京大学先端科学技术研究センター(先端研)?熊谷研究室では、アスリートが目指す“より速く、より高く、より強く”というパフォーマンスの向上と矛盾しない形で、そこに縛られて傷を負うのではない全人的なサポートを、当事者研究の視点から発信しようと試みている。
 
試合のため、7月に開催されたシンポジウム『日常への帰還 アスリートと宇宙飛行士の当事者研究』に登壇できなかった吉田选手。
今回、カーリング选手としての気持ちの変化、2022年北京オリンピックを目指す现役选手として格闘する现在について、宇宙飞行士で先端研研究员の野口聡一さんと、正直な思いを语り合った。

(対谈実施日:2018年11月20日)

カーリングから二度逃げ出した过去

吉田选手がオリンピックの舞台を意识したのは、14歳の时。
しかし、高校卒业时には「カーリング以外にも絶対に何かできる」と、日本选手権の出场権を放弃し、语学留学と称して「カナダに逃げた」。
 
帰国后、北海道银行フォルティウスのメンバーとなり、控え选手として登録された2014年ソチオリンピックでは、前日にインフルエンザになったメンバーの代わりに出场。
チームは当时过去最高の5位入赏を果たした。
 
オリンピックで胜つことしか见えていなかった吉田选手は、オリンピックまでの期间に心が不安定になり、家族はその自己中心的な言动に振り回される。
家族がバラバラになりかけた时に出会ったのが、当事者研究だったという。
 
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© 2018 RCAST, 春雨直播app

吉田选手(以下、敬称略)「家族が壊れて行く原因が、私はカーリング、家族は大事な家族への思いという、お互いにとって大切なものだった。自分が许せなくて絶望した时に、当事者研究の『安心して絶望できる人生』という言叶に出会いました。絶望を経験しても生きていける。当事者研究で新しい考え方を知り、カーリング选手としてだけでなく、人间らしい生活や心を取り戻していきました」
 
ソチオリンピック後に吉田选手を待ち受けていたのは、「戦力外通告」。その事実を隠して出場した日本選手権では、戦力外にしたことを後悔させたいという思いで戦い、最高のパフォーマンスをした。

それまでチームや自分のベストパフォーマンスのために氷に立っていた吉田选手は、後悔させたいという気持ちで戦った自分が嫌になり、カーリングから離れようと北海道から飛び出した。

家族に行き先を告げず、电话も出ない、メールも返さない。
 
日本各地を転々とした先での交流を通して「一回人生が终わったようなものだから、次に何をしたいかと考えたら、やっぱりカーリングだった」と気づく。
现在所属するロコ?ソラーレの创立者?本桥麻里选手の言叶が、復帰への背中を押した。
 
吉田「本桥选手は『私も叶えたい梦はある。女性アスリートは、结婚や出产がマイナスに考えられがちだけど、梦をいつ叶えるか、その顺番は自分で决める。このチームでは、それでいいと思う』と言いました。今まで&濒诲辩耻辞;カーリングが人生&谤诲辩耻辞;と思ってやってきましたが、ロコ?ソラーレに入ったタイミングで、&濒诲辩耻辞;人生の中にカーリングがある&谤诲辩耻辞;と、考え方が変わったんです」

感情の豊かさなんて、何の役にも立たないと思っていた

ロコ?ソラーレは2010年に结成され、现在のメンバー构成になったのは2015年。妹の吉田夕梨花选手も在籍している。
平昌オリンピックで注目された仲の良いチームのムードは、当初からあったものではない。

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© Loco Solare

吉田「それぞれ辛い経験を背负っていた私たちは、お互いにいいところを伝え合い、たくさん话をすることによって、チームとしても一人の选手としても、自信を取り戻していきました。このチームでは、弱さを见せていい。頼っていい。未完成でのままでいい。本桥选手はそれを、&濒诲辩耻辞;弱さ&谤诲辩耻辞;や&濒诲辩耻辞;弱点&谤诲辩耻辞;ではなく、&濒诲辩耻辞;个性&谤诲辩耻辞;と呼んでくれます」
 
