ちくま新书 近世史讲义 女性の力を问いなおす
日本近世とはおおむね江戸时代を指すが、当时も人口の半分は当然、女性だったのだから、日本近世史の概説书であれば、女性に関する话题、女性が登场するテーマが半分近くあってもおかしくはないはずだ。しかし実际は、まったくそうはなっていない。なぜだろうか?
最大の原因は史料にある。文字はもともと、支配者层が支配や统治のために普及させてきたという侧面があり、现在までに残される史料も、当然、支配や统治、政治に関するものが多くなる。江戸时代の支配者は武士であって、武士はみな男である。もちろん武士にも妻や娘はいるが、女性が政治的な役职に就くことはない。男である武士?役人が、その立场から书いた史料が圧倒的に多くなる。
武士は村を构成する百姓から年贡を取ることで存立した。百姓は小家族の农家が中心で、渔村や山村では渔业や林业などに従事したが、机械化が进んでいない当时はいずれも厳しい力仕事であった。そのため百姓の家も男性当主の労働が中心を占め、领主の御用や村の自治に関わる村役人もみな男性であった。近世には村に膨大な古文书が残されるようになるが、それを书いたのも男である村役人である。
町人でも事情はそれほど変わらない。武士や百姓と同じような男性当主を中心に男系で継承されるイエを形成していたからである。町人は商人と职人であるが、商人はもともと危険を冒して远隔地へ商いに出向くのが本来のなりわいであり、职人にも远出や力仕事はつきまとった。そのため町人として町に定着させられるようになっても、男性が家业として営む形态が中心となった。ただし「赁仕事」とよばれる洗濯や雑用?小商い、あるいは机织りなどで女性が现金収入を得られる机会も、次第に増えていった。
こうした家や村、武力や力仕事が重视された社会では、男性が公的な役割を独占して史料を残し、女性の姿は见えにくくなる。もちろん女性が登场する场面を切り取ってくるだけならそれほど难しくない。これまでも女性史は描かれてきた。问题は、女性の姿や実态を明らかにすることによって、近世社会像を刷新することができるかどうかである。男性中心に残される史料の先に、女性の存在を浮かび上がらせ、その役割を的确に位置づけることは、当时の政治?経済?社会そして史料に精通した上ではじめて可能になる熟练の业なのである。
本书の执笔者は3人を除いてすべて女性で、しかも近世の政治?経済?社会?宗教?外交?思想それぞれの分野に精通した第一人者ばかりである。その结果、女性の活动だけを抜き出した女性史ではなく、女性を含み込んだ日本近世史の达成を読むことが可能になった。新书として読みやすく书かれているが、どの章も、一文一文に多くの蓄积が込められている。执笔者がさりげなく书いている一文に込められた境地や、女性をみることによって得られる新しい近世史の见え方に留意してお読みいただきたい。
なお私は、ほんの露払いをしただけだが、执笔に当たって、后に控える錚々たる「女性の力」に押され、他の企画にはない强い紧张感を味わったことを告白しておこう。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科?文学部 准教授 牧原 成征 / 2020)
本の目次
2. 徳川政権の確立と大奥―政権期の成立から家綱政権まで 福田千鶴
3. 天皇?朝廷と女性 久保貴子
4. 「四つの口」―長崎の女性 松井洋子
5. 村と女性 吉田ゆり子
6. 元禄時代と享保改革 高埜利彦
7. 武家政治を支える女性 柳谷慶子
8. 多様な身分―巫女 西田かほる
9. 対外的な圧力―アイヌの女性 岩﨑奈緒子
10. 寛政と天保の改革 高埜利彦
11. 女性褒賞と近世国家―官刻出版物『孝義録』の編纂事情 小野 将
12. 近代に向かう商品生産と流通 髙部淑子
13. 遊女の終焉へ 横山百合子
14. 女人禁制を超えて―不二道の女性 宮崎ふみ子