歴史文化ライブラリー 江戸の出版统制 弾圧に翻弄された戯作者たち
娯楽小説が出版され、不特定多数の読者がほぼ同時期にそれを読む。現代では珍しくもないことだが、こうした読書のしかたが生まれたのは印刷技术が民間に普及し、商業的な出版がおこなわれるようになった江戸時代以降である。
本書がとりあげるのは、江戸時代後期 (18世紀中頃~19世紀) の江戸で出版された娯楽小説と、それに対する出版統制、および自主規制の問題である。
当時の江戸では、戯作 (げさく) と呼ばれる娯楽小説が多数作られていた。豊富な挿絵をもつ黄表紙 (きびょうし) や合巻 (ごうかん)、遊里を描く洒落本 (しゃれぼん)、伝奇的な歴史小説といっていい読本 (よみほん)、男女の恋愛模様を綴った人情本 (にんじょうぼん) などである。
戯作ということばは、もともとは戯れの着作、知识人の余技としての执笔という意味をもつ。しかし江戸时代后期の商业出版に组み込まれた戯作は、単なる趣味の产物ではない。版元にとってそれは商品である。つまり、それが売れるかどうか、出版にかけた费用が回収できるかどうかが重要な问题となる。
売れるものにするためには、二つのことがポイントになる。読者の需要に応じた内容であることと、书籍を取り缔まる法令に违反しないことである。
戯作に対する取り缔まりの根拠となる法令は、好色本の絶版などを命じる享保七年の出版条目であった。以后の取り缔まりは、この法令に新たな规制や制度を付け加えるかたちで进められている。
本书では、寛政の改革、文化期、天保の改革という概ね叁つの时期に焦点をあて、それぞれの时期に戯作に対してどのような统制がおこなわれ、作り手たちがそれにどのように対処してきたかを、具体的な事例を取り上げて述べた。
寛政の改革に伴う黄表纸や洒落本の絶版、戯作者山东京伝の処罚、天保の改革に伴う人情本や合巻の絶版、戯作者為永春水の処罚などは、比较的よく知られるところである。本书では、それらに加えて、一般にはあまり知られていなかった文化期の表现规制についても详しく言及した。
戯作に対する规制は、好色本と见なしうる着作の禁止や、悪人?怪异描写の制限などにとどまらず、作中の时代设定や、装丁上のことがらにまで及んだ。娯楽小説に过ぎない戯作が、なぜそこまで厳しい统制を受けることになったのか。その答えは、本书を読んで考えていただければと思う。
江戸时代は现代と地続きである。江戸の戯作に対する统制の歴史や作り手による自主规制の実态を知ることは、现代の表现规制や自主规制の问题について考えるうえで、多くのヒントを与えてくれるだろう。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科?文学部 准教授 佐藤 至子 / 2018)
本の目次
寛政の改革と黄表纸
山东京伝と笔祸
文化期の出版统制
天保の改革と人情本?合巻
戯作の生命力―エピローグ
あとがき
主要参考文献
関连情报
雨宮由希夫 (書評家) 評 (週刊読書人ウェブ 2018年1月6日)
出版统制をめぐる攻防の歴史を体系的に跡付ける