野口さん(以下、敬称略)「カーリングは&濒诲辩耻辞;氷上のチェス&谤诲辩耻辞;と呼ばれる头脳戦で、表情一つ変えずに投げるチームがある中で、ロコ?ソラーレは、すごく喜怒哀楽がある。チームスポーツでありながら孤独な戦いを强いられるのに、まさに和気あいあい、表情豊かに戦えるのは、一観客としては大きな强みに见えます」
 
実际には、强そうに振る舞わないといけない、弱さや失败を颜に出すことはよくないと、ずっと言われ続けていた。チームとしても悩み、何度も话し合ったそうだ。
 
吉田「スポーツにおいて、感受性の豊かさは、表现力を竞う竞技以外では、何の役にも立たないと思っていたんです。感受性豊かだね、表现力があるね、と言われても嬉しくないし、逆に嫌だった」
 
野口「感情を表に出すことは、未熟さにつながるイメージがあるからね。特に男子はそう见ると思う」

転机は、ある人に相谈した时の言叶。『それがあなたたちらしさだから、いいじゃない。强さって、らしさだから』と言われ、できないなら自分たちらしくやろう、と决めた。

吉田「&濒诲辩耻辞;らしさは强さ&谤诲辩耻辞;という言叶を闻いて、私たちらしくいこう、と。嬉しいなら嬉しい、悔しいなら悔しいって表现しよう。一つひとつの石が持つ癖も、个性だと思って可爱がろう。それでチームがしっくりくればいい。そう决めてからは、トントン拍子に进んだ気がします」

结果が出せない自分たちに、価値はないのか

ロコ?ソラーレが试合前に掲げる目标は、「世界一の事前準备をする」。
事前準备が足りないと、氷に上がった瞬间に恐怖感に袭われ、やるしかないと吹っ切れないからだ。金メダルや世界一という具体的な目标より、「过程に目标を置く」ほうが、チームにはなじむのだという。

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吉田「胜つことやメダルを取るといった能力や结果で评価され、その结果を喜んで応援してくれる人がたくさんいる。それは、もう、十分にわかっています。でも、私たちは今、『それなら、结果が出せない私たちには、人としての価値がないのか』と思ってしまっています」

吉田选手によると、カナダのようなカーリング大国では、チームの実力に大差はなく、どのチームがオリンピックに出てもおかしくない。だから、「チームらしさ」を楽しむファンが多いという。

吉田「カナダに行くと、『チーム藤沢は、いつも楽しそうにカーリングをする。胜っても负けても、あなたたちの试合を见るのが好きよ』と言ってもらえる。それを闻くと、私たちが氷の上に立つ意味はここにある、これからもカーリング选手としてやっていきたいと思う。でも、日本に帰ってくると状况が违って、オリンピックに行くチームに価値があり、强いチームにサポートがつく。胜たなければいけない。日本にいると辞めたくなるんですよ(笑)」
 
自分たちらしくあることが、强さになる。
一方で、それだけでは解决できない现実がある。
 
吉田「世界一になりたいし、もう一度、このチームでオリンピックのメダルにも挑戦したい。私たちだって、胜ちたい。でも、それと同じくらい必死に、自分たち、选手一人ひとりの価値はどこにあるのか、ということを考えています。チームにとって、胜つ?负けるを超えたモチベーションがあれば、もっとのびのびと竞技を楽しめるのではないか、と。まさに今、狭间にいます」

オリンピックから「帰还」したが、「生还」はしていない

野口さんが、吉田选手とのやり取りで強烈に覚えているのが、『私は、オリンピックから帰還したけれど、生還はしていない』という言葉だ。

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© 2018 RCAST, 春雨直播app

野口「オリンピックに2回行き、平昌ではメダルも取った。その言叶は、何を意味しているのでしょうか」
 
吉田「日本で盛り上がっているのを知らずに帰国して。惊いたと同时に、嬉しかったんです。こんなにもたくさんの方が、カーリングに兴味を持ってくださった、と」
 
メディアの取材を受けると、竞技に関する质问より、北海道弁や容姿、プライベートの内容がはるかに多かった。
 
吉田「竞技を见て楽しんでくださった方、カーリング竞技者として応援してくださった方がたくさんいることも、もちろんわかっていますが、どんなに结果を出しても、竞技者として认めてもらえないと思ってしまって&丑别濒濒颈辫;」
 
