オペラの20世纪 梦のまた梦へ
21世紀の現在、オペラは終わってしまったジャンルなのだろうか? 過去のジャンルとして葬り去られるままのものなのだろうか? いやそうではない、「オペラは終わった」と言われ続けた20世紀にも、依然としてオペラ創作は -- それまでとは相貌を変えながら -- 続けられ、作曲家や聴衆の関心を呼び、同時に大きな社会的意義を持った上演形態を存続させていた。本書は、さまざまなサブテーマのもとで20世紀オペラを捉え直すことによって、最終的にはその面白さを伝えるべく書かれたものである。
プッチーニやR.シュトラウスといった一部の人気作曲家の作品を除き、オペラ上演という制度のなかでは依然として難しい位置にある前衛的?実験的なものを含む20世紀オペラ作品を包括的に扱いながら、その歴史的、社会的、政治的、思想的、美学的、芸术的な意義を丹念に論じた著作であり、このテーマの単著としては世界にも類例のない大部のものである。
记述はロッシーニやヴェルディ、ヴァーグナーに代表される「オペラの世纪」とも言える19世纪からの连続性と不连続性を説き起こすところから始まり、新たな世纪にオペラが直面することになった存続の危机やその乗り越えと、创作の再活性化の歴史が、多くの具体的な作品に即してのみならず、歌剧场、组织、社会情势といった制度的な侧面を视野に入れながら论じられていく。
分析のツールとしては、従来の楽谱中心的な音楽学の方法论が用いられるだけではなく、批判理论やジェンダー论、ポストコロニアル理论、パフォーマンス理论といったものも必要に応じて自在に駆使されており、それら多くの方法论を取り込んだ音楽学の现在がどのようにオペラというジャンルを扱えるのかということを、多角的な视野から検証する実践的な取り组みでもある。オペラというジャンルを通して、音楽学の现在を逆照射することも意図されている。
扱われる対象も、中央ヨーロッパで书かれ上演されているオペラだけではなく、むしろヨーロッパの周縁地域や南北アメリカでの创作を含んでおり、またこれまでなかなか论じ切れていなかった両大戦间の创作についてもかなりの纸面を割いており、オペラというジャンルを复数の个别的な连続线のなかで捉えながら、大きな歴史を描いていく努力もなされている。
「知らないと損をした気分になる面白い」作品が豊富にある20世紀オペラという世界へ読者を誘う本書は、その成果が認められて、平成27年度 (第66回) の芸术選奨文部科学大臣賞を受賞した。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科?教养学部 教授 長木 誠司 / 2017)
本の目次
第滨部 オペラはヨーロッパのものだった
第1章 凋落するイタリア?オペラ
第2章 オペラのモダニズム
第3章 ヴェリズモからファシズムへ
第4章 ポスト?ヴァーグナー -- リヒャルトの遺産
第5章 ヴァーグナーの直系たち -- メルヒェンと英雄と
第滨滨部 オペラにおける中心の丧失
第6章 国民国家のオペラ
第7章 新大陸のオペラ文化 -- 文化的植民地から独自文化への道のり
第8章 20世纪の復古主义
第9章 オペラの危機 -- 第一次世界大戦後の壊乱 (1)
第10章 オペラ改革の20年代 -- 第一次世界大戦後の壊乱 (2)
第11章 ロシア?オペラの20世纪
第滨滨滨部 政治と暴力とセックスと
第12章 国民オペラの変容 -- ヴィシーを用意したオペラ
第13章 ファシズム时代のオペラ
第14章 シェーンベルク、ノーノ、ラッヘンマンのオペラへの <道> -- 無調と暴力の表象不可能性
第15章 オペラとセクシュアリティ
第滨痴部 変容するオペラ
第16章 室内オペラの诞生と展开
第17章 文学オペラの行方
第18章 レパートリーと演出の时代
第19章 20世纪の声
第痴部 オペラはどこへ?
第20章 第二次世界大戦后のオペラの概况
第21章 戦后前卫のオペラ创作
第22章 オペラの解体 -- <オペラとドラマ> から <ポストドラマ> としてのオペラへ
第23章 アンチ?オペラ / アンチ?アンチ?オペラ
第24章 わたしたちのオペラ / あなたたちのオペラ -- 1970~80年代の転換と再燃
第25章 オペラの逆襲 / オペラへの逆襲 -- ミニマル?オペラと新ロマン主義
関连情报
平成27年度 (第66回) 芸术選奨文部科学大臣 (平成28年3月9日)
評論その他部門 | [オペラ史研究] 長木誠司『オペラの20世纪―梦のまた梦へ』
新刊绍介:
長木誠司(著)『オペラの20世纪 梦のまた梦へ』(表象文化論学会ニューズレターREPRE 2016年 vol.26)
书评:
音楽評論家、澤谷夏樹が読む『オペラの20世纪 梦のまた梦へ』長木誠司著 世界を眺めるための視点 (産経ニュース 2015年12月6日)
<本の棚> 終わらない夢、 起きてもまた見てしまう夢 (渡邊日日 評) (教養学部報 第581号)