それでも、日本人は「戦争」を选んだ
大学の教師というのは、「わかったことを、わかりにくく教える」のを、恥ずかしながら本分としているので、かくいう私も、本や史料を一人で静かに繙くのは大好きなのですが、目の前の学生?生徒に教えるのは実のところ苦手でした。ところが、何を血迷ったものか、実際の中高生 (神奈川県の栄光学園の生徒さん) に向けて5日間にわたってお話しした講義風景を本にしてしまいました。それがこの本です。
ふだん私は、後期課程の学生に日本近代史を講じていますが、一度だけ、前期課程の学生に向け、日本近代史の講義を行なったことがありました。専門を決定する前の学生を相手にした講義は、思いのほか自分にとって面白く、講義ノートを元に『戦争の日本近現代史』(講談社現代新書、2002年) という本を出してしまったほどでした。日清戦争から太平洋戦争まで、10年ごとに大きな戦争をやってきた国である日本にとって、戦争を国民に説得するための正当化の論理には、いかなるものがあったのか、それを正確に取り出してみようとの目論見が、私にはありました。
本書は、扱う対象こそ『戦争の日本近現代史』と同じですが、少し視野を広くとり、たとえば、序章では、(1) 9?11テロ後のアメリカと、日中戦争期の日本に共通する対外認識とはなにか、(2) 膨大な戦死傷者を出した戦争の後に、国家が新たな社会契約を必要とするのはなぜか、(3) 戦争は敵対する国家の憲法、社会を成立させている基本原理に対する攻撃というかたちをとるとルソーは述べたが、それでは太平洋戦争の結果、書きかえられた日本の基本原理とはなにか、などの諸論点を、生徒さんのやりとりの中で考えています。戦争というものの根源的な特徴を、時間をかけて抽出してみたいと思ったのです。
つまるところ、日本がかかわった、その时々の戦争は、国际関係、地域秩序、当该国家や社会に対して、いかなる影响を及ぼしたのか、また、时々の戦争の前と后ではいかなる変化が起きたのか、本书のテーマはここにあります。自国民、他国民を共に絶望の渊に追いやる戦争の惨祸が繰り返されながらも、戦争はきまじめともいうべき相貌をたたえて、起こり続けます。皆さんには、自分が作戦计画の政策立案者であったなら、自分が満州移民として送り出される立场であったなら、などと本书を読みながら想定して欲しいと思っています。
本書は優しいタッチのカバーがついています。しかし、内容は決して簡単なことを述べてはいません。また、日本史の叙述が陥りがちな、日本を中心とした天動説ではなく、中国の視点、列強の視点も加え、最新の研究成果もたくさん盛り込んであります。日本と中国がお互いに東アジアのリーダーシップを競り合った結果としての日清戦争像や、陸海軍が見事な共同作戦 (旅順攻略作戦) を行なった点にこそ新しい戦争のかたちとして意義があったとロシア側が認めた日露戦争像など、見てきたように語っております。是非ご一読を。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科?文学部 教授 加藤 陽子 / 2018)
本の目次
序章 日本近代史を考える
1章 日清戦争――「侵略?被侵略」では見えてこないもの
2章 日露戦争――朝鮮か、満州か、それが問題
3章 第一次世界大戦――日本が抱いた主観的な挫折
4章 満州事変と日中戦争――日本切腹、中国介錯論
5章 太平洋戦争――戦死者の死に場所を教えられなかった国
関连情报
受赏:
第9回 小林秀雄賞受賞 (2010年)
「カリスマ書店員が選ぶ、2009年 最高に面白い本大賞」
歴史、ノンフィクションの2部門1位 (雑誌『一個人』09年1月号)
紀伊國屋書店スタッフが選んだ今年のベスト30 キノベス2009 6位 (2009年)
読売新闻 読书委员が选ぶ「2009年の3册」(2009年)
东京新闻 「2009年の3册」(2009年)
毎日新闻 「2009年この3册」(2009年)
週刊現代 「2009年最高のノンフィクション1位 (2009年12月26日)
着者インタビュー:
「戦争 自分ならどうする」 (読売新聞 8月14日)
朝日ニュースター「ニュースの真相」出演
BSフジ「LIVE PRIME NEWS」出演
「昔の英知の苦しみ 知って」(毎日新聞 8月14日)
书评:
諸富徹 評 (ひもとく) 中高生向け講義 学問のエッセンス広く伝える (朝日新聞 2019年1月19日)
「解説」から読む本 解説 by 橋本治 (HONZ 2016年6月30日)
歴史を見る目のつくりかた (日経ビジネスオンライン)
斎藤哲也「明治?大正?昭和史ってこんなに面白かったの!?」(2010年3月4日)
鹤见俊辅「现代のことば」(京都新闻夕刊 2009年10月26日)
『最高の本! 2010』永江朗さんが選ぶ、2009年のノンフィクション本 (マガジンハウス)
NHKラジオ「あさいちばん」著者に聞きたい本のツボ (2009年10月31日放送)
小柳学 評「売れてる本」(朝日新聞 2009年9月20日)
内田樹 評 (『プレジデント』2009年10月19日)
佐藤和歌子、小玉清 「週間ブックレビュー」 (『NHK BS2』2009年9月12日放送)
佐藤優 評 (『文藝春愁』2009年10月号)
森達也 評 (『本の花束』)
保阪正康 評 (共同通信)
香山リカ 評 (『週間ポスト』2009年10月2日号)
池谷祐二 評 リレー読書日記 (『週刊現代』2009年9月19日26号)
成田龍一 評 (『中日?東京新聞』2009年9月20日)
池内紀 評 (『ミセス』2009年12月)
仲俣暁生 評 (『婦人公論』2009年10月22日)
沼野充義 評 (毎日新聞 2009年8月16日)
福田和也 評 「福田和也の世間の値打ち」 (『週刊新潮』2009年8月27日号)
鹿島茂 評 「私の読書日記」(『週刊文春』2009年8月27日号)
週刊東洋経済 (2009年8月15-22日号)
産経新聞 (2009年8月16日)
AERA (2009年8月31日号)
日本経済新聞 (2009年8月30日)