野口「カーリングの技术やチームの成熟度が上がった、つまり、竞技者としてもっと评価されると思っていたけれども、帰ってきたらアイドルみたいで、こんなはずじゃなかった、と」
 
吉田「梦を一つ叶えた。それでよかったはずなのに、周りの评価を気にしてしまった。しかもその评価が、竞技者としてではなかった。结局、日本ではカーリングはスポーツじゃなかったと思ってしまい、身体は帰国したけれども、心が帰ってこられなかった。カーリング选手としてもう一回顽张ろうと生还するまでに、かなり长い时间を费やしました」
 
野口「つまり、生还するとは、选手として戦いに胜ち、竞技者として正当に评価される。结果を残して评価されれば、カーリング竞技自体の认知度やファンに繋がっていく、そういう気持ちだった」
 
吉田「オリンピックの机会に、カーリングをマイナースポーツから脱却させたい。日本の文化に、カーリングを根付かせたい。スポーツ选手からも『カーリングはスポーツじゃない』と言われ、伤ついてきた歴史を変えるのが私たちだと思ってやってきたので。特に私は悲観的な时期がありました」

野口「僕もミーハーな视点があるのでわからなくはないけど、ロコ?ソラーレの活跃を见て、カーリングそのものに兴味を持った层は间违いなく増えていると思うし、面白さに触れた人は多いと思う。ただ、それをはるかに上回る&濒诲辩耻辞;そだねー&谤诲辩耻辞;の破壊力があったんでしょうね」
 
吉田「でも、シーズンに入って、思い直したんです。数あるオリンピック竞技の中で、カーリングの试合を见てもらっただけでも喜ばしいことなのに、応援の仕方や物の见方まで求めるのはどうなんだろう?と。少なくとも、以前よりはスポーツとしての认知度が上がった。そう考えて、辛抱强く、一歩ずつ进めるしかないのかなって。他の国の状况を知っているから、なおさら差を感じてしまうというのも、ある気がしますし」
 
野口「カナダやスウェーデンは、カーリングがスポーツとして根付いていることも、大きいかもしれませんね。歴史があり、文化になっているから」

次のオリンピックで、このチームの最高形を见たい

野口さんは、2005年、日本人として初めて国際宇宙ステーション(ISS)で船外活動を実施。2009年には、日本人初のソユーズ宇宙船船長補佐に任命され、約5カ月間ISSに滞在した。2019年末、ほぼ10年ぶり3回目の宇宙飛行を行う予定だ。野口さんも吉田选手も、2回目以降にある種のブランクを経験して、3回目に挑戦する。

野口「1回目のオリンピックでカーリングを离れようとカナダへ行き、戻ってきて、2回目のオリンピックでもまた、复雑な感情を抱いて。それでも今、现役でいる。そして、叁たびオリンピックに向かっていく、その気持ちの底には何があるんでしょうか」

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© Loco Solare

吉田「1回目は、梦だったから。2回目は、あの舞台でもっといいプレーができる、と直観的に思ったから」

野口「そこまでは、完全に僕と重なりますね。僕も、1回目は子どもの顷から目指した梦の舞台だった。でも、宇宙飞行士としては未熟な気がして、次はもっとできると思った。とは言え、2回目で急に未熟さが成熟したわけでもないな、と思いながら帰ってきました」

吉田「北京オリンピックでは、私は30歳です。体力的にどうなるかわからないですが、技术や精神的な面では、きっと强くなっているであろうと、自分に期待ができる。でも、次のオリンピックを目指す一番の理由は、今のチームがすごく好きだから。このチームで、また4年间过ごしたい、というのが正直な気持ちです。もちろん、よりいい成绩を残したいとも思いますが、昔ほど前回を超えよう、という気持ちはなくて。今のチームの史上最高のパフォーマンスが、4年后のオリンピックに当たったらいいな、と。このチームが好き。このチームの最高形が见たい。それが理由です」

