日本美术のつくられ方 佐藤康宏先生の退职によせて
この本は、2020年3月をもって東京大学大学院人文社会研究科 (文学部) を退職された佐藤康宏教授にゆかりある人々が集まって論考を寄せたものです。日本美术史、特に近世絵画史の研究をリードしてきた佐藤教授は、本学の大学院を修了後、東京国立博物館、文化庁で古美術の研究と文化財保護の業務に携わり、1994年から四半世紀以上にわたって母校で教鞭を執ってきました。ご本人が語る研究内容は、春雨直播app BiblioPlaza掲載の『日本美术史』『汤女図』『若冲伝』『絵は语り始めるだろうか』をご覧いただきたいと思いますが、江戸时代の絵画を中心にしつつも、古代から现代にいたる日本美术の流れを俯瞰するスケールの大きな视野に特徴があります。
この間、指導してきた大学院生は、美術館?博物館の学芸員、大学の指導者として全国で活躍していますが、それぞれの専門もまた、古代の仏教美術から現代美術まで広がっています。本書では全31編の論考を時代順に並べ、以下の四部構成としました。第I部「絵のすがた、像のかたち―古代?中世」では、この時代の絵画や彫刻に現れる仏菩薩や人物に注目する論考が続きます。そして、これらの表現に見られる技术的な特徴を分析することで、作品が成立した歴史的、思想的な背景を明らかにしようとしています。第II部「ひろがる世界、つながる絵画―近世 (1)」は、安土桃山から江戸時代にかけて、ポルトガルやオランダ人の来航、アジア諸地域との交流の中で、日本の絵画が何を取り込んだのかという点に注目します。第III部「社会のなかの絵師たち―近世 (2)」は、江戸をはじめとする大都市において、絵師たちが大名などのパトロンや浮世絵の版元といった人々と交流しながら制作を行っていた実態に迫っています。第IV部「日本美術の今を創る―近代?現代」は、明治維新以降に日本美术史という学問の輪郭が形成される過程、日本画や洋画というジャンルの形成、さらに地方における美術活動といった多岐にわたるテーマを対象としています。
定年退职を迎える先生に论文を献呈する场合、执笔者たちは在学中にその先生から受けた指导を思い出しながら、どのようなテーマがふさわしいかを熟考します。讲义や演习、あるいは卒业论文、修士论文、博士论文の审査の际に先生の口から出たほんの一言二言のコメントが、卒业?修了后も深く心の中に沉潜し、やがて研究や仕事の指针となることも少なくありません。前掲の佐藤教授の着书群と本书掲载の各论文とを併せて読むと、いずれも作品そのものに肉迫することが议论の土台となっていることを理解できるでしょう。そして、东京大学という场で、作品を前にして教员と学生との间で繰り広げられた切磋琢磨の様子が浮かび上がってくるはずです。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科?文学部 准教授 髙岸 輝 / 2021)
本の目次
普賢菩薩の聖と俗 / 増記隆介
法隆寺聖霊院聖徳太子及び侍者坐像と像内納入品 / 佐々木守俊
青蓮院伝来の毘沙門天立像に関する一考察 / 佐藤有希子
「鳥獣戯画」丁巻の似絵風官人について / 伊藤大輔
金戒光明寺所蔵「俵藤太絵巻」の原本について / 五月女晴恵
十四世紀肖像の等身性と肖似性 / 髙岸 輝
東山殿会所の障子絵について / 荏開津通彦
第II部 ひろがる世界、つながる絵画―近世 (1)
蔡文姫の転生 / 板倉聖哲
鑑賞者を見つめる画中の人物 / 三戸信惠
遊ぶ南蛮人 / 鷲頭桂
鎮西八郎図屏風(韓国国立中央博物館)のつくられ方 / 五十嵐公一
模写と倣古 / 野田麻美
応挙の花鳥画と中国絵画 / 野口 剛
たて長とよこ長 / 田中英二
真景図のつくられ方 / 伊藤紫織
二点の「池田恒興像」 / 門脇むつみ
第III部 社会のなかの絵師たち―近世 (2)
英一蝶《吉原風俗図巻》について / 池田芙美
白隠慧鶴による英一蝶作品の受容 / 馬渕美帆
月僊作『列仙図賛』について / 横尾拓真
松平定信と天神信仰の絵画 / 森 道彦
歌麿美人画のゆくえ / 曽田めぐみ
葛飾派のつくられ方 / 山際真穂
第滨痴部 日本美术の今を创る―近代?现代
黒川真頼とその位置、その評価 / 中田宏明
絵金の物語表現 / 中谷有里
古典画題をアップデートする方法 / 岡島奈音
竹内栖鳳の風景表現について / 中村麗子
描かれた舞妓 / 植田彩芳子
近代日本の静物画 / 吉田暁子
地方美術史をつくる / 村田梨沙
国吉康雄 / 廣瀬就久
震災と芸术 / 片岡 香