Scientific Reports 6 "Flickering task-irrelevant distractors induce dilation of target duration depending upon cortical distance"
本書は、「Scientific Reports」に2016年に掲載された、時間知覚に関する論文である。「Scientific Reports」は、Nature Researchが発刊するオープンアクセスの電子ジャーナルであり、自然科学 (生物学、化学、物理学、地球科学) のあらゆる領域を対象としている。自然科学の特定分野の専門家が関心をもつような研究論文を迅速に査読して出版できる環境を備えており、2016年度のインパクトファクター (学術雑誌の影響度、引用された頻度を測る指標) は5.228と高く評価されている雑誌である。本論文では、「明滅した課題無関連の妨害刺激が、皮質間距離に応じて標的刺激の知覚時間の延長をもたらす」という現象を報告している。我々は、時計の情報を用いずに、時間の長さをある程度見積もることができる。このように時間を知覚することは、日常生活において必須の能力ではあるものの、その知覚はしばしば不正確になることが知られている。たとえば、チカチカと明滅を繰り返す視覚刺激の時間長は、静止した視覚刺激の時間長よりも長く知覚される。この知覚時間の延長現象について調べた多くの研究では、刺激の明滅の速さや周期性を変化させる等して、どのような要素が知覚時間の延長をもたらすのかについて検討してきた。本研究では、注意を向けて時間長を測定するべき目標刺激と、課題とは関係がなく注意を向けるべきではない妨害刺激、二つの刺激を用いることにより、妨害刺激の明滅によって、静止した目標刺激の知覚時間が延長するということを明らかにした。さらに、脳における、静止刺激を処理する皮質と、妨害刺激を処理する皮質との間の距離に応じて、知覚時間の延長量が変化するということも示した。脳内の視覚情報処理の初期段階では、左視野の情報は脳の右半球で、右視野の情報は脳の左半球で処理される。したがって、たとえば目標刺激と妨害刺激がともに右視野に呈示された場合には、情報処理の初期段階ではどちらの刺激も左半球内で処理される。一方、目標刺激が右視野に呈示され、妨害刺激が左視野に呈示された場合には、目標刺激は左半球で、妨害刺激は右半球で処理される。二つの刺激が同一半球内で処理される場合は、異なる半球で処理される場合よりも、明滅する妨害刺激による知覚時間の延長量が大きくなっていた。この結果は、課題とは無関連の明滅刺激が引き起こす神経活動が、皮質間接続を通じて別の刺激の知覚時間を延長させたことを示唆する。本論文によって、時間を知覚する上でどのように情報処理がなされているのかについての知見が深められた。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 准教授 四本 裕子 / 2017)
本の目次
Abstract
Introduction
Results and Discussion
General Discussion
Methods
References