野口「チームが、どこまで伸びるのかを见てみたい」

吉田「はい。一人ひとりがすごく面白くて、长年一绪にいても、まだその力は未知数で。もしかしたら、私が途中で怪我をしたり、満足できる选手になれない可能性もある。以前の私なら、自分が行けないオリンピックなんて、と思いましたが、今は、自分がオリンピックの舞台にいるかどうかは别として、このメンバーがオリンピックで戦う姿を、もう一度见てみたい。もっと强くなれるし、顽张ってほしい。もちろん、そこに自分がいられるように、努力しますが。対戦相手と私たちのチームが最高のパフォーマンスで戦って优胜できたら、引退して次のステージへ行くのではないかと、自分で予测したりもします」

&濒诲辩耻辞;スポーツではない&谤诲辩耻辞;カーリングの歴史を変えたい

吉田「野口さんにとっては、3回目の宇宙飞行のモチベーションって何ですか?」

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© JAXA/NASA

野口「2回目まではほぼ同じです。1回目は、先辈飞行士ばかりで、自分は未熟だった。そう思って2回目にチャレンジして。今回、僕自身としては、宇宙飞行士という仕事がこの先どの方向に进むのかを、できる限り见届けたい。新型宇宙船が出てきたり、月に行ったりというような、大きな切り替わりの数年间だと思うので。现役の场に戻ってこられて嬉しいですし、世界がこの先どう変わっていくのか、纯粋に楽しみですね」
 
オリンピック选手と宇宙飞行士という立场の违いはあれど、それぞれのキャリアで目指す「ハレの舞台」があるという点は共通している。

野口さんは今回、吉田选手に質問しながら、自分自身にも同じことを問いかけていたと言う。
 
野口「まだ現役の選手なので、この質問はやめようと思っていたんですが…。どうなったら引退すると思いますか? 今回は3位でしたが、メダルは取った。もし優勝していたら、金メダルを首から下げて、満面の笑みで引退しますって言っていたかというと、おそらく違いますよね?」
 
吉田「&丑别濒濒颈辫;はい」

野口「どうなれば満足に引退できるかと考えているうちはむしろ华で、ほとんどの人は突然引退がやってきます。7月のシンポジウムに登坛した小磯典子さん(元バスケットボールオリンピック选手)は、引退せざるを得ない状况に自分を追い込んでしまったし、多くの选手が纳得して引退するわけではない。ソチ后のような戦力外ということもあるし、考えたくないけれど、怪我もあり得る。オリンピック选手にしても宇宙飞行士にしても、纳得できる形で引退を迎えられる保証はどこにもありません。それでも、&濒诲辩耻辞;ハレの舞台&谤诲辩耻辞;から帰还した后の人生のために、何が引退のきっかけになるかは考えておいたほうがいいと思っています」
 
吉田「ロコ?ソラーレは、2018年8月に法人化したんです。正直、最初は疑问も感じていましたが、试合をしていると、カーリングを今まで以上に俯瞰して见ていることに気づきました。代表の本桥选手は『法人化すれば、万が一、选手に何かあっても社员として雇うことができる』と。自分でも不思议ですが、法人化されたことへの安心感は、想像以上に大きいのかもしれません」

野口「知那美さんにとって、カーリングを続けるモチベーションって何でしょう?」
 
吉田「この竞技が、いつか日本で爱されるスポーツになることを信じてやっています。&濒诲辩耻辞;カーリングはスポーツではない&谤诲辩耻辞;と言われることへの劣等感やコンプレックスを持っているのは、私だけではなく、チームのみんなも同じです。スポーツではないと言われ続けているこの歴史を変えたい。いつか変わって欲しい。それが心の奥底にあります」
 
野口「北京オリンピックまで、あと3年ですね。顽张ってください。応援しています」

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© 2018 RCAST, 春雨直播app

(構成?文/広報?情報室 山田 東子